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本編
51 夜のお作法3 【閑話:3】
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鬼畜な雇用主の発言を聞いて、わたしは心の中でこっそりと溜息をついた。
(・・・ほんと、一筋縄ではいかない王様だよねえ)
それほど多くのことを話したわけではないけれど、この人は、真剣なときほど軽い言動で本心を隠そうとすることに気づいていた。心の奥についた傷を見ないふりして、どうって事ないって顔をして笑う。
──まるで、自分自身をごまかすように。
セイのようなまっすぐな不器用さではないけれど、人に弱みを見せないように自分を偽っているさまは、それなりにあぶなっかしい。さっきの言葉だって、いかにも誤解されるような口ぶりだ。もしふつうのお嬢さんが「適当に楽しんだら他の相手に引き取ってもらう」なんて聞いたら、遊び相手として扱われたと激怒するにちがいない。
(でも、残念ながら見た目はこんなだけど、中身はちゃんと大人