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パン屋がやってきた編

63 新しいルゲル村

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 こうして作業は順調に進んで行きルゲル村は見違える程の変化が起きていた。
 ロキさんの作ったベンチやテーブル等が次々にいろいろな場所へと配置されたのだ。子供の遊び場から休憩場所まで出来た。


 そして翌日。パン屋オープンに新しいルゲル村のお披露目となった。
 街から沢山の人が足を運んでくれてルゲル村には現在沢山の人が来てくれている。
 王都からミレイがわざわざ足を運んでくれた。
 レオン殿下やゼアさんは別件で来れないらしい。
 だけどクロートやリリア、それからフェリーヌが来てくれた。
  まさか来てくれるとは思っていなかった皆に私は驚きを隠せなかった。



 【ふふー 驚いた?】


 「もちろんだよ! でも、どうして?」


 「レオンから聞いて来た。……元気そうだな」


 クロートの言葉に私は大きく頷く。
 二人も元気そうで良かったよ。

 私はリリアから与えられた加護をまだ持っている。
 普通なら加護を与えた精霊、そして加護を授かった者は一緒に行動する。けれど私達は一緒に行動する事を選ばなかった。リリアにはリリアの居場所がある。そして私には私の居場所があるからだ。
 なのでこうして会うのは久しぶりなのでちょこんと肩に乗るリリアに私は懐かしさを覚えた。

 
 
 【ねぇ、エデン! 少しの間ルゲル村に滞在しようと思っているのだけれど、エデンのお家にお邪魔させてもらっていいかしら?】


 「勿論だよ!リリアとクロートが来てくれるだなんて……賑やかになるなー!」


 「え!? 俺も!?」


 目を見開くクロートに私は首を傾げる。
 リリアが泊まるのならクロートも泊まると思っていたんだけど、違ったのかな?

 そう思っていると、ポンと肩を叩かれ振り返る。
 するとそこには黒い笑みを浮かべるミレイとフェリーヌの姿があった。

 

「お姉ちゃん! 簡単に男の人を家に泊めちゃダメだよ! 」


 フェリーヌの言葉にミレイが大きく頷く。


 何だか焦っている様子の二人を見て私は再び首を傾げた。
もしかしてトイレにでも行きたいのかな?
いや、でも多分これは……。


 私は悩んだ末、ようやく二人の伝えたい事を理解した。


「そっか……そうだよね……」


「エデン、分かってくれたのね!」


「はぁ……これで一安心だよー」


「二人も一緒にお泊まりしたいんだよね! 大歓迎だよ!」


「「え?」」


 見事にハモる二人の声。
 何故かポカンとしている二人に私が尋ねる。


「え、違った?」


 私の言葉に大きな溜息をつくミレイとフェリーヌ。そして二人は顔を見合わせた後、やれやれといった感じでミレイが笑う。


「……じゃあ、お邪魔させてもらおうかしら」

「うん。私も! シスターに言ってお休みもらってきたから泊まることにするよ!」

「ほんと! 賑やかになるなー!」

 いつもアンくんとルカと私であの広い家を使っている訳で物寂しいものだった。けど今日は四人ものお客様が我が家にやって来る。きっと今日はルカが大喜びすると思う。

 私はルカの喜ぶ顔を思い浮かべながら頬が緩むのを感じた。


「けど、シスターが休みをくれるだなんて珍しいわね」


「頑張りすぎは良くないからと休みをくれたんです。私も最初は驚きましたよ……」


 フェリーヌは現在ミレイの紹介である小さな町の教会のシスターの元で魔法を学んでいる。シスターは癒し系の魔法を得意とし、フェリーヌはずっとシスターになる事を幼い頃から夢見ていたらしい。けれど家の跡継ぎをしなければならなかったフェリーヌはその夢を断念していたのだ。
私自身、フェリーヌがシスターになりたいなんて思っていたことは仲直りして初めて知ったし、何よりフェリーヌが背負っていた物の大きさも何もかも全て分かった。だから私なりにフェリーヌの夢を応援したいし、サポートしたい思っている。


「お姉ちゃん」


「なに? フェリーヌ?」


「…………私ね、今凄く楽しいよ」



 ニコッと微笑むフェリーヌの頭を優しく撫でた。
 フェリーヌはやりたい事を見つけた。
 私はと言うとこうしてのんびりと暮らせていることに喜びを持っている。
 何だか置いていかれた気分。


 「ねぇ、お姉ちゃんはやりたい事とかないの? お姉ちゃんって言わば最強の魔導師でしょ? どんな事でも出来ちゃいそうだけど?」


「えっと……やりたい事……かぁ」


 フェリーヌの問いに口ごもる私。
  まだまだ答えは見つかりそうにない。


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