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一緒にダンジョン編

23 最後の扉

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 「またしても驚きましたよ。まさかエデンさんがドラゴンの言葉が分かる巫女だったとは」

 「あはははは……そう、ですね」

 レッドドラゴンを見上げ、そう呟くレオン殿下。
 騎士団の人達もレッドドラゴンを少し警戒しながらもこちらへ近付いてくる。

 それよりも……巫女って何?
 何で私はドラゴンの言葉が分かるの?
 その、巫女というものだから?

 さっぱり分からず、私は取り敢えず笑ってみせる。
 決して爽やかな笑顔ではない作り笑いというやつだ。

 そんな私にドラゴンがさらに顔を擦り寄せてくる。
 擽ったいけど愛情表現なのだろう。
 私はその愛情表現をちゃんと受け止めた。

 「エデン嬢はSランクで、あの高度な治癒魔法を使えて、尚且つ魔導師なのに拳王チャンピオンでありながら巫女とは!」

 「だから拳王チャンピオンじゃないです!」

 一体何なんだ……その拳王チャンピオンって。

 ニックさんと話すと突っ込みどころが多くて疲れる。
 まぁ、以前は人と話す事自体あまり無かったから凄く楽しんだけどね。

 「あの、巫女とは……?」

 「巫女とは様々な生物と会話が出来る力を持つ者のことです。言語だって読めると聞いた事があります」

 丁寧な説明をありがとうございます、レオン殿下。
 貴方は話の通じる方で良かったです……。
 心の中でそう御礼を言う。

 「それにしても……貴方の様な人が居れば国はより良いものになりそうだ……」

 「レオン殿下?」

 「いえ、何でもありません。ただ、貴方とは気楽に話せて楽しいです」

 ニコリと微笑まれ、私は首を傾げた。
 私と話して何か楽しい事があるのだろうか?
 あ、もしかして世間知らず過ぎて面白いとか!?
 もしそうだったら恥ずかしいな……

 私は勉強しようと強く決心した。


 


 *********





 その後、ついにボス部屋に辿り着いた。
 レッドドラゴンは隠し部屋にいる。
 ボスを倒したら迎えに行かなくちゃね。


 「開けるぞ!」

 レオン殿下の合図と共に、今度はボスの部屋へと繋がる扉が開いた。


 ギギギギィィィィィ

 そんな不気味な音をだしながら扉がゆっくり開く。
 部屋の中へと1歩足を踏み入れれば、辺りは真っ暗で何も見えなかった。

 「明かりはないのか!?」

 「エデンさん、お願いできますか?」

 「分かりました」

 と、取り敢えず……明かり程度の光を……

 そう心の中で思いつつ、炎のイメージを浮かべる。
 でもダンジョンだからそれなりに大きい方がいいのかな? 
 そうだ、明かりだからと言って炎じゃなくてもいいだ!

 私はこの部屋を照らす光をイメージしながら呟く。
 

 「この部屋に明かりを」

 そう呟けば、次の瞬間、あれだけ真っ暗だった部屋が急に明るくなった。その急な明るさは目が暗みそうになるほどだった。

 「……エデンさんには驚かせられてばかりだ」

 「え?」

 「エデン嬢! 魔法は普通呪文を唱えてからこそ使えるもの! しかし、エデン嬢は呪文無し! これは凄いことだぞ!」

 あ……しまった。
 指摘されて気づいたけど、魔法は普通呪文を唱えて使うものだったんだ。
 無呪文なんて普通は有り得ない。
 しかし、私はそんな有り得ない事を容易く行ってしまった。

 「やはりSランクは格が違うな!」

 白い歯を見せて大きく口をあけ笑うニックさん。
 この人の笑顔には何だか癒しを感じる。
 そしてそんなニックさんの隣にはレオン殿下の姿。
 私は横目で殿下を見つめる。

 ……やっぱり何処かで見覚えがあるんだけど、気のせいかな?
 …………いや、気のせいなんかじゃない!!

