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第二十二話 再会 その②
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火曜日。夕方五時半。
美冬のゲームから六日目。
渡辺の元妻と娘の住む町の駅前のファミレスに、渡辺と美冬、そして渡辺の娘・遥がいた。
渡辺と美冬は隣同士に、テーブルを挟んだ向かいに遥が座っていた。
渡辺は『付いて来なくていい』と言っていたのだが、『心配だから行く』と、美冬が付いて来たのだ。
「そうか、何も変わらないか」
「うん」
渡辺の言葉に遥は頷いた。
テーブルの上にはドリンクバーでそれぞれが選んだ飲み物と、フライドポテトが置かれていた。
渡辺は久し振りにちゃんと会うの娘と美冬に、『好きな物を注文しろ』と言ったのだが、二人は共にお腹は空いていないと言い、それで取り合えず置いて置けばみんな摘むだろうと、フライドポテトを注文したのだった。
「それで、就職するのか」
「そう、学校から紹介も貰ってるし。工場だけどね」
「そうか。しかし、なんとかならないかなぁ。俺も幾らかは出せるし、奨学金借りるとか? 一人娘だからな。今時の子はみんな専門学校やら大学やらが当たり前なんだろ?」
渡辺は我が子を不憫そうな目で見て言った。
「決めたから。それにそういう『でも』とか『しかし』とか、人の考えを否定する様な事言わないで。不愉快になるから」
「ああ、すまん」
「大体奨学金って借金だよ。お父さん、あんなにお母さんに怒られたじゃない。私凄い不安な気持ちで毎日二人を見てたの、お父さん忘れたの?」
「ああ、そうだな。忘れない、忘れないよ。寧ろお前達より俺の方が覚えてるくらいだ。俺の時間はあそこで止まったんだから。あれから五年間止まったままだ。お前との生活の何気ない会話や、行動はそこで途切れてる。お前が何を考え、どういう暮らしをして、学校では友達とどんな話をして来たのかとか、俺は知らない。そもそも居ないんだから記憶もない。お母さんについても同じだ。独りぼっちで、お前たちと離れた日の事だけを、最後のあの日の事だけを、何回も何回も思い出して過ごしていたよ。だから、忘れる訳がない」
言いながら渡辺は過去の出来事を思い出した所為か、涙と鼻水を流していた。
だから備え付けのナプキンを数枚取ってはそれを拭く。
「分かってるけど。元々お父さんが悪いんだからね」
そんな渡辺の様子に、少し言い過ぎたとでも思ったのか、伏せ目がちに目線を逸らしては遥が言った。
「分かってる。分かってるよ」
追従する様に渡辺も言う。
そしてそれまで黙って見ていた美冬が、ここで何かが気になったのか突然口を開き始めた。
「そんなに、そんなにおじさんのやった事は悪い事なんですか? 人生を棒に振らなきゃいけない程の事なんですか? 五年間って、私だとまだ小六じゃないですか? そんな、そんな長い年月独りぼっちで、そこまで酷い事を、おじさんはしたんですか!」
その言葉に驚く遥。
「それは、私では何とも言えません。子供ですから。親が、お父さんとお母さんが決めた事だから。私だって、お父さんと暮らさなくなってからは…私や、それにお母さんだって、最初の頃はずっと泣いてたんだから」
「そうだ、俺が悪いんだ。どんなに妻に言われても、絶対に離婚だけはしなければ良かったんだ。俺が悪い」
そんな遥の言葉に、娘の肩を持つ様に言う渡辺。
それから今度は遥が美冬の方をキッと睨み付けるような目をして口を開いた。
「そもそも美冬さんは、只の知り合いなんですよね? 今はもうみんな落ち着いて、新しい生活を送ってるんです。それなのになんだってそんな掻き回すような事を言うんですか」
「只の知り合いじゃないからです。友達です」
