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プライドなんて捨ててしまえ

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 これでも私、この学校で一番、ダントツでモテるの。

 告白されたり手紙を受け取ったりなんて日常茶飯事だし、街を歩けばモデルのスカウトだって何度もされたわ。

 今だってほら、軽く微笑んだだけで、隣の席の男の子は耳まで赤くなっちゃって。

 私に、手に入れられない男はいないの。

 なのに––––



「あらおはよう、今日はいつもよりちょっと早いわね」

「……」


 この私がわざわざ声をかけたというのに、奴はぺこりと会釈だけしてそそくさと自分の席へ座った。

 あぁこれはきっと照れているのね、最初はそう思ったのだけれど。


『今帰り? ご一緒してもいいかしら?』

『……用事があるので』


『あなたよく音楽聞いてるわよね。誰が好きなの?』

『……色々』


『家庭科実習でクッキーを焼いたの。欲しければあげてもいいのよ?』

『……甘いもの嫌いなんで』


 こうもそっけない対応が続くと、照れを通り越して、まさかこの私に興味がないのではという気に……

 いえ、そんなはずないわ。

 だって私はこんなに美しいもの。

 手鏡を見てもやっぱり今日も完璧で、鏡ごしに目があった後ろの席の男子にウインクする。

 彼は真っ赤になってどもっている。

 ほらやっぱり、でもじゃあ何が気に入らないのよ。

 ……そんなことを悩んでいる間に1日が終わってしまった。

 外はいつの間にかザーザーと雨が降っていて。

 傘を忘れてしまったけれど男子に頼めばすぐに……いや、これはチャンスよ。

 玄関口に向かった奴を追いかけて教室を飛び出る。

 青い大きな傘、見つけたわ。


「ねぇ?」

「?……どうしたの?」

「私、傘持ってないのよね」

「……?」


 それが? と言わんばかりの目に、今度こそいい加減にカチンときた!


「か弱い女の子に、傘なしで帰れって言うの⁈ そこは、入れて行ってあげる、でしょう⁈」

「……びっくりした、そんな大声出るんだね」


 しまった。

 何人かがこっちをチラチラと見ている。

 やってしまった、こんなのは私のイメージと違うのよ。

 あーー、もーー……

 奴との会話だけどうしてこんなにうまくいかないの。

 こんな時なのに、奴はふっと笑った。

 え? 今私に笑いかけたの?


「傘忘れたなら、そこの傘立ての緑の傘、僕の置き傘だから使っていいから」

「え、あ、置き傘? えっと……」

「僕の家、君の家と反対方向だから。僕はこの後塾があるし、君は今日習い事でしょ? だから送っていけないから、お先に」

「えっ、えっ?」


 え、私の家の場所知ってるの? とか、私のスケジュール覚えてたの? とか、色々聞こうとしている間に奴はさっさと帰って行ってしまった。

 え、だってあんなに私に興味ない風だったのに。

 パンクしそうになる頭。

 熱くなった顔を緑の大きな傘で隠して、私は雨の中へ踏み出した。

 ……こんな顔、誰にも見せられるわけないじゃない。


『プライドなんて捨ててしまえ』
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