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しおりを挟む「すまない、イレーナ。他に愛する人が出来たんだ。だから…君との婚約を破棄したい」
そうイレーナが婚約者であるセシルに告げられたのは、2年前。
丁度セシルが学園を去る……言わば卒業式間近に控えた日だった。
イレーナよりも1つ年上だったセシルは、1年早くイレーナよりも先に学園を卒業するわけで…。その【1歳】という差が2人の婚約を引き裂いたのだ。
「学園生活を共に過ごして分かったんだ。俺には…エリしか居ないんだって」
セシルに出来た愛する人。
それは彼のクラスメイトであるエリという伯爵令嬢だった。
「…ごめん。私はイレーナを友人としてしか見ることが出来ない」
その瞬間、イレーナの中で長年の片想いに終止符が打たれたのだった。
物心が着いた時から、イレーナとセシルは共に居た。
気付けば婚約者という関係で、この先自分がセシルの隣にずっと並んでいられるのだと……そう思っていた。
けれど、現実はまさかの展開に転んだ訳で…。
イレーナはセシルを良き兄の様な存在であり、1番の友であり……そして何より心から愛していた。
しかし、セシルは違った。
イレーナを友人としてしか見れない。
言わば、女性としては見れない。
そうハッキリと言われたのだ。
だが、今思い返せばこの恋に最初から勝ち目など無かったのだと…イレーナには分かっていた。
それは学園に入学した日のこと。
入学式を終え、イレーナはセシルの姿を探していた。
1年早く学園へ入学したセシルと漸く同じ制服に身を包む事が出来るのが嬉しくて、再び一緒に登校出来る事が嬉しくて…。
期待と喜びで胸がいっぱいだった。
けれど……セシルの視線の先には、もう別の誰かが居たのだ。
それが……エリだった。
____もし、同い年で生まれていたら振り向いて貰えた?
同じ教室で机を並べて、同じ学年のリボンを身につけて、教室移動も一緒に出来ただろう。
____年下は子どもっぽかった?
エリはセシルと同い年だ。
きっと年下は子どもっぽくて嫌だったんだ。
……なんてね。
自分に魅力がなかった。
それだけの事なのだ。
けれど
もう少し……
せめて貴方が卒業するまでは……
そばに居たかったなぁ。
去っていくセシルの後ろ姿を見つめながら、静かに涙を流した。
その後、婚約破棄された事を両親に告げた結果、家の恥だと言われ、新学期と同時に学園を体調不良という理由で退学。田舎へと問答無用で送り込まれた。
しかもそこは地図にも載っていない様な小さな村……からも少し離れた森の中にある古びた洋館だった。
1人で住むには勿体ない程の大きさ。
少し古びた様子ではあったが、寧ろそこが良い様にも思えた。
……のは、本当にその時だけだった。
屋敷へと1歩踏み入れた瞬間、イレーナは逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
なにせ、埃被った家具。汚れきり、動物や虫の住処となった部屋の数々。錆びて開かない扉。青い空がよく見える天井……などを見れば、とんだボロ屋敷を押し付けられたと項垂れた。
しかし、手のかかる子ほど可愛いと言うように、あれよこれよと村の人たちの手助けもあって、屋敷は変貌を遂げた。その変貌ぶりを見て、これまでの苦労を次々に思い出したのと同時にイレーナの中でこの屋敷に対して我が子の様な愛らしさが芽生えた。
そして村での暮らしも最初は戸惑いばかりだった。
慣れない環境。知らない土地。
不安だらけで、押しつぶされそうな日々だった。
けれど、村の人達はそんなイレーナを優しく迎え入れてくれた。
その優しさに触れていくうちに、次第に村での暮らしにも慣れた。
イレーナはもう家族だと皆が言ってくれた。
忘れかけていた人の温もりをイレーナは思い出すことが出来たのだ。
ずっとこの先も此処で我が子(屋敷)と村の皆と楽しくのんびりと暮らしていく。
そうイレーナは思っていたし、それがイレーナにとっての幸せとなっていたのだ。
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