13 / 24
結婚式まであと6日①
しおりを挟む翌日。
イレーナは豪華な品々を前にゴクリと息をのんでいた。
その一方で目の前ではセシルとエリが楽しそうに何やら話をしているが、イレーナは目の前に並べられた食事に完全に意識は向いていた。
「一昨日は済まなかったね、イレーナ」
「私も昨日はごめんなさいね。けど、今日は沢山時間があるからイレーナさんと沢山お話しがしたいわ」
「奇遇だな、エリ。僕も同じことを考えていたよ!」
「あら? 貴方もだったのね、セシル!」
今にも手を絡め合い、ミュージカルのように歌い出しそうな勢いの2人。
そんな2人の賑やかな会話を聞きながら、イレーナは再度目の前の料理にゴクリと息をのんだ。
本当は食事会なんて欠席したかった。
誰が好き好んで元婚約者とそのまた新たな婚約者と食事などするだろうか。
けれど、どうしてもイレーナは欠席する事が出来なかった。
その理由は……。
「まぁ、せっかくこうしてまた会えたんだ。食事をしながらゆっくり話を聞かせてくれないか、イレーナ」
「私も是非聞きたいわ、イレーナさんのお話。それとシェフが腕に腕をかけて作った料理よ。沢山食べてちょうだいね」
「は、はい。頂きます」
目の前にずらりと並べられた数々の料理。
採れたての野菜を使ったサラダに芋がたっぷり入ったスープ。焼きたてのパンに超高級なフルーツを贅沢に使ったフルーツジャム。新鮮な卵で作られた出来たてホカホカの卵料理たち。
別に食い意地を張ってこの食事会を断ることが出来なかった……という訳では無い。
ただこの2年でイレーナは作る側の苦労と喜びを知った。そして汗を流しながら必死に育てた作物たちが沢山の人のエネルギーとなり、笑顔となる光景を多く目にしてきた。そして同時にそれ程多くの愛と努力を捧げ、育て上げた作物達を無駄にすること……所謂廃棄や食べ残しがどうしてもイレーナには出来なくなった。
(前々から思ってたけど…やっぱりここのシェフの料理は凄く美味しそう。何より食材を無駄なく使ってる…! )
芋がたっぷり入ったスープを見て、この間まで必死に芋向きをしていたのも無駄では無かったのだと感じ、目尻が赤くなる。
ルカに既にもう食事会の準備は始まっていると聞いた時、行きたくない…という気持ちよりも食べ物を粗末にしたくない…! という気持ちが勝ってしまった。
その事をルカに伝えれば…
『作り手になったからこそ出てくる考えだな』
と笑っていた。
用意された料理を口にしながら、この大地の恵と作物を育てて下さった農家の皆様に感謝の気持ちを抱きながらよく咀嚼し、飲み込む。
(あ、このお芋。村で作ってるお芋だ。)
そして口にした芋が村で作られている特産の芋だという事に気づき、イレーナは思わず笑みがこぼれる。
その一方、芋をポイポイと掬い出し、スープのみを堪能しようとしている者が1人…。
「……セシル」
「ん? どうしだい、イレーナ?」
そう。セシルだった。
芋嫌いは相変わらずのようで、綺麗に芋だけを残し、スープだけを堪能している。
イレーナはジトッとセシルを見つめながら言う。
「好き嫌いはよく無いよ。それに残すのは農家の方、調理して下さった方にも失礼」
「そう言われてもなぁ……僕にはこんな芋芋とした物は似合わないだろう?」
「えぇ、セシルの言う通りよ。貴方みたいな素敵な人にそもそもこんな安っぽい芋は相応しくないわ!」
「え、えっと…」
な、何を言ってるんだ?この人たちは?
そうイレーナは思った。
そして同時に思った。
……セシルって、こんな人だったっけ?
イレーナが引かれていたセシルは、確かに自分に自信を持ち、まるで星のようにキラキラと輝いていた心優しいセシルであった。
好き嫌いだってあったものの、ちゃんと「作り手の立場に立て! 感謝の意を込めて咀嚼するんだ!!」と自分に強く言い聞かせて頑張って食していた。
しかし、今はどうだろう?
これではまるでチヤホヤされて甘やかされ、浮かれているただのナルシストではないだろうか。
「そう言えば…ルカから聞いたんだが、イレーナ。お前、今は村で農家として働いているというのは本当なのか?」
「はい。事実です」
「まぁ…! まさか事実だなんて!」
イレーナの返答に2人は顔を見合わせる。
何か不味い事でも口走ってしまっただろうか? とイレーナが思わず首を傾げた時…
「なんて汚いのかしら」
そうハッキリエリが言ったのは。
56
お気に入りに追加
1,404
あなたにおすすめの小説
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
あなたの事は記憶に御座いません
cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。
ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。
婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。
そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。
グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。
のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。
目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。
そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね??
記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分
★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?)
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
あなたの子ではありません。
沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。
セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。
「子は要らない」
そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。
それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。
そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。
離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。
しかし翌日、離縁は成立された。
アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。
セドリックと過ごした、あの夜の子だった。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる