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【陸王遼平】
コンビニのスイーツコーナー
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葉月が顔を覗かせる。
さすがに下半身までは見えなかったものの、細い首から続く滑らかなラインとくっきりと浮き出た色っぽい鎖骨、しっとりと濡れて輝く真っ白の肌、そして、つんと立った小さな乳首が見えてしまった。
不安に怯える表情と髪から滴り落ちる水滴も相まって、一瞬で暴発しそうになった。色んな物が。
「よかった、居た……。帰っちゃったかと思ったよ……!」
はー、と、安堵の溜息をついて葉月が引っ込んで行く。
風呂を片付ける音、そしてばたばたと身支度を整える音がして飛びつくように俺の前に正座した。
「帰るときは言ってください。その、急に居なくなってたら悲しいから……」
「キュウニ イナクナッタリ シネーヨ」
しまった。片言になった。
「意地悪して悪かった。返事しなかったら慌てるかなーってほんの悪戯心だったんだ。ほら、まだ髪が濡れてるぞ」
肩に掛けていたタオルで葉月の頭を拭いてやる。
葉月は一瞬びっくりした顔になったけど、すぐに楽しそうに笑った。
「遼平さん、痛いよ」
「風邪引くよりましだろ」
「じゃあ、遼平さんも」
葉月がタオルを俺の頭に乗せた。
距離が近くなる。
ぷっくりした形のいい唇が至近距離にある。
あー。キスしてえなぁ。
しちゃってもいいかな?
葉月だったら許してくれそうな気がする。ドンビキされても、冗談だって言ったら信じてくれそうな気がする。
やってみるか?
顎に手を伸ばす。
――――指が触れる寸前に、
「そうだ、明日のご飯のチェックしとかなきゃ」
ギャグマンガみたいなタイミングで葉月が立ち上がり、腕が空回りしてしまった。
がっくりうな垂れる俺を他所に葉月は冷蔵庫を開いて「う」と呟く。
「どうした?」
「卵が足りなくて……。どうしようかな。卵抜きのご飯を……」
「卵だったらコンビニで売ってるだろ。買いに行くか」
「……うん!」
時間は十時。アパートを出て二人で並んで夜道を歩く。
道には人通りも無い。
コンビニまでは片道十分の距離だが、葉月と他愛も無い話をしながら歩いてるとあっという間だった。
「卵だけでいいのか?」
「うん」
十個入りの卵を手に取る。ふと。スイーツコーナーが目に付いた。
「せっかくだからデザートも買うか。何が食いたい?」
「!」
今、葉月の頭の上にネコ耳が生えたのが見えたぞ。ぴくんってした。いや、ウサ耳だったかも。
「えと……」
葉月の視線が二つ入りのショートケーキに行った。定番のいちごの奴だ。
それから、値札に行って、難しい顔をして違うお菓子に移る。
「ショートケーキにするか」
「ぅ、その」
「これが嫌いなのか?」
「……食べた事ないです……」
「じゃぁ決定」
葉月が財布を出す前にさっさと会計を済ませる。
「泊めてもらうんだからこれは宿泊代な」
なんて言いつつコンビニを出た。
夜道をまた、並んで歩く。
不意に会話が途切れた。
まばらな街灯に照らされた一車線の狭い道路。左右には古びた街並みと、欠けた歯のようにぽっかりと開いた空き地。
人通りは無し。
普通のカップルなら手と手がぶつかり指先が触れて手を繋ぐ――って展開が望めるシチュエーションだよな。これ。
だが、あいにくと葉月は身長が低い。俺の肩までも届かない。
掌の位置も随分違うので自然な流れで手を繋ぐのは無理だ。
無理矢理体を斜めってみるか?
やめとこう。人に見られたら完全に不審者だ。
でも、遊園地では繋げなかったからここで繋いでおきたい。
初デートで手を繋ぐのが一番思い出になるからな。
……。
完璧に思考が男子高校生だな。
十年ほど年齢が退化してるぞ。
俺ってこんな情け無い男だったか?
