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【陸王遼平】
リサイクル業者が見つかった
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調査会社に依頼をした翌日、五社のうち一社から連絡があった。
葉月のアパートの家具を買い取ったリサイクル業者が見つかったのだという。
――――――――――――――――――
すぐさま仕事を切り上げその店へと車を走らせる。
深夜できる仕事はすべて深夜に回しできるだけ昼間に時間が取れるよう仕事を調整していた。進んでフォローをしてくれる二本松と静のお陰でもあるが。
入り組んだ狭い道にある店はなかなか見つからなかった。
店の入れ替わりが激しいのか、ナビも役に立たない。
狭い道を徐行しつつ走る中、声が、聞こえた。
「はづきくん……。はづきくん………」
ぴょん太!?
車を止めて声の出所を探す。
店先のコンテナの中に、ヌイグルミがでたらめに詰められていた。
耳の取れたクマ、目の無いサル、変色したイヌ――その片隅に、見慣れたウサギを見つけた。
間違いない、ぴょん太だ。
葉月が選んだバンダナを付けたまま、コンテナの中に横たわり、うつろな瞳に空を映していた。
その店には看板さえなかった。店頭にでたらめに並べられた雑貨のお陰で辛うじてリサイクルショップなのだと判断ができる程度だ。
「ぴょん太!」
いつもなら、「遼平君、いたの?」と悪態をついてくるウサギは反応しなかった。
ただひたすら葉月の名前を繰り返している。
「そのウサギだったら200円でいいよ。壊れちゃってるけど、持ち主の子がひどく大事にしてたみたいだから可愛がってやってね……って、ひょっとして、あんたが陸王さんかい?」
店から身長は低いながらもがっしりと筋肉の付いた中年の男が出てきた。
この店の店主か。
「あぁ」
「持ち主の子の行方を捜してるんだって? 事情は調査会社の人に聞いたが、引き取った家具が一万円にならなかったから身分証の確認はしてなかったんだよ。力になれなくてすまないねえ」
「家具を引き取った時のことを詳しく聞かせてください」
「詳しくっつってもなぁ……」
店主は一瞬言いにくそうにしたが、声を潜めて言った。
「客を悪く言うのもなんだけどな、50代ぐらいのエラソーな太ったおっさんが、『犯罪者』がどーのこーのって若い子を責めてたよ。正直、気分悪かったなぁ。どんな犯罪をしたのか知らないけど、悪いことをするような子には見えなかったけどなあ」
「ちがうっすよ、店長」
店の隅で作業をしていたシャツとジーンズ姿の若い男が口を挟んだ。
口ぶりからするとここの従業員か。
「『犯罪者の息子』って言ってたんですよ。子どもの方は、『家に戻るから人には言わないでください』って謝ってました。あのオッサン、あの子の父親っすよね? 自分のガキに『犯罪者の息子』なんて意味判んねーって思ったから良く覚えてますよ。あ、そだ、念のために言っておきますけど、立ち聞きしてたわけじゃねーっすからね。あのアパート、壁がベニアみたいに超薄いから聞こえたってだけで」
「構わねえよ。他には何か覚えてないか?」
「うーん、後は手紙を書いてたことぐらいしか……。ただ、そのヌイグルミにごめんって謝ってました。超小声で聞き取れないぐらいだったけど。目も、こう、うつろで、なんか可哀想でしたよ」
「そうか……。あのアパートから引き取った品はどれだ。全部買い取らせてくれ」
「それが、ほとんど全部売れちゃったんだよ。残ってるのはそのヌイグルミとこれぐらいさ」
店主が指さしたのは、ひどく懐かしく感じる丸いちゃぶ台だった。
小さな茶碗を片手に笑う葉月の姿がフラッシュバックした。
会計を済ませ、ちゃぶ台の配送の手続をして店を出る。
「……はづきくん……。はづきくん……。」
ぴょん太が葉月の名前を呟き続けている。
「……お前も寂しいか。俺が葉月を見つけ出してやるから、少し眠ってろ」
車に戻り、背中の電池を抜いてやる。
修理に出そう。
葉月が戻ってきた時、ぴょん太が壊れていたら悲しむ。
葉月の情報は着々と集まるのに決定的なものが無い。
拳でハンドルを打つ。狭い車内にガンと低い音が響いた。
拳に額を乗せ、きつく目を閉じる。
携帯は、まだ、鳴らない。
葉月のアパートの家具を買い取ったリサイクル業者が見つかったのだという。
――――――――――――――――――
すぐさま仕事を切り上げその店へと車を走らせる。
深夜できる仕事はすべて深夜に回しできるだけ昼間に時間が取れるよう仕事を調整していた。進んでフォローをしてくれる二本松と静のお陰でもあるが。
入り組んだ狭い道にある店はなかなか見つからなかった。
店の入れ替わりが激しいのか、ナビも役に立たない。
狭い道を徐行しつつ走る中、声が、聞こえた。
「はづきくん……。はづきくん………」
ぴょん太!?
