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第二十話 やさしい旅 その①

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 「順番に話せばいいと思うんだけど、何処から話せば良いんだろ?」
 電車の席に座り、奈々は思案していた。
 土曜日だけど、中堅の街から小さな町に向かう形になるので、車内は結構空いていた。座席は向かい合わせのタイプだった。二人は向かい合わせに座り、脇が空いていたが、まだ席は幾つも空いていたので合席する者はいなかった。
 「その、幼馴染の話はあまり、聞きたくないな」
 元秋は窓の外の流れる景色を見ながら、ボソッと言った。
 「嫉妬?」
 ニッコリしながら奈々が聞く。
 『ああ、俺が嫉妬や心配をすると奈々は自分への愛情を感じて満足なんだな。ホントにこういう所は小学生の子供みたいだ。直ぐニコニコするからある意味分り易いや』
 そう思うと元秋も笑顔になり、
 「そう、嫉妬ですー」
 と、言った。
 「でもね、ちゃんと意味があるの。お墓参りして、ピクニックすると、きっと元秋君も分ってくれると思う。だから、どれから話そうか、話せばいいのか、考えてる」
 「フーン。じゃあ最初から、順番に教えてよ」
 元秋が言った。
 「それは駄目。最初の話は今日一日元秋君にも考えて貰いたいから」
 「は、何だそりゃ?」
 奈々の話に元秋は意味不明になった。
 「そういう話なの。もう、安藤さんは直ぐに分ったんだけどな」
 「安藤、アイツは女にはこまめで、記憶力も良いからな。ん?アイツが奈々と何処かで会ってるとしたら、俺も会ってる?奈々に!」
 「ピンポーン。正解!」
 「え、何処で?いつ?」
 「ブブー!はい、それはまだ自分で考えて下さい」
 嬉しそうな顔をして奈々が言った。
 「えー、全然分んないんだけど」
 困った顔をして元秋が言った。
 「考えて」
 ニコニコしながら奈々が言った。

 二十分程で、電車は奈々の町に着いた。
 元城下町の小さな町だ。城跡周辺に商店街があり、駅は中心地から外れているので、駅前には農協やスタンドがあるだけで、店屋等は殆ど無かった。
 「何にもない町だけど、城下町だからお寺は一杯あるの」
 改札を抜け、駅前に出て奈々は言った。
 「へー、あれ、でも、奈々の町に来るなら此処で待ち合わせでも良かったんじゃない」
 元秋が奈々に聞いた。
 「でも、あっちで待ち合わせした方が二人でこの町に来れるんだよ」
 「そうだけど」
 「二人で電車で来たくなかった?」
 こういう発想は奈々だけなのか、世の女性全般なのか、きっとこういうのが女心と言うのだろうと元秋は思った。
 「ああ、二人で来たかった。二人なら電車の中も楽しいしね」
 そう、元秋は言った。
 「よし」
 奈々は満足気に言った。

 駅前の道を奈々の跡を付いて元秋は歩く。
 駅に向かう人とは逆方向なので、たまに何人かの人とすれ違う。
 その中に奈々の中学の同級生がいた。
 「野沢菜、誰その人?」
 奈々の同級生が元秋の方を見て言う。
 『野沢菜、野沢菜だって。マジ言われてたのかー』
 元秋は笑いたくなるのを堪えた。
 「へへへ、この人佐野元秋さん。彼氏」
 紹介するのが嬉しくてしょうがない様にニヤニヤしながら奈々が言った。
 「えー、野沢菜の彼氏!?じゃあ、もしかして神様?」
 同級生がビックリして聞く。
 「そう、神様見つけちゃった!」
 奈々は更に嬉しそうに言った。
 同級生は奈々と元秋の顔を交互に見比べて、奈々の耳元で囁いた。
 「確かに写真の人に似てる」
 「本人だもん!」
 奈々は即座にニコニコしたまま言い返す。
 「へー」
 そう言うと同級生は驚いた顔で元秋の顔を繁々と見て、続けて言った。
 「野沢菜、間違った。野沢さん、中学の時結構モテたんですよ。でも、誰とも付き合わなかったんです。神様一途で。へー、本当に見つけて付き合ったんだー。へー、えっと、佐野さん?野沢さんと別れないで下さいね」
 「は、はい」
 何の事か全く分らないまま元秋は答えた。
 奈々はニコニコ笑ったままでいた。


    つづく
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