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パン屋がやってきた編
61 いろいろ作ってみた
しおりを挟むルゲル村に帰ってきた私達。
あの後盗賊は遠くから駆け付けて来てくれた冒険者さんに預けたし、今頃街の人達は安心してのびのびと過ごせている事だろう。
何だか私まで嬉しくなってきちゃった。
「こんちは、エデン。何だか御機嫌だな」
「あ、ロキさん。こんにちは。分かります?」
鼻歌を歌っている私に声を掛けてきたのはロキさんだった。
小さな荷車を引いているロキさん。
その荷車の中には木材やペンキ、それからノコギリなどが入っていた。
「何か作るんですか?」
「あぁ。このルゲル村に繋がる入口の看板古くて全く使えないんだ。だから新しいのを作ろうかなって。あとベンチとか憩いの場も作れたらなーって思っててな」
確かに町長さんもルゲル村の名前は知ってるけど何処にあるかは知らないって言ってたっけ。もしかした看板が見えないのが原因なのかな?
それなら私がやる事は一つだ。
「あの、手伝わせて下さい!」
「え? でもエデン、お前忙しいだろう?」
「チラシ配りは終わりました。食材収集も終わりました。これからユウさんのお手伝いを……と思ってたんですけど私、料理出来ないし……」
パン作りのお手伝いをしたい所なんだけど、私は料理が一切できない。
一度だけ簡単な料理を作ってみたんだけど結果は最悪。丸焦げとなり何が何だか分からない物となりアンくんに叱られてしまった。あれから私は一度もキッチンには立ってない。そんな私が厨房に入っても邪魔なだけだ。ならばこうして体を張る仕事の方が得意なのでこちらをした方が良いに決まってる。
「じゃあお願いしようかな。頼めるか、エデン?」
「勿論です! 任せてください」
私が胸を張りそう言えばロキさんが笑った。
ロキさんの笑顔は何だか落ち着く。
長女の私だから感じる事かもしれないけどロキさんはお兄さんという感じがするのだ。兄貴肌の彼と一緒に居ると守ってくれそうな……簡単に言えば安心出来る人だ。
早速私達は看板作りに取り掛かった。
まずは看板の形を決めていく。
話し合いの結果細長い丸の看板を作る事にした。
ロキさんが細長の丸の形にノコギリで切っていく。
見ていてロキさんが相当器用な事が分かった。
だって鉛筆を忘れて型取りが出来なかったのをノコギリ一発で綺麗な細長の丸に切ってしたったのだから。
看板のデザインは私に任された。
私がデザインを考えている間ロキさんは次の作業に取り掛かっていてペース配分も完璧で本当に凄いと改めて思わされた。
私はペンキを取り、絵を描く。
この看板を見て思わずルゲル村に行ってみたくなるような……そんな看板になったらいいなと思いながら。
そして……
「出来ました~!」
私はペンキの入ったバケツを片手に座り込んだ。
やっと完成した看板。
そこには動物、人間が楽しそうにパンを頬張っているものだった。その周りにはルゲル村らしいものを描いた。自分で描いて言うのも何だけど、かなり良いものになったと思う。
ロキさんが看板を見るなり二っと歯を見せて笑った。
「エデンは絵が上手いな! うんうん……いい出来だ!」
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
素直に褒められ私は凄く嬉しくなった。
「あの、他にお手伝い出来ることは?」
「ベンチも色で……と思ったんだがルゲル村らしく木のベンチでいこうと思ってるんだ」
「確かにそうですね。私も賛成です」
「良かった。他にもテーブルもいくつか作ってみた。今から配置していこうと思うから手伝ってくれるか?」
ロキさんの後ろには五つの丸テーブルからベンチ、それと椅子が置いてあった。
まさかロキさん……私が看板を塗ってる間一人で作っちゃったの!?
思わず目を見張る私にロキさんが笑った。
「ま、器用だから」
「き、器用って問題を遥かに超えてますよ、これ……」
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