いくら相手が未成年で男で触るだけでびっくりするような純粋な子だからって、ここまで慎重になる必要あるか?
……あったわ。
まず未成年ってだけでもアウトだな。犯罪臭犯罪臭。
空き地の草むらからガサっと大きな音がした。
「びゃ!?」
逆毛を立てるみたいに派手に驚いて葉月の背中が俺の体にぶつかる。
「ふぎゃー」「フミャフミャフミャ!」
「ふわぁ!?」
草むらの中からネコが二匹飛び出し、喧嘩をしながら道の端へ逃げて行った。
「猫か……。お化け屋敷の怪物が出てきたかと思った……」
「あそこのお化けは外まで追って来ないから大丈夫って男の子に教えて貰っただろ?」
「う」
丁度良い口実ができたぞ。
しょんぼりする葉月の手を握り締める。
「これならちょっとは怖くないだろ?」
「――――!!」
驚いたのか、葉月が体をびくつかせ足を引いた。
「葉月」
この反応は緊張してるんじゃない――――――レストランで見せた反応と同じだ!
葉月の視線がぶれる。俺の姿を捕らえていない。
咄嗟に葉月の前に片膝をついて顔を覗きこんだ。
「葉月!!」
揺れていた瞳の焦点がゆっくりと合わさって行く。
「あ、ぁ、り、りょうへい、さん、」
「あぁ。俺だ。ここにいる」
こつ、と、額をぶつけて葉月の頬に頬擦りした。
「遼平さん……」
葉月の体から緊張が解けて、きゅ、と手を握り返してきた。
小さな手だ。
俺が本気で力を入れたら骨まで砕いてしまいそうなぐらいに。
「俺は妄想じゃないからな。ちゃんとここに居る」
「……うん。ごめんなさい」
「謝るな。お前が慣れるまで何度でも手を繋ぐから覚悟しとけよ」
「……うん」
手を繋いだまま星空の下を歩く。
「葉月」
「?」
葉月より少しだけ前を歩いて、俺は、口を開いた。
さすがに下半身までは見えなかったものの、細い首から続く滑らかなラインとくっきりと浮き出た色っぽい鎖骨、しっとりと濡れて輝く真っ白の肌、そして、つんと立った小さな乳首が見えてしまった。
不安に怯える表情と髪から滴り落ちる水滴も相まって、一瞬で暴発しそうになった。色んな物が。
「よかった、居た……。帰っちゃったかと思ったよ……!」
はー、と、安堵の溜息をついて葉月が引っ込んで行く。
風呂を片付ける音、そしてばたばたと身支度を整える音がして飛びつくように俺の前に正座した。
「帰るときは言ってください。その、急に居なくなってたら悲しいから……」
「キュウニ イナクナッタリ シネーヨ」
しまった。片言になった。
「意地悪して悪かった。返事しなかったら慌てるかなーってほんの悪戯心だったんだ。ほら、まだ髪が濡れてるぞ」
肩に掛けていたタオルで葉月の頭を拭いてやる。
葉月は一瞬びっくりした顔になったけど、すぐに楽しそうに笑った。
「遼平さん、痛いよ」
「風邪引くよりましだろ」
「じゃあ、遼平さんも」
葉月がタオルを俺の頭に乗せた。
距離が近くなる。
ぷっくりした形のいい唇が至近距離にある。
あー。キスしてえなぁ。
しちゃってもいいかな?
葉月だったら許してくれそうな気がする。ドンビキされても、冗談だって言ったら信じてくれそうな気がする。
やってみるか?
