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錬金術師と魔導師編

38 目が覚めたら

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 「ん……?」

 窓から差し込む光で私は目を覚ました。
 何だか体がだるい。
 でも頭は何だかスッキリしてる。

 私はゆっくり体を起こすなり、辺りを見渡す。

 「ここ、何処?」

 視界に入ったのは見慣れない場所だった。
 明らかに私の家ではないことは確かだ。
 まず私の家はこんなにごちゃごちゃしてない。
 カラフルな壁に、ヘンテコな家具。
 それから見知らぬ植物があちこちに飾られている。

 一言でそれを言い表すとすればそれはきっと悪趣味と表せばいいんだと思う。

 私はベッドから抜け出し、恐る恐る扉へと向かう。
 
 オークション会場で何故か突然睡魔が襲ってきて、それから……どうなったんだろう?
 確か誰かが私を買い取ったんだ。
 とすればここは私を買い取ってくれた人の家?
 私、一体これからどうなるんだろう?

 一気に大きな不安が私へと襲いかかる。

 だって私は奴隷として買い取られたんだとすれば、労働もしくは……?

 脳内で葛藤を繰り返していると、扉がゆっくりと開いた。
 そして扉の向こうに居た人物と目が合い、私は目を見開いた。

 夕焼けのやうに綺麗なオレンジ色の髪と、深緑の瞳。
 私は思わず距離を置き、構えた。

 「ど、どなた……ですか?」

 咄嗟にでた言葉はこれだった。

 相手は目を少し見開くなり、髪をくしゃくしゃとかきだす。
 なんと言うか猫っぽい……この人。
 ふんわりとした髪の毛も含めて何だか猫に似ている気がした。

 「俺はクロート……えっと……」

 「エデンって言います。あの、貴方が私を……?」

 そう尋ねればクロートさんはそっぽを向いて小さく頷いた。

 なんと言うか……中々掴みにくそうな人だな。
 あまり特徴的な仕草も無いし、もしかしたらクールな人なのかもしれない。

 「そう。俺があんたを買ったんだ」

 「その……私は奴隷として買われたて……って事ですよね? ならばその……何をすればいいんでしょうか?」

 自分でも声が震えていることが分かった。
 買われた以上、この人に尽くすしかない。
 そして……目を盗んだ隙にここから出るしかない。

 脳裏に浮かぶ皆の顔。
 きっと今頃心配している事だろう。
 ミレイには必ず帰る……なんて言ったのにその約束を破ってしまった。その罪悪感とこれからの不安が一気に私へと押し寄せる。
  
 でも二人が逃げ切れたのならそれより良い事などない。
 二人が逃げ切れる事が絶対。私の身などは二番目くらいで構わない。

 「……別に何もしなくていい」

 「な、何もですか?」

 返ってきた返事に思わず聞き返す。
 クロートさんが小さく頷く。

 「……あぁ。でも、たまに仕事を手伝ってくれると嬉しい」
 
 「仕事ですか?」

 「錬金術師。金属はもちろん、いろんな道具を作ってる。その……あんたから魔力を感じたから買った。別に変な事しようと思って買った訳じゃない……」

 錬金術師
 いろいろな材料が物を作り出す職業。
 錬金術で作られた道具はとても質が良いと聞く。

 取り敢えず、安全な人に買われたみたいなので良かった。

 「クロートさん、あの」

 「クロートでいいよ。たいして年齢変わらなさそうだし。それと敬語も無くていいから」

 悪い人ではなさそうだけど、言い出しにくいな……
 いくらで私を買い取ってくれたのかあまり覚えてないし、早めに言った方がいいよね。

 「クロート。私、実は妹を助ける為にオークション会場に奴隷としてまぎれこんでしまって……そしたら急に眠くなってきて……それで体の自由もきかなくなってきたの。私を買い取ってくれたのが貴方みたいな優しそうな人で良かった。でも、私の事を皆待ってると思うの。逃がして欲しいとは言わない。だけど仲間に無事って事だけでも知らせたいんです。お願いします!」

 私は頭を下げる。
 お金を出してまで私をクロートは買ったんだ。
 今すぐ出ていくのは失礼だし、何よりクロートに悪い。なら皆に無事だって事ぐらいは伝えたかった。

 「…………体の自由がきかなかったのは多分眠り薬を盛られたからだと思う」

 「眠り……薬?」

 「あぁ。Aランクの冒険者でも壊せない枷を壊した相手にとる方法はただ一つ。薬を盛る。生憎薬の耐性が無く、体の自由を奪われ寝落ちしたんだと思う」

 手招きされ、私はクロートの後に続く。

 ……ここはリビングかな?
 さっき居た部屋よりもはるかに片付いていて何より落ち着きがある部屋。
 さらに次の部屋の扉に手をかけるクロートの後を私は遅れないように着いていく。

 そして辿り着いた所はまたもやヘンテコな道具で溢れた場所だった。

 特に視界に映るのはぐつぐつと音をたてる何かが煮込まれている大きな鍋。
 一体何が煮込まれているんだろう?
  紫色の液体なのであまり想像したくないものだった。

 「これに魔力注いでくれる?」

 クロートが私に小瓶を差し出した。
 さっきの大鍋に入っていた液体と同じ色をした液体が入った小瓶。

 この小瓶の中身は一体何??
 もし悪用されるようなものであれば魔力は注ぎたくない。

 チラリとクロートを見詰める。 
 目が合うがすぐに逸らされてしまった。

 「別に変な物じゃない」

 嘘は……ついてなさそう。
 出来るだけ彼の願いは叶えてあげたい。
 なにせ彼は私の命の恩人でもあるんだから。

 私は指示通り魔力を小瓶へと引き渡すような……そんな感覚で魔力を注ぐ。

 「ありがとう。もういいよ」

 「は、はい……」

 小瓶をクロートへと差し出す。
 一体何の液体なんだろう??

 「気になる? この液体?」

 「えっと…………はい」

 そりゃあ気にならない方がおかしいと思う。
 不気味な色してるし、突然魔力を注いでなんて言われたら嫌でも気になってしまう。

 クロートが小瓶の中の液体をゆらゆらと揺らしながら呟く。

 「俺の錬金術で作った薬みたいなものだよ。それに魔力を注いでもらうことでより効果が出る。だからこれは魔法道具みたいなものになったって事」

 「な、なるほど……」

 「俺は魔法が使えない。だから魔導師を探してた。優秀で尚且つ俺の作る道具と同レベルで良い魔力を持つ魔導師を。今は自由の身にはさせれないけど、あとでちゃんと解放する。だから…………そんな悲しそうな顔するな」

 悲しそうな顔……?
 そう指摘され、私は慌てて両手で顔を覆った。

 私、そんなに顔に出てしまっていたのだろうか?

 慌てふためく私を見て、クロートが小さく微笑む。

 この人……笑うと案外雰囲気変わるな。
 クールな印象が強いけど、笑うと何だか可愛く感じた。
 って、男性相手に可愛いは失礼かな?


 「取り敢えず、ちゃんと解放はしてやるから今は手伝って。時間が無いんだ」

 「は、はい……?」

 急に真剣な表情になるクロート。

 ……時間って何の時間なんだろう?

 
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