発情薬

寺蔵

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<意外です。叶さん。>

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☆☆☆☆☆

 …………?

 ここ、どこ?

 あ、そっか、ベッドだ。
 え? 今何時?

 百瀬さんに電話してない。電話しなきゃ。部門長にひどい目にあわされてないか、ちゃんと確認しなきゃ――。

「っ」
 動いた拍子に全身が甘く痺れた。
 ぅ……、まだ余韻が残ってる……。

「……凛? どうした?」

 隣に寝ていた叶さんが身じろぎしたオレを抱き寄せた。

「ももせさんにれんらく、しなきゃ……」

「風呂から上がってすぐに連絡しただろ。今、午前三時だぞ」

「あ……」

 そっか、そだった。

 変な時間に昼寝しちゃったときみたいに、時間の感覚がマヒしちゃってたよ。

 叶さんの掌がオレの頬を撫でた。温かい。

 行為の後、オレ、情けなくもまた失神しちゃったんだった。
 叶さんがお風呂に入れてくれて途中で何度か目を覚まして、電話もなんとかかけたんだけど、その後やっぱり眠って……。

 百瀬さんに掛けた電話だというのに、また、部門長に切られそうになったのを叶さんが説得してくれたのに忘れただなんて。

 抱き寄せてくれる腕に甘え温かい体にくっつく。
 あ、オレ、裸のままだ。叶さんも裸のまま。……って叶さんだけ下着はいてた。
 裸の胸に額を擦り付ける。背中に腕をまわして足を絡ませる。

 エアコンも付いてないのに、くっついているだけで充分に温かかった。

「百瀬君が心配なんだな」
「はい……。百瀬さん……八雲さんのことをすごく怖がってたんです……。なのに薬のせいで八雲さんに惹かれてて……、オレ、無責任に受け入れろなんていっちゃったけど、百瀬さんがひどい目にあってないか心配で……」

「近いうちに百瀬君と八雲さんを誘って食事にでも行くか。電話するより直接会って話したいだろう?」

 食事……行きたいです……。
 目を閉じると百瀬さんの綺麗な笑顔が瞼の裏に浮かんだ。
 あいたい……すごくすごく……。

「そろそろキスもしたいだろうし」
「ふぇ!!?」

 思いもよらない言葉に、ふわふわしていた意識が一気に覚醒した。

「き、キス!? な、何をおっしゃってるんですか、オレには叶さんという恋人がいるのに百瀬さんとキスなんてできません! そんなの浮気じゃないですか!」

「ん? 薬のせいで他人の体液が欲しくなっていると聞いたぞ。違うのか?」
「そ、それはそうですけど……」

 叶さんが枕もとのスマホを手に取った。
 何度か操作してからオレに「ほら」と画面を向けた。

「ええええ!?」

 表示されてたのはホテルの窓際でキスするオレと百瀬さんの姿だった!!!

「ど、どして!? こ、これ、え!?」
「八雲さんからデータを貰ったんだよ」

 お互いに舌を出し合い涙目になってる。こ、こんな恥ずかしい顔してたなんて……!

「消してください!」
「おっと」

 手を伸ばしたオレから叶さんの腕が逃げた。

「は、恥ずかしいですそんな写真……!」
「多少は妬けるが可愛いと思うがな。小動物がじゃれてるみたいで」
「し、小動物って何ですか……!?」
「ハムスターとか、ウサギとか」
「小動物の意味は知ってます! 百瀬さんはともかく、オレはそんなに可愛くありませんよ……」

 叶さんの指がオレの唇をなぞった。

「お前のほうが可愛いよ」

 ぅ……。

「百瀬君には八雲さんがついてるしな。あの人の愛し方は病的のようだ。百瀬君がお前をさらいたくなってもあの人がいる限りは無理だろう……。だから、キスをすることぐらいは赦すよ。ただし、他の奴とは絶対に駄目だからな」

「ほんとに……嫌じゃ、ないんですか……?」
「あぁ」

 ベッドの上に肘をついてオレを撫でてくれる。

「百瀬君とキスをすれば……セックスの途中で失神することもなくなるかもしれないし」
「な……!」
「せめて二回ぐらいは耐えられるようになってくれ」

 は、恥ずかしい……! 一瞬で顔が真っ赤になった。布団に潜り込んで「無理です!」と叫んでしまった。

「叶さんの意地悪……!!」

 ぼやいたオレに叶さんが笑う。
 綺麗に筋肉のついたお腹にキスをして、そのままそこで目を閉じた。
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