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1章
役立たず
しおりを挟むアンジェが余命宣告を受けて一週間たったある日、アンジェは突然父親に呼び出された。
余命宣告を受けてからと言うものアンジェに対して更に冷酷な態度を取るようになった父親だったが、今回ばかりはあの無の瞳に、期待と喜びが浮かび上がっていた。
「アンジェ、喜びなさいっ! お前の結婚が正式に決定したぞっ!」
父親の言葉にアンジェは驚く。
しかし、そんなアンジェに目もくれず、父親はベラベラと話を続ける。
「相手は以前からお前に縁談話を持ち掛けて下さっていたグレジス公爵だっ! 遂に役立たずのお前がこの家に貢献出来たらしい!!」
下品な笑みを浮かべる父親に、アンジェは苦笑を浮かべた。
生まれた時から両親はアンジェに対して一切愛情を注いでくれた事は無かった。けれど、子供という生き物は両親の愛を欲する生き物だ。アンジェもまたそうだった。だから、愛される為に習い事も勉強も頑張ってきた。
勿論、その頑張りが報われることはなかったけれど、アンジェは努力し続けた。魔法の知識だって豊富だ。いつか魔法が使えるようになる日が来るかもしれない。
そう期待に胸を馳せながら沢山の魔法書を読み尽くした。
しかし、改めて自分がどれ程愚かな生き物なのか、アンジェは酷く実感していた。
自分がどう頑張っても両親が自分に愛情を注いでくれない事も分かりきっていた。
そして何より、自分に魔法が使えるようになる日が来ないことも分かっている事だった。
それでも、期待してしまったのだ。
目の前で下品に笑う父親の姿を見て、自分をまるで商品の様にしか見ていない奴に愛情を注がれて一体何になるのだろうと思った。
アンジェは漸く目が覚めたのだ。
父親と向かい合うようにソファーに座り、アンジェは結婚相手について話を聞いた。
アンジェへと以前から来ていた縁談話。
その相手は宮廷魔導師兼公爵と言った超ハイスペックな人からで、これはアンジェも以前から知っている事だった。
そして結婚相手の名は、ルーン・グレジス公爵。今年で二十歳になると言う。
常に穏やかな笑みを浮かべ、性格もまた穏やかで気配りの出来る男性であり、女性なら誰もが彼に一度は恋をする、とまで言われている程の高い評価を得ている。
また、整った顔立ちやスラリとした背丈に柔らかな癖っげの淡い黄色の髪と、淡い水色の瞳。全て完璧に揃った容姿もまた老若男女問わず魅了するらしい。
しかも、ルーンは最年少魔導師として王宮に仕え、異例のスピードで出世し、今では魔導師団の副団長を務めている。
そんな彼が何故自分なんかを妻に?
縁談の話があった時から、アンジェはずっと疑問に思っていた。
理由は、幼い頃からアンジェは、普通なら使えるはずの魔法が使えなかったからである。
なにせこの世界では、仕事に就くにしろ、生活をしていくにしろ、魔法を使えないとお話にならないのだ。
ましてや相手は魔導師団の副団長。
魔法のエキスパートとも呼んでも過言ではない彼が、なぜ魔法が使えないアンジェを妻に迎えたいのかサッパリ分からなかった。
最初は、もしかしたらルーンはアンジェの欠点を知らないのかも……とも思っていたが、どうやらアンジェが魔法を使えない事を把握済みでの縁談話を持ち掛けたらしい。
「アンジェ。公爵にはお前の病のことは伏せている。絶対にバレないようにしろ。もしバレたら最後、お前は確実に捨てられるに決まってる。どうせ公爵もお前の見た目だけに惹かれ、娶ることを決めたに違いない。だから、余命宣有りだと知ったら直ぐに捨てられ、お前の価値はゴミ以下だ。そんな事になったらこの家の名誉にも関わってくる大問題だっ! アンジェ、いいか? お前は、余命宣告を受けて更に役立たずの不良品となったんだ。そんなお前が漸くこの家の為に貢献出来そなんだ。だから最後くらいは役に立ってくれよ?」
ポンと肩に手が置かれ、アンジェはその手を払い除けたいのを必死に我慢した。
そうして結婚が正式に決まった事で、家は大騒ぎとなった。
メイド達はアンジェの身支度を整え、そして荷物整理が始められた。
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