未成熟なセカイ 

孤独堂

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第一部 未成熟な想い (小学生編)

第53話

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 美紗子は自分から催促した事への恥ずかしさと、受け入れて貰えたという事の嬉しさとで、唇をキュッと噤んだまま、やはり頬を紅らめ、ゆっっくりとぎこちなく手を伸ばした。
 幸一の指先に触れると、そこを自分の指を滑らせる様にし、感触を確認するかの様にしながら、 少しずつ掌の方に向かう。そうやって、全てを記憶に刻むかの様にして、美紗子は自分の掌を、幸一の掌と重ね合わせた。

   ギュッ!

 その瞬間、美紗子が柔らかく重ねた掌を幸一が強く握り締めた。

「帰ろう」

 幸一は微笑みながらそう言って、美紗子の手を軽く引っ張りながら、歩き出そうとした。
 美紗子は、ドキドキとした鼓動が止まらなかった。
 自分が意識しているのが、はっきりと自分でも分った。
 だから幸一に引っ張られても、直ぐに反応出来ずに思わず躓きそうになっても、声一つ上げられなかった。

 幸一と手を繋いで歩く。
 今までだって手を重ね合わせたり、何かの拍子に体が触れ合う事はあった。
 しかしその都度に、今の様な感情はなかった。
 今までの「好き」と、今の「好き」は違う。
 二日間話が出来なかった事が、それまで当たり前だと思っていた事への想いを募らせ、美紗子の中の想いをよりはっきりとした輪郭の、強いものへとした。
 だから今の幸一と手を繋いで歩く美紗子は、全身に鳥肌が立つ様な不思議な温かさを感じて、ボーッとして歩いていた。
 幸一が隣で何かを語りかけているのも聞こえずにボーッと。

 幸一の住むマンションと、美紗子の家の方向は、途中までは同じ道だった。
 幸一のマンションは、国道沿いにあったが、美紗子の家はそのマンションに辿り着く三百メートル程前に、国道を右折して新興住宅地の方へ入って行く。
 幸一は美紗子を家の方まで送るべきか、分かれ道の所でバイバイするべきか、悩んでいた。
 今歩いている旧道沿いは、点在する街灯から外れると結構暗く、前を歩いて来る人がいてもなかなか気付けない位だった。
 そんな所を美紗子が一人で歩いて来たのも驚きだったが、その道をまた一人で帰らせるのも幸一自身しのびなかった。
 もう少し行って国道に出れば、今よりも街灯の数も増え、車の往来も増えるので、相当明るくなる。コンビニやガソリンスタンド等の明かりも増える。しかし、それから右折して美紗子の家へと向かう住宅地の道は、また街灯の数が極端に減り、夜は正直寂しい道だった。

(そもそも美紗子は親に何と言って家を出て来たのだろう?)

 そんな素朴な疑問が幸一の脳裏に浮かんだ。
 幸一は正面を見たまま、隣を歩く美紗子の事を目だけを動かしてチラリと眺めた。
 手を繋いで歩き出してから、一言も発していない美紗子、やはり幸一と同じ様に正面を見て歩いている。

「どうする? 家まで送って行く?」

 前を見ながら幸一は、気になっていた事をそれとなく口に出す。
 しかし美紗子からの言葉は返って来なかった。
 何か考え事をしているのか、心此処に有らずの様な状態に感じて、幸一もそれだけで口を噤んで、暫くは話しかけようとはしなかった。

 そんな感じなので、二人はとりたてて周囲を気にしながら歩いている訳でもなかった。
 だからこの密会を仕組んでくれた紙夜里こよりが、四メートル程後ろを歩いている事も、知る由はなかった。




       つづく
 
 
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