顎に手を伸ばす。
――――指が触れる寸前に、
「そうだ、明日のご飯のチェックしとかなきゃ」
ギャグマンガみたいなタイミングで葉月が立ち上がり、腕が空回りしてしまった。
がっくりうな垂れる俺を他所に葉月は冷蔵庫を開いて「う」と呟く。
「どうした?」
「卵が足りなくて……。どうしようかな。卵抜きのご飯を……」
「卵だったらコンビニで売ってるだろ。買いに行くか」
「……うん!」
時間は十時。アパートを出て二人で並んで夜道を歩く。
道には人通りも無い。
コンビニまでは片道十分の距離だが、葉月と他愛も無い話をしながら歩いてるとあっという間だった。
「卵だけでいいのか?」
「うん」
十個入りの卵を手に取る。ふと。スイーツコーナーが目に付いた。
「せっかくだからデザートも買うか。何が食いたい?」
「!」
今、葉月の頭の上にネコ耳が生えたのが見えたぞ。ぴくんってした。いや、ウサ耳だったかも。
「えと……」
葉月の視線が二つ入りのショートケーキに行った。定番のいちごの奴だ。
それから、値札に行って、難しい顔をして違うお菓子に移る。
「ショートケーキにするか」
「ぅ、その」
「これが嫌いなのか?」
「……食べた事ないです……」
「じゃぁ決定」
葉月が財布を出す前にさっさと会計を済ませる。
「泊めてもらうんだからこれは宿泊代な」
なんて言いつつコンビニを出た。
夜道をまた、並んで歩く。
不意に会話が途切れた。
まばらな街灯に照らされた一車線の狭い道路。左右には古びた街並みと、欠けた歯のようにぽっかりと開いた空き地。
人通りは無し。
普通のカップルなら手と手がぶつかり指先が触れて手を繋ぐ――って展開が望めるシチュエーションだよな。これ。
だが、あいにくと葉月は身長が低い。俺の肩までも届かない。
掌の位置も随分違うので自然な流れで手を繋ぐのは無理だ。
無理矢理体を斜めってみるか?
やめとこう。人に見られたら完全に不審者だ。
でも、遊園地では繋げなかったからここで繋いでおきたい。
初デートで手を繋ぐのが一番思い出になるからな。
……。
完璧に思考が男子高校生だな。
十年ほど年齢が退化してるぞ。
俺ってこんな情け無い男だったか?
いくら相手が未成年で男で触るだけでびっくりするような純粋な子だからって、ここまで慎重になる必要あるか?
……あったわ。
まず未成年ってだけでもアウトだな。犯罪臭犯罪臭。
空き地の草むらからガサっと大きな音がした。
「びゃ!?」
逆毛を立てるみたいに派手に驚いて葉月の背中が俺の体にぶつかる。
「ふぎゃー」「フミャフミャフミャ!」
「ふわぁ!?」
草むらの中からネコが二匹飛び出し、喧嘩をしながら道の端へ逃げて行った。
「猫か……。お化け屋敷の怪物が出てきたかと思った……」
「あそこのお化けは外まで追って来ないから大丈夫って男の子に教えて貰っただろ?」
「う」
丁度良い口実ができたぞ。
しょんぼりする葉月の手を握り締める。
「これならちょっとは怖くないだろ?」
「――――!!」
驚いたのか、葉月が体をびくつかせ足を引いた。
「葉月」
この反応は緊張してるんじゃない――――――レストランで見せた反応と同じだ!
葉月の視線がぶれる。俺の姿を捕らえていない。
咄嗟に葉月の前に片膝をついて顔を覗きこんだ。
「葉月!!」
揺れていた瞳の焦点がゆっくりと合わさって行く。
「あ、ぁ、り、りょうへい、さん、」
「あぁ。俺だ。ここにいる」
こつ、と、額をぶつけて葉月の頬に頬擦りした。
「遼平さん……」
葉月の体から緊張が解けて、きゅ、と手を握り返してきた。
小さな手だ。
俺が本気で力を入れたら骨まで砕いてしまいそうなぐらいに。
「俺は妄想じゃないからな。ちゃんとここに居る」
「……うん。ごめんなさい」
「謝るな。お前が慣れるまで何度でも手を繋ぐから覚悟しとけよ」
「……うん」
手を繋いだまま星空の下を歩く。
「葉月」
「?」
葉月より少しだけ前を歩いて、俺は、口を開いた。
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