美冬へと言い返す様に言った遥の言葉に即座に反応する美冬。
「おじさんの友達です!」
つづく
美冬のゲームから六日目。
渡辺の元妻と娘の住む町の駅前のファミレスに、渡辺と美冬、そして渡辺の娘・遥がいた。
渡辺と美冬は隣同士に、テーブルを挟んだ向かいに遥が座っていた。
渡辺は『付いて来なくていい』と言っていたのだが、『心配だから行く』と、美冬が付いて来たのだ。
「そうか、何も変わらないか」
「うん」
渡辺の言葉に遥は頷いた。
テーブルの上にはドリンクバーでそれぞれが選んだ飲み物と、フライドポテトが置かれていた。
渡辺は久し振りにちゃんと会うの娘と美冬に、『好きな物を注文しろ』と言ったのだが、二人は共にお腹は空いていないと言い、それで取り合えず置いて置けばみんな摘むだろうと、フライドポテトを注文したのだった。
「それで、就職するのか」
「そう、学校から紹介も貰ってるし。工場だけどね」
「そうか。しかし、なんとかならないかなぁ。俺も幾らかは出せるし、奨学金借りるとか? 一人娘だからな。今時の子はみんな専門学校やら大学やらが当たり前なんだろ?」
渡辺は我が子を不憫そうな目で見て言った。
「決めたから。それにそういう『でも』とか『しかし』とか、人の考えを否定する様な事言わないで。不愉快になるから」
「ああ、すまん」
「大体奨学金って借金だよ。お父さん、あんなにお母さんに怒られたじゃない。私凄い不安な気持ちで毎日二人を見てたの、お父さん忘れたの?」
「ああ、そうだな。忘れない、忘れないよ。寧ろお前達より俺の方が覚えてるくらいだ。俺の時間はあそこで止まったんだから。あれから五年間止まったままだ。お前との生活の何気ない会話や、行動はそこで途切れてる。お前が何を考え、どういう暮らしをして、学校では友達とどんな話をして来たのかとか、俺は知らない。そもそも居ないんだから記憶もない。お母さんについても同じだ。独りぼっちで、お前たちと離れた日の事だけを、最後のあの日の事だけを、何回も何回も思い出して過ごしていたよ。だから、忘れる訳がない」
言いながら渡辺は過去の出来事を思い出した所為か、涙と鼻水を流していた。
だから備え付けのナプキンを数枚取ってはそれを拭く。
「分かってるけど。元々お父さんが悪いんだからね」
そんな渡辺の様子に、少し言い過ぎたとでも思ったのか、伏せ目がちに目線を逸らしては遥が言った。
「分かってる。分かってるよ」
追従する様に渡辺も言う。
そしてそれまで黙って見ていた美冬が、ここで何かが気になったのか突然口を開き始めた。
「そんなに、そんなにおじさんのやった事は悪い事なんですか? 人生を棒に振らなきゃいけない程の事なんですか? 五年間って、私だとまだ小六じゃないですか? そんな、そんな長い年月独りぼっちで、そこまで酷い事を、おじさんはしたんですか!」
その言葉に驚く遥。
「それは、私では何とも言えません。子供ですから。親が、お父さんとお母さんが決めた事だから。私だって、お父さんと暮らさなくなってからは…私や、それにお母さんだって、最初の頃はずっと泣いてたんだから」
「そうだ、俺が悪いんだ。どんなに妻に言われても、絶対に離婚だけはしなければ良かったんだ。俺が悪い」
そんな遥の言葉に、娘の肩を持つ様に言う渡辺。
それから今度は遥が美冬の方をキッと睨み付けるような目をして口を開いた。
「そもそも美冬さんは、只の知り合いなんですよね? 今はもうみんな落ち着いて、新しい生活を送ってるんです。それなのになんだってそんな掻き回すような事を言うんですか」
「只の知り合いじゃないからです。友達です」
美冬へと言い返す様に言った遥の言葉に即座に反応する美冬。
「おじさんの友達です!」
つづく
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