車を止めて声の出所を探す。
店先のコンテナの中に、ヌイグルミがでたらめに詰められていた。
耳の取れたクマ、目の無いサル、変色したイヌ――その片隅に、見慣れたウサギを見つけた。
間違いない、ぴょん太だ。
葉月が選んだバンダナを付けたまま、コンテナの中に横たわり、うつろな瞳に空を映していた。
その店には看板さえなかった。店頭にでたらめに並べられた雑貨のお陰で辛うじてリサイクルショップなのだと判断ができる程度だ。
「ぴょん太!」
いつもなら、「遼平君、いたの?」と悪態をついてくるウサギは反応しなかった。
ただひたすら葉月の名前を繰り返している。
「そのウサギだったら200円でいいよ。壊れちゃってるけど、持ち主の子がひどく大事にしてたみたいだから可愛がってやってね……って、ひょっとして、あんたが陸王さんかい?」
店から身長は低いながらもがっしりと筋肉の付いた中年の男が出てきた。
この店の店主か。
「あぁ」
「持ち主の子の行方を捜してるんだって? 事情は調査会社の人に聞いたが、引き取った家具が一万円にならなかったから身分証の確認はしてなかったんだよ。力になれなくてすまないねえ」
「家具を引き取った時のことを詳しく聞かせてください」
「詳しくっつってもなぁ……」
店主は一瞬言いにくそうにしたが、声を潜めて言った。
「客を悪く言うのもなんだけどな、50代ぐらいのエラソーな太ったおっさんが、『犯罪者』がどーのこーのって若い子を責めてたよ。正直、気分悪かったなぁ。どんな犯罪をしたのか知らないけど、悪いことをするような子には見えなかったけどなあ」
「ちがうっすよ、店長」
店の隅で作業をしていたシャツとジーンズ姿の若い男が口を挟んだ。
口ぶりからするとここの従業員か。
「『犯罪者の息子』って言ってたんですよ。子どもの方は、『家に戻るから人には言わないでください』って謝ってました。あのオッサン、あの子の父親っすよね? 自分のガキに『犯罪者の息子』なんて意味判んねーって思ったから良く覚えてますよ。あ、そだ、念のために言っておきますけど、立ち聞きしてたわけじゃねーっすからね。あのアパート、壁がベニアみたいに超薄いから聞こえたってだけで」
「構わねえよ。他には何か覚えてないか?」
「うーん、後は手紙を書いてたことぐらいしか……。ただ、そのヌイグルミにごめんって謝ってました。超小声で聞き取れないぐらいだったけど。目も、こう、うつろで、なんか可哀想でしたよ」
「そうか……。あのアパートから引き取った品はどれだ。全部買い取らせてくれ」
「それが、ほとんど全部売れちゃったんだよ。残ってるのはそのヌイグルミとこれぐらいさ」
店主が指さしたのは、ひどく懐かしく感じる丸いちゃぶ台だった。
小さな茶碗を片手に笑う葉月の姿がフラッシュバックした。
会計を済ませ、ちゃぶ台の配送の手続をして店を出る。
「……はづきくん……。はづきくん……。」
ぴょん太が葉月の名前を呟き続けている。
「……お前も寂しいか。俺が葉月を見つけ出してやるから、少し眠ってろ」
車に戻り、背中の電池を抜いてやる。
修理に出そう。
葉月が戻ってきた時、ぴょん太が壊れていたら悲しむ。
葉月の情報は着々と集まるのに決定的なものが無い。
拳でハンドルを打つ。狭い車内にガンと低い音が響いた。
拳に額を乗せ、きつく目を閉じる。
携帯は、まだ、鳴らない。
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