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【陸王遼平】
巨大なマンボウとか、ふれあいコーナーとか
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葉月は巨大な水槽に浮かぶ巨大なマンボウを見上げたまま動かなくなった。
口、開いてるぞ、口。
絶対驚かないって言ったくせにぽかーんとしちゃって。可愛いもんだな。
突如として凄いスピードでスケッチブックに何か書き始めた。
なんだ?
こっそり覗くと、そこに描かれていたのはやたらと楕円形に三角が二つくっついた何か。
なんだこれ? あ! マンボウか!
すごい、と、口が動く。
葉月が驚くのも無理はない。一口に三メートルと言っても実際本物を目にすると迫力が段違いだ。
こちらを向いて泰然と水に浮いている姿に、まるで俺たちの方が見世物になってしまったかのような錯覚を起こす。
「でっかいなぁ」
呟くと、やっと我に返ったらしい葉月がこくんと頷いた。
順路通りに進んでいくと、次に待ち受けていたのはサメのトンネルだ。
恐ろし気な形をしたハンマーシャークやら、映画でお馴染みのホオジロザメなどが頭上を泳ぎ回っている。のんびり浮いていたマンボウとは違い、かなりのスピードだ。
『こ、こわい! すごい迫力だ!!』
「肩車してやろうか? 迫力が増すぞ」
『遠慮します。水槽割れたらどうしよう』
早く通り過ぎようとばかりに手を引かれてしまう。
一際巨大なホオジロザメがこちらに突っ込んできた。
おー、でけえな。
感心する俺の前で、葉月がサメに向かってばっと両手を広げた。
サメは水槽のガラスに当たる直前で切り返していく。
「ぅ~~~!」
葉月の口から悲鳴が漏れた。
ひょっとして……、今、サメから俺を守ろうとしたのか?
こーんな小さな体で何を考えてるんだろうなぁこいつは。
続いて巨大なエイ、マンタが眼前に現れた。表面は茶色いのに腹は真っ白だ。
「大きい……!」ごくごく小さな声が葉月から漏れる。
確かにこいつもでけーな。ヒレをはためかせてトンネルの上に昇っていく。
真っ白の腹が頭上を覆うと同時に葉月がとうとう俺の腕を引いて走り出した。
怖がりさんめ。
この分じゃ、サメスペースにあるスタンプには気が付きそうにないな。
案の定、気が付かないまま横を駆け抜けてしまった。
スタンプコンプは次来るときのお楽しみだ。
『遼平さんが頭から食べられるかと思った……! エイのお腹の顔が怖すぎたよ!! 頭にツノも生えてたし』
「B級モンスターパニックものにありそうな展開だな。題名は『人食い巨大マンタ』。今度探してみるか」
『み、観たくないです!』
続いては触れ合いコーナーだ。
『わ、ヒトデがいる!』
「触ってみろ。結構ゴワゴワしてて面白いぞ」
『か、噛まない!?』
「かまねーよ。ヒトデに人に食いつけるぐらいの口があったら怖いだろ」
恐る恐る水に手を差し入れ、恐る恐る手のひらで掬い上げる。
掴まないあたりが葉月だな。
『わぁ、硬い、ほんとにゴワゴワする。ヒトデって食べられるのかな』
「食べられる種類もあるそうだが、あんまり推奨はされてないかな。重金属を含むうえ、味は微妙だから」
『そっか…もったいない』
ヒトデを水槽に戻してしまったが、続いて違うヒトデを手に取る。
最後に手に取ったのはナマコだ。
水槽に戻し、コーナーから離れてから、葉月が俺を見上げて言った。
『遼平さんはナマコ好き? 酢漬け作れるよ』
「今度作ってください」
なまこは見た目はあれだけど美味いんだよな。こりこりした触感で酒に合うし。
でも見た目があれなんで調理してくれる女子は少ない。
こういうどうでもいいところで男なんだなと実感してしまう。静と二本松も喜ぶだろうな。あいつらも珍味好きだし。
くらげゾーンの水槽に座り、人がいなくなったのを見計らってキスしたり、
ペンギンで水槽に張り付く勢いで喜ぶ葉月を堪能したり、
テンプレートとも言える水族館デートを堪能しつくし、水族館を出た後。
「葉月……お前の本当のお母さんの居場所を見つけたんだ」
ただいま、とぴょん太に挨拶をする葉月に、俺はそう告げた。
「――――――」
「でもな……残念なことに、亡くなっていた」
「………………!」
葉月が小さく息を呑む。
「身寄りの無い方だったから、お前の親戚を見つけ出すことはできなかったんだけど、お母さんの親友だった女性と話ができることになったんだ。その人にお前を会わせたい。……無理にとは言わない。会いたくなら断っていい。……どうする?」
葉月の表情は変わらない。無表情のままだった。
スケッチブックが開き、ペンが走る。
『会いたいです』
「……そうか」
書かれた文字は震えてさえいなかった。
確固とした意志を感じるぐらいに、強かった。
唐突に話したというのに、葉月は覚悟をしていた。
これは、先に話しておくべきだな。俺は、意を決して、口を開いた。
遡ること三日前。
俺は、仕事を午前中で切り上げ、とある一軒家を訪ねた。
葉月の実母、雪村里美さんの友人、春原 十和子(すのはら とわこ)さんの自宅だ。
口、開いてるぞ、口。
絶対驚かないって言ったくせにぽかーんとしちゃって。可愛いもんだな。
突如として凄いスピードでスケッチブックに何か書き始めた。
なんだ?
