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1章

パーティーに招待された

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 翌日。アンジェの元に突然来客があった。


 「君が我が親友、ルーンの奥さんだねっ!」


 金色のおかっぱの髪をなびかせながら、男性は愉快そうに笑う。
 ビシッと決まった赤のスーツに身を包んだその人物は高笑いをし始める。

 何とも癖の強そうな客人である。

 アンジェは、変な人が来たな…と若干困った様に顔を顰める。しかし、客人に対して失礼な態度を取ってはいけない。
 アンジェはニコリと微笑み、彼を迎える。

 長い脚を組み、男はニコニコと笑みを浮かべながらアンジェを見つめている。
 別に不快な気持ちにはならないが、こうもずっと見つめられるのは気恥しい。
 イリスがお茶の準備を終え、応接室に来てくれた時にはとても安堵した。
 この突然現れた客人は、アンジェ一人に手に負えないと思っていたからだ。


 「ルーンから話は聞いてるいよ! 十二歳の若い奥様だとねっ! 私はノーニアス。フェルセフ商会の代表であり、ルーンの友人であり、魔法使いだよ」


 「魔法使いっ!?」


 思わずアンジェが声を上げれば、ノーニアスは嬉しそうに笑う。どうやらアンジェの反応に満足した様だ。

 この世界は魔法を使う人間を二つに分類する。
 一つがルーン等の様に攻撃魔法や身体強化魔法。治癒魔法などを得意とする魔導師。
 そして二つ目が占いやまじないを得意とする魔法使いだ。こちらはかなり珍しく、滅多に居ない。


 「君には特別に占いをしてあげよう」


 ノーニアスはそう言うと、パチンと指を鳴らす。
 すると次の瞬間、テーブルの上に水晶玉が現れた。
 何処から音もなく現れたそれにアンジェが驚いていると、ノーニアスは水晶玉に手を近付ける。


 (魔法使いの占いと言えばかなり当たるって噂だし、もしかして水晶玉に手をかざして占うのかな?)


 魔法使いは見た事ないが、よくリアとかつて世界一の魔法の使い手とされていた魔法使いミルの冒険譚を愛読していたアンジェには占いがどういったものかを理解していた。

 水晶玉にノーニアスの細くて綺麗な指先が近づいていく。
 ゴクリとアンジェが息を呑めば、次の瞬間、ノーニアスが水晶玉を掴み、そして勢いよく叩き割った。


 「えっ!?」


 あまりにも間抜けな声が出てしまった。
 しかし、驚かずにはいられなかった。

 目の前に飛び散るガラスの破片。
 水晶玉は木っ端微塵となり、辺り一面に飛び散っている。
 イリスが「お怪我はありませんかー!?」と顔を真っ青にしてアンジェに駆け寄って来た。


 「あの…占いは?」


 「今のが占いですとも!」


 (あ、本当にこの人。かなりヤバい人もかしれない)


 水晶玉を叩き割って占う魔法使いなんて聞いたことがない。
 アンジェは飛び散る破片を見つめていると、ノーニアスが口を開く。


 「なんと! 小さく可憐な姫君よ。どうやら君はかなりの幸運の持ち主のようだっ!」


 (…マモンが住み着いた体なんですがっ!?)


 「私には分かるよっ! 君に訪れし幸運は、漆黒の渦まし大きな力。それが君に力を与え、困難を乗り越えていくだろう。む? これはルーンの事か? さては他の者か……」


 (マモンのこと、だよね? て言うか、絶対にこの占い外れてるよ……)


 ペラペラと楽しそうに話すノーニアス。 
 しかし、どの話もアンジェにとっては大いに外れた占い結界だった為、取り敢えず頷いて話を誤魔化した。

 それから話が漸く終わった後、ノーニアスが懐から封筒を取り出した。
 差し出され、受け取ればそこにはパーティへの招待状と規則正しい美しい字で書かれていた。


 「我が友。ルーンの妻、アンジェよ。私は貴方を歓迎会に招待したいんだ。テヲに聞いた話だと、まだ夫婦揃ってパーティに出た事も無いらしいじゃないか。それはあまりにも悲しいっ! と、言うことでパーティをしようと思うんだ」


 「えっと…お気持ちは大変嬉しいのですが、旦那様はお仕事が忙しく恐らくパーティに参加するのは難しいかと」


 「うん、そうだね。てか正直、ルーンでは無く君にだけ来て欲しいんだよ」


 「わ、私だけですか?」


 「あぁ。ルーンからの許可も貰ってる。だから来ないかい? きっと、君に喜んでもらえると思うんだよ」


 アンジェは困り、イリスへと助けを求める。
 そんなアンジェの視線に気付いたらしく、イリスが小さく咳払いをし、話題に入る。


 「ノーニアス様。奥様と私、それ以外の方をお誘いしてもよろしいでしょうか? 奥様はまだ王都に来てまだ間も無い為、不安でしょうし、ノーニアス様のコレクションを見せるのならきっとお喜びになられる方をもう一人知っていますよ」


 イリスの言葉にノーニアスの眉がピクリと動く。
 そして突然立ち上がり「その人物も誘っておいてくれたまえ! 客人は多い方がいいっ!」と愉快そうに笑った。

 こうしてアンジェのパーティ参加が強制的に決まった。

 
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