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アンドレを連れ戻せ! 編

65 いつもとは違う日 ※アンドレ視点

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 ロキさんの牧場の鶏の鳴く声がし、俺はベッドから出た。
 今はまだ朝の五時でお師匠とルカは眠ってると思う。
 俺はいつもこの時間に起きて朝の支度を始める。

 「お! 今日も早いな。アンドレ!」

 外で井戸の水を汲んでいたらロキさんと会った。
 これもいつもの事だ。

 「おはようございます」

 「あぁ、おはよう。しかし、本当にアンドレは偉いな! 弟子とは言えこんな朝早くから仕事して」

 「ロキさんも朝早くから仕事してるじゃないですか。それに俺は弟子ですし、当たり前ですよ」

 「まぁ、俺は仕事が仕事だからな」

 白い歯を見せて笑うロキさん。
 昔はこんなふうに人間と話す日がくるとは思っていなかったけど今ではこれが当たり前のことになっている。
 竜人の殆どは人間嫌いだ。
 俺もそうだった。
 ただ竜騎士になる為の物としか思ってなかった。
 けど、それは違った。
 人間は人間なりに生きている。
 いろんな人間がいて支えながら生きている。
 お師匠も言っていた。人間は助け合いながら生きるものだと。

 俺はお師匠の部屋の窓を見つめる。

 お師匠はいつも笑っている。
 ヘラヘラと笑っているように見えるかもだけどあの人は凄いとそう心から思っている。

 「アンドレ。卵とミルク。取っておくから取りに来いよ」

 「あ、いつもすいません。助かります」

 「なーに。助け合いが必要だろ」

 ロキさんはそう言うと行ってしまった。

 俺は家に戻り洗濯を始めた。
 魔法が使えたら便利なんだと思うけど生憎竜人は魔法が使えない。
 お師匠が魔法で洗濯する、と言ってくれるけどそれじゃあ申し訳ないので断った。
 なにせ俺は弟子だ。
 弟子は師匠の生活のサポートもしなければいけない。

 洗濯が終わり、俺は物干し竿に洗濯類を干していく。
 それが終われば俺は買い物カゴを持って家を出た。

 「アンドレ君! おはよう」

 「メルさん。おはようございます」

 「おぉ! アンドレ! 一緒に筋肉を鍛えようか!」

 「村長……遠慮します」

 ロキさんの牧場へ向かう途中こうして人と会うことは少なくはない。
 今ではこれがもう日課のようなもので慣れてしまった。

 甘い香りがしてきた思えば気づけばユウさんの店の前まで来ていた。
 するとちょうど扉が開きユウさんが出てきた。

 「アンドレ君。おはよう」

 「おはようございます。ユウさん」

 「あ、これエデンさんに渡してもらっていいかな?」

 「はい。了解です」

 俺はユウさんから一枚の紙を受け取った。
 それはパンの材料の調達の依頼が書かれたものだ。

 「そうだ。今パンが焼きあがったばかりなんだ。良かったら持ってて」

 「いつもありがとうございます」

 そう俺が言えばユウさんは笑った。
 ほんと良く笑う人だと思う。
 それに何だかお師匠に似てる気がした。

 俺はユウさんから焼きたてのパンを貰った。
 それを食べながらロキさんの牧場へと向かう。
 その途中、いろんな人にあった。
 ルゲル村が新しくなってからこの村は凄く発展した。
 まず雑貨屋や小さな飲食店に、宿谷が出来た。
 最近はよく冒険者の姿も見るようになった。

 俺は空を見上げる。
 今日もいつも通り綺麗な青い空だ。

 空へと腕を伸ばし、俺は思った。
 もしあの時お師匠と出会わなかったら俺は今どうなっていたんだろう? と。
 きっと父と母のような立派な竜騎士になっていたのかもしれない。

 「ま、追放された俺が今更そんな事思ってもなー」

 苦笑が出た。
 きっと両親は竜騎士の試験に失敗した俺に呆れ果てた事だろう。
 両親の顔に泥を塗ってしまったなとは思ってる。
 けど俺は竜騎士になれなかった事にたいして今は別にどうも思ってない。
 それはきっとお師匠のおかげだと思う。
 なにせお師匠は強い。それに面白いし、何より一緒にいる事でいろいろ学べるからだ。
 それにルカは妹みたいでついつい世話をやいてしまう。

 俺は朝目を擦りながらまだ睡魔と戦いながら起きてくるだろうお師匠とルカの事を考えながらまた足を動かし始めた。

 「……見つけた」

 聞き慣れた声がした。
 低くて圧のある声。
 俺は弾かれたかのように後ろを向く。
 
 「ど、どうして……」

 声が震えているのが自分でも分かった。
 だってそこに居たのは俺の兄だったからだ。
 とは言っても俺はこの人を兄だと思ったことは無い。
 だからお師匠には兄の存在は話していなかった。
 けど、今目の前にいるのは確かに俺の兄であり、他の誰でも無かった。

 俺は思わず後退りをする。

 「迎えに来たんだよ。アンドレ。お前を」

 「む、迎えって……」

 「追放された……と思ってるみたいだがお前は合格だ。なのに一向に帰ってこないから迎えに来たんだ」

 合格
 その言葉に俺は唖然とした。

 確か俺はお師匠の妨害で試験に失敗した。
 だからこうして今お師匠の元で弟子として置いてもらっている訳で……。

 「まだ分からないのか? お前は竜騎士として合格している。だから迎えに来たんだ」

 「待ってください。俺は……!」

 「……なんだ? まさかここに残る……という気か? 」

 相変わらず一言一言に圧のある人だと思った。
 押しつぶされそうになりながらも俺は懸命にこの場から逃げる方法を考えた。

 けど

 「アンドレ。お前は竜人だ。まさか本当に人間如きと馴れ合いをしたいのか……?」

 その一言で俺の体は凍り付いたかのように動かなくなった。

 「さ、帰るぞ」

 兄は首に下げていた銀色の笛……竜騎士だけが持てるドラゴンを呼ぶ笛だ。竜騎士になって初めて竜人はドラゴンと契約を交わし本当の竜騎士となる。

 兄の笛の音に呼び寄せられたの如く真っ白なドラゴンが地上へと舞い降りた。まだ早朝だからこのドラゴンに気づく人はごく僅かだろう。
 

 「何をしてる。いくぞ」

 「待ってください……あの、俺は……!」

 「お前は竜人だ。試験以外に人間との関わりをもつ必要はない」

 そう言うと兄は俺を無理やりドラゴンの上へへと乗せた。
 そして瞬く間にドラゴンは空へと飛び立った。
 俺はどんどん小さくなっていくルゲル村を見下ろしながら必死に涙を堪えた。

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