 あの微笑み、あの髪色、あの瞳!

 ふと浮かぶミレイとゼアさんの顔。
 そう言えばこの三人全員桃色の髪色で尚且つ雰囲気が似てるし、何より笑顔が凄く似てる気がする。
 

 ……って、まさか……ね?
世界に顔が同じ人が三人居るのと同様に似てる人なんて山ほど居るかもしれない。もし仮に二人がレオン殿下の兄弟だとしたらとんでもない事だよ。だって王子様とお姫様と話したって事になるんだから。

 
 「……ニック。ボスは?」

 「気配がありませんな。奥を探してきます」

 ボス部屋に入って数分がたったと言うのに一向に現れないボスモンスター。 パーティ内に不安の色が漂う。



 ガサガサ、ガサガサ


 「アンくん、何か聞こえない」

 「何が?」

 「あれ? 空耳かな……?」


 ガサガサ ガサガサ ガサッ ガサガサ


 「ねぇ、やっぱり何か聞こえない?」

 「き、聞こえた……」

 顔を見合わせ、私達は頷く。
 何処からか聞こえる音。
 多分、ボスモンスターの足音だろう。


 ガサガサ ガサガサ ガサガサ!


 「な、何でだろう……鳥肌がたってきたよ。それに……なんか音が大きくなってきてるような」

 「お師匠、大丈夫? 顔色悪いよ?」


 そう指摘され、私は苦笑を浮かべた。

 なんでだろう? 寒気もしてきた……。
 気分転換に深呼吸しよう。
 うん、そうしよう。もしかしたらよくなるかも。

 私は顔を上に上げる。
 すると赤くてギラりと光る目と目が合った。

 大きな体は真っ黒でその体には沢山の脚がある。
 その生物の大きさは普通のサイズよりもはるかに大きなものだった。

 「て、天井……」

 「え?」

 「天井です!! 天井!!」

 生まれて初めてこんな大声を出したと思う。
 明日はきっと声はガラガラだろう。
 だけど、これは大声をあげずにはいられなかった。

 だって……


 「ボスが蜘蛛とか聞いてません!!」

 天井に居たのは巨大蜘蛛だったのだから。

 「うわ、キモっ」

 「脚が多いな!」

 「蜘蛛だからな」

 平然とする皆に私は唖然とする。
 皆、蜘蛛怖くないの?
 ニックさんなんてあんな巨大蜘蛛を見てもケロりとしている。

 あれと戦う?
 無理に決まってる。
 なにせ私は大の虫嫌いなのだから。
 特に蜘蛛は大の苦手なのだ。

 「攻撃がくるぞ!」

 「皆、避けろ!!」

 そんな声が聞こえてきて、皆が一斉にあちらこちらへと散らばり出す。私もアンくんと共に攻撃範囲に入られない場所へと移動する。しかしそれは突如天井から地へと降りてきたボスモンスターである巨大蜘蛛によって阻止された。
 
  急に近くで見るとその不気味さは際立ち、全身に寒気が走った。


 「エデン嬢! 攻撃がくるぞ!!」

 ニックさんの声が聞こえてきたかと思えば、次の瞬間巨大蜘蛛がこちらへ物凄いスピードで向かってきた。 
 このままじゃご飯。もしくは下敷き。
 額から物凄い冷や汗が伝ってくるのが分かった。

 こうなったらもう焼き付くしてやる!
 自分の身を守る為に。

 私は巨大蜘蛛へと手の平を向け、ありったけの声で叫ぶ。

 「モンスターを焼き払えーー!!」

 次の瞬間、私の手の平から物凄い勢いで炎が現れた。
 炎は渦をつくり、巨大蜘蛛を包み込む。
 その炎は力強く燃え上がる。

 そして数分後、炎の渦がやんだ。
 しかしそこには何も無く、巨大蜘蛛の跡形も無かった。

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