18 / 93
1章
パーティーに招待された
しおりを挟む翌日。アンジェの元に突然来客があった。
「君が我が親友、ルーンの奥さんだねっ!」
金色のおかっぱの髪をなびかせながら、男性は愉快そうに笑う。
ビシッと決まった赤のスーツに身を包んだその人物は高笑いをし始める。
何とも癖の強そうな客人である。
アンジェは、変な人が来たな…と若干困った様に顔を顰める。しかし、客人に対して失礼な態度を取ってはいけない。
アンジェはニコリと微笑み、彼を迎える。
長い脚を組み、男はニコニコと笑みを浮かべながらアンジェを見つめている。
別に不快な気持ちにはならないが、こうもずっと見つめられるのは気恥しい。
イリスがお茶の準備を終え、応接室に来てくれた時にはとても安堵した。
この突然現れた客人は、アンジェ一人に手に負えないと思っていたからだ。
「ルーンから話は聞いてるいよ! 十二歳の若い奥様だとねっ! 私はノーニアス。フェルセフ商会の代表であり、ルーンの友人であり、魔法使いだよ」
「魔法使いっ!?」
思わずアンジェが声を上げれば、ノーニアスは嬉しそうに笑う。どうやらアンジェの反応に満足した様だ。
この世界は魔法を使う人間を二つに分類する。
一つがルーン等の様に攻撃魔法や身体強化魔法。治癒魔法などを得意とする魔導師。
そして二つ目が占いやまじないを得意とする魔法使いだ。こちらはかなり珍しく、滅多に居ない。
「君には特別に占いをしてあげよう」
ノーニアスはそう言うと、パチンと指を鳴らす。
すると次の瞬間、テーブルの上に水晶玉が現れた。
何処から音もなく現れたそれにアンジェが驚いていると、ノーニアスは水晶玉に手を近付ける。
(魔法使いの占いと言えばかなり当たるって噂だし、もしかして水晶玉に手をかざして占うのかな?)
魔法使いは見た事ないが、よくリアとかつて世界一の魔法の使い手とされていた魔法使いミルの冒険譚を愛読していたアンジェには占いがどういったものかを理解していた。
水晶玉にノーニアスの細くて綺麗な指先が近づいていく。
ゴクリとアンジェが息を呑めば、次の瞬間、ノーニアスが水晶玉を掴み、そして勢いよく叩き割った。
「えっ!?」
あまりにも間抜けな声が出てしまった。
しかし、驚かずにはいられなかった。
目の前に飛び散るガラスの破片。
水晶玉は木っ端微塵となり、辺り一面に飛び散っている。
イリスが「お怪我はありませんかー!?」と顔を真っ青にしてアンジェに駆け寄って来た。
「あの…占いは?」
「今のが占いですとも!」
(あ、本当にこの人。かなりヤバい人もかしれない)
水晶玉を叩き割って占う魔法使いなんて聞いたことがない。
アンジェは飛び散る破片を見つめていると、ノーニアスが口を開く。
「なんと! 小さく可憐な姫君よ。どうやら君はかなりの幸運の持ち主のようだっ!」
(…マモンが住み着いた体なんですがっ!?)
「私には分かるよっ! 君に訪れし幸運は、漆黒の渦まし大きな力。それが君に力を与え、困難を乗り越えていくだろう。む? これはルーンの事か? さては他の者か……」
(マモンのこと、だよね? て言うか、絶対にこの占い外れてるよ……)
ペラペラと楽しそうに話すノーニアス。
しかし、どの話もアンジェにとっては大いに外れた占い結界だった為、取り敢えず頷いて話を誤魔化した。
それから話が漸く終わった後、ノーニアスが懐から封筒を取り出した。
差し出され、受け取ればそこにはパーティへの招待状と規則正しい美しい字で書かれていた。
「我が友。ルーンの妻、アンジェよ。私は貴方を歓迎会に招待したいんだ。テヲに聞いた話だと、まだ夫婦揃ってパーティに出た事も無いらしいじゃないか。それはあまりにも悲しいっ! と、言うことでパーティをしようと思うんだ」
「えっと…お気持ちは大変嬉しいのですが、旦那様はお仕事が忙しく恐らくパーティに参加するのは難しいかと」
「うん、そうだね。てか正直、ルーンでは無く君にだけ来て欲しいんだよ」
「わ、私だけですか?」
「あぁ。ルーンからの許可も貰ってる。だから来ないかい? きっと、君に喜んでもらえると思うんだよ」
アンジェは困り、イリスへと助けを求める。
そんなアンジェの視線に気付いたらしく、イリスが小さく咳払いをし、話題に入る。
「ノーニアス様。奥様と私、それ以外の方をお誘いしてもよろしいでしょうか? 奥様はまだ王都に来てまだ間も無い為、不安でしょうし、ノーニアス様のコレクションを見せるのならきっとお喜びになられる方をもう一人知っていますよ」
イリスの言葉にノーニアスの眉がピクリと動く。
そして突然立ち上がり「その人物も誘っておいてくれたまえ! 客人は多い方がいいっ!」と愉快そうに笑った。
こうしてアンジェのパーティ参加が強制的に決まった。
66
お気に入りに追加
3,082
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる