上 下
51 / 133
本編

51 夜のお作法3 【閑話:3】

しおりを挟む
鬼畜な雇用主の発言を聞いて、わたしは心の中でこっそりと溜息をついた。


(・・・ほんと、一筋縄ではいかない王様だよねえ)

それほど多くのことを話したわけではないけれど、この人は、真剣なときほど軽い言動で本心を隠そうとすることに気づいていた。心の奥についた傷を見ないふりして、どうって事ないって顔をして笑う。

──まるで、自分自身をごまかすように。

セイのようなまっすぐな不器用さではないけれど、人に弱みを見せないように自分を偽っているさまは、それなりにあぶなっかしい。さっきの言葉だって、いかにも誤解されるような口ぶりだ。もしふつうのお嬢さんが「適当に楽しんだら他の相手に引き取ってもらう」なんて聞いたら、遊び相手として扱われたと激怒するにちがいない。

(でも、残念ながら見た目はこんなだけど、中身はちゃんと大人だからね)

ひねくれた発言に憤りつつ、わざと自分を貶めるような発言に悔しくなって、つい言ってしまった。

「大丈夫、それは遺伝しないから。性的嗜好は人それぞれだから、陛下はぜんっぜん普通ですよ。」

だめ押しのように、ぜんっぜん、の部分を強調する。

言われた本人は信じられないといった表情で、わたしを凝視した。

(ふふん、ざまあみろ)

勝手に優越感にひたっていると、陛下は我に返ったという風情で口の端を上げた。

「普通?これが? この前も言ったよね、『縛っていい?』って。女性が甚振られる姿を見ると興奮するんだ。狂ってるし、どう考えても異常でしょう? それとも君は、痛くされて喜ぶとか言う?」

そう言って、手をひらひらと振って自虐的に笑う。

いえ、それは全然フツウですよ。性癖なんて人それぞれなので、逆にいじめられて喜ぶ人もいますよ。

さすがにそこまでは言わなかったけれど、「異常じゃないし、狂ってもいないですから安心してください。」と付け加えた。

これ以上言っても無駄だとわかったのか、アレクセイ陛下は小さく息を吐いた。そして静かに席を立って、ダンスでターンするかのようにぐるりと回り込み隣に座った。ソファに座るという、ただそれだけの行為なのに、流れるようなその動きはとても優雅だった。

「なーんか君と話していると調子が狂うよ。まじめに考えるのがばかみたいだ。」

そう言って目を覗き込まれてからおもむろに顎を掴まれた。反射的に顔を背けてしまうと、耳元で唇がかすめるくらいの距離で囁かれる。

「拒まないで。」

人を従わせることに慣れた声で命令され、否応なく顔を戻された。
いつもより少し低めで、若干かすれたような声音にぞくりとする。間近で見る顔はうるわしく、やはり心臓に悪い。

陛下は、おそろしいくらいの色気を垂れ流しながら、うっとりとした表情でわたしに口づけた。拒むこともできたかもしれないけれど、わたしはそれをしなかった。

(きもちいい・・・ぜんぜんいやじゃない)

前みたいな強引さはない。舌先で閉じた唇をノックされ、薄く口を開けるとゆっくりと蠢く生暖かい舌の感触。ぬちゃ、と音がした。

作り物めいた外見からは想像できないくらいに生々しい舌は、様子を窺うように絶妙な強さでわたしの舌を扱き、感じる部分を責め、唾液を流し込んだ。

何度も何度も舌を吸いながら空いている手でわたしの胸をぐりぐりと刺激する。嫌がらせにしては優しすぎる愛撫に否応なく声が漏れる。

「ん・・・・っ、んんっ・・!」

ドアが開いていることはわかっているので、キスの合間に漏れ出そうな声を堪えるのに必死だった。

しばらく咥内を貪られた後、ようやく離された。ありったけの生気を吸い取られたみたいにぼーっとする。顔も熱い。なんだか目が潤んでいるのが自分でもわかった。

わたしの情けない表情を見て満足したのか、アレクセイ陛下は天使もかくあるやという笑みを浮かべて宣言した。

「王族との婚姻は純潔が求められる。だから君はまっさらな状態で、私に捧げられるんだ。ぐちゃぐちゃにして穢してあげるから楽しみにしていてね。」

わたしの左の手首を掴んだままそう宣言する。本能的にぶるりと震えると、陛下は獲物をいたぶる肉食獣のような眼をして笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【※R-18】とある組織の男全員が私のこと好きなんだけど、逆ハーレム作っちゃっていいですか?

aika
恋愛
主人公Mは、とある組織の紅一点。 人里離れた崖の上に立っている組織の建物は、大雨や雷などの異常気象に見舞われ危険な状態だった。 大きな雷が落ちた衝撃で異空間に乱れが生じ、ブラックホールに取り込まれ不安定な時空域に飛ばされた組織の面々。彼らは孤立してしまっていた。 修羅場をくぐり抜けてきたエージェントたちは、ひとまずその場所で生活を始めては見たものの・・・・ 不安定な時空域では、ありとあらゆる世界とリンクしてしまい、めちゃくちゃな日々・・・・ 何が起きても不思議ではないこの世界で、組織の男連中は全員揃いも揃って、Mが好き、というオイシイ展開に・・・・ たくさんの個性あふれるイケメンたちに求愛される日々。 色々な男性を味見しつつ、ルールも常識も何もかもリセットされた世界で、好き勝手やりたい放題な恋愛ストーリー。 主人公Mが、これはもう逆ハーレム作っちゃっていいんじゃない?という思いにふけりながら、 恋を楽しむ日々を描く。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 逆ハーレムで生活したいと切に願う女の妄想小説です。 個性あふれる男性たちと、ありえないシチュエーションで、色々楽しみたい!!という 野望を描いていく予定です・・・☺︎

【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。

aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。 生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。 優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。 男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。 自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。 【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。 たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

処理中です...