こっそり覗くと、そこに描かれていたのはやたらと楕円形に三角が二つくっついた何か。
なんだこれ? あ! マンボウか!
すごい、と、口が動く。
葉月が驚くのも無理はない。一口に三メートルと言っても実際本物を目にすると迫力が段違いだ。
こちらを向いて泰然と水に浮いている姿に、まるで俺たちの方が見世物になってしまったかのような錯覚を起こす。
「でっかいなぁ」
呟くと、やっと我に返ったらしい葉月がこくんと頷いた。
順路通りに進んでいくと、次に待ち受けていたのはサメのトンネルだ。
恐ろし気な形をしたハンマーシャークやら、映画でお馴染みのホオジロザメなどが頭上を泳ぎ回っている。のんびり浮いていたマンボウとは違い、かなりのスピードだ。
『こ、こわい! すごい迫力だ!!』
「肩車してやろうか? 迫力が増すぞ」
『遠慮します。水槽割れたらどうしよう』
早く通り過ぎようとばかりに手を引かれてしまう。
一際巨大なホオジロザメがこちらに突っ込んできた。
おー、でけえな。
感心する俺の前で、葉月がサメに向かってばっと両手を広げた。
サメは水槽のガラスに当たる直前で切り返していく。
「ぅ~~~!」
葉月の口から悲鳴が漏れた。
ひょっとして……、今、サメから俺を守ろうとしたのか?
こーんな小さな体で何を考えてるんだろうなぁこいつは。
続いて巨大なエイ、マンタが眼前に現れた。表面は茶色いのに腹は真っ白だ。
「大きい……!」ごくごく小さな声が葉月から漏れる。
確かにこいつもでけーな。ヒレをはためかせてトンネルの上に昇っていく。
真っ白の腹が頭上を覆うと同時に葉月がとうとう俺の腕を引いて走り出した。
怖がりさんめ。
この分じゃ、サメスペースにあるスタンプには気が付きそうにないな。
案の定、気が付かないまま横を駆け抜けてしまった。
スタンプコンプは次来るときのお楽しみだ。
『遼平さんが頭から食べられるかと思った……! エイのお腹の顔が怖すぎたよ!! 頭にツノも生えてたし』
「B級モンスターパニックものにありそうな展開だな。題名は『人食い巨大マンタ』。今度探してみるか」
『み、観たくないです!』
続いては触れ合いコーナーだ。
『わ、ヒトデがいる!』
「触ってみろ。結構ゴワゴワしてて面白いぞ」
『か、噛まない!?』
「かまねーよ。ヒトデに人に食いつけるぐらいの口があったら怖いだろ」
恐る恐る水に手を差し入れ、恐る恐る手のひらで掬い上げる。
掴まないあたりが葉月だな。
『わぁ、硬い、ほんとにゴワゴワする。ヒトデって食べられるのかな』
「食べられる種類もあるそうだが、あんまり推奨はされてないかな。重金属を含むうえ、味は微妙だから」
『そっか…もったいない』
ヒトデを水槽に戻してしまったが、続いて違うヒトデを手に取る。
最後に手に取ったのはナマコだ。
水槽に戻し、コーナーから離れてから、葉月が俺を見上げて言った。
『遼平さんはナマコ好き? 酢漬け作れるよ』
「今度作ってください」
なまこは見た目はあれだけど美味いんだよな。こりこりした触感で酒に合うし。
でも見た目があれなんで調理してくれる女子は少ない。
こういうどうでもいいところで男なんだなと実感してしまう。静と二本松も喜ぶだろうな。あいつらも珍味好きだし。
くらげゾーンの水槽に座り、人がいなくなったのを見計らってキスしたり、
ペンギンで水槽に張り付く勢いで喜ぶ葉月を堪能したり、
テンプレートとも言える水族館デートを堪能しつくし、水族館を出た後。
「葉月……お前の本当のお母さんの居場所を見つけたんだ」
ただいま、とぴょん太に挨拶をする葉月に、俺はそう告げた。
「――――――」
「でもな……残念なことに、亡くなっていた」
「………………!」
葉月が小さく息を呑む。
「身寄りの無い方だったから、お前の親戚を見つけ出すことはできなかったんだけど、お母さんの親友だった女性と話ができることになったんだ。その人にお前を会わせたい。……無理にとは言わない。会いたくなら断っていい。……どうする?」
葉月の表情は変わらない。無表情のままだった。
スケッチブックが開き、ペンが走る。
『会いたいです』
「……そうか」
書かれた文字は震えてさえいなかった。
確固とした意志を感じるぐらいに、強かった。
唐突に話したというのに、葉月は覚悟をしていた。
これは、先に話しておくべきだな。俺は、意を決して、口を開いた。
遡ること三日前。
俺は、仕事を午前中で切り上げ、とある一軒家を訪ねた。
葉月の実母、雪村里美さんの友人、春原 十和子(すのはら とわこ)さんの自宅だ。
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