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始まりの王都編

09 使用人とお父様がやって来た

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 ショッピングを終えた後はいろいろな所を巡った。
 スイーツを食べたり、お散歩したりと王都を満喫した私はすっかり王都の空気に和んでいた。

 次は何処に行こうか?

 なんてミレイと話していると、ふと視線にちょび髭のスラリとしたおじさんが視界に入ったきた。
 何処かお父様に似ているような男性だ。

 ――お父様?

 咄嗟に物陰に隠れる私。
 ミレイが、「どうかした?」 と心配そうに私へと言葉を投げ掛ける。
 一方私は物陰からチラリとお父様にそっくりな人が居た場所を今度は満遍なく見渡す。
 そしてやっと見つかった。
 ちょび髭が目立つスラリとした男性を。
 私はその人を凝視する。

 
 …………本人だ。

 額に汗が滲み、頬を伝った。


 「どうかしたの? エデン?」

 「……逃げないと。お父様が私を捕まえに来たんだわ」

 「え? お父様? ……取り敢えず逃げましょう。こっちよ!」

 ミレイに手を引かれ私は駆け出した。
 まさか王都にまで追いかけてくるだなんて予想してもいなかった。

 人が多い道に出て、そんな人達を掻き分けながら進んでいく。
 手を引かれ走る私。何だかロマンス小説に出てきそうな光景である。

 ふと後ろから聞きなれた声が聞こえてきた気がした。

 私は後ろを振り向く。
 すると五メートルくらいの所に見覚えのある男性が居た。
 目を凝らして見てみる。
 キッチリとした服装。
 その胸元にはディグラート家の紋様があった。
 使用人は物凄いスピードでどんどん私達へと距離を詰めてくる。

 「使用人が来てる……! どうしよう。捕まっちゃう……!」

 「っ! 強化魔法ね。これじゃあ追いつかれてしまうわ」

 そう言えば屋敷に仕える使用人は全員魔法が使える人だった気がする。

 ミレイまで巻き込んじゃって申し訳無いなんて言葉じゃ済まされない。
 ここは私が何とかしないくちゃいけない。
 
 必死に頭を回転させる。

 私のステータスはどれも平均を大きく上回っている。
 確か屋敷の使用人達のステータスは凄い人で400ぐらい。
 強化魔法を使ったとしても私の素早さのステータスを超える人なんて居ない。てか、超えれる人なんて居るのかな? お父様、お母様、フェリーヌだって超えれないと思う。


 …… 魔法を使う?
 いや、さすがに初めて使うわけだし……もし魔法をコントロール出来ずに周りの人達を巻き込むような事をしてしまったら? 
 考えるだけでゾッとした。
 なにせ私のステータスはマックスの1000。
 魔法攻撃の威力は使った事が無くても相当な物だろうという予想が出来た。

 なら……方法は一つしかない。
 

 「しっかり……捕まっててね!」

 そう忠告すればミレイが目を丸くした。

 「エデン何をする気なの!? きゃっ!」

 ミレイの小さな悲鳴が聞こえてきた。
 さすがにこれはビックリさせたに違いない。
 逃げる為とは言え、同年代の女の子をお姫様抱っこするなんて。
 それは周りからした異様な光景でもある。
 本当はおんぶでも良かったんだけど、生憎背中にはリュックがあるのだ。

 もしミレイだけ置いていけばきっとお父様達に捕まってしまうだろう。
 それだけは絶対にしては駄目だ。
 なら一緒に逃げるしかない。


 私はミレイをお姫様抱っこし、走り出す。
 それはもう全速力で。

 何度も人とぶつかりかけた。
 その度に謝罪しつつ走り続けた。

  ぶつかりかけた皆さん、本当にすみません。

 と心の中でも謝りながら。




 *************




 「ここまで来れば……いっか」

 辿り着いたのは王都にそびえ立つお城が見える王都から少し離れた場所にある丘。
 野の花が咲き誇る丘の上で私は腰を下ろす。

 「ミレイごめんね。驚かせちゃって」

 「驚いたけど、凄く楽しかったわ。お姫様抱っこなんて初めてだったもの」

 やけに楽しそうに笑うミレイ。
 私としては全然楽しくも何とも無いんだけどミレイが笑ってくれたので何だかホッとした。

 「エデン。何故貴方がお父様から逃げているのかは何となくだけど分かった気がする。だから…………早く行った方がいいと思うの。きっと彼らは直ぐに貴方を追いかけて来る」

 どうやらミレイは私の現状を何となくだが察したらしい。
 ほんと、賢い人だと思った。

 「うん……ミレイは?」

 「私の事は気にしないで。貴方と過ごせた時間は短かったけどとても楽しかった。またいつか会いましょう」

 手を差し伸べられ、私は立ち上がりその手を両手で握し返す。
 ギュッと力を込めれば、ミレイもギュッと私の手を握った。

 初めて出来た友達。
 だけどもうお別れしなくちゃいけない。
 短い時間だったけど、本当に本当に楽しかった。

 「目的地は決まってるの?」

 「実はルベル村っていう所に行こうと思ってて」

 「ならここから真っ直ぐいけば大丈夫よ。凄く遠い所だけど……エデンなら大丈夫ね。さっきも凄く速かったもの」

 「うん。あ、そうだ」

 私は慌てて鞄から包を取り出し、ミレイへと差し出す。 
 あの時買ったミレイへのプレゼントだ。

 ミレイは目を丸くし、その包を見つめている。
 そして次の瞬間、まるで花が咲いたかのような笑みを浮かべた。

 「嘘、私に? 嬉しい……ありがとう、エデン!」

 「私からの御礼だよ。こちらこそありがとう」

 「…………プレゼントとても嬉しいわ。今開けてもいい?」

 「い、今!? 恥ずかしいな」

 「そう? じゃあお家に帰って開けるわね」


 ミレイはそう言うと、クスクスと小さく笑った。
 きっとエデンは恥ずかしがり屋ね、と思ってるに違いない。
 うんうん。顔にそう書いてある。


 それから直ぐ、私達はさようならをした。

 またいつか王都に遊びに行こう。
 そしてミレイと沢山話したい。
 今度はちゃんと自分の事を知ってもらって……ミレイさえ良ければミレイについても教えて欲しい。

 だって友達だから。






    














 「レイ王女! こんな所にいらっしゃったのですね。さぁ、早くお城へ帰りましょう。何度もお城から抜け出して……探すのがどれだけ大変か分かっているのですか!?」

 「…………そんな事よりも今すぐ魔術師団団長ディグラードを私の元へ連れて来なさい。いい?」

 「は、はい。それは構いませんが……何故?」

 「…………それはまだ言えないわ。秘密よ。秘密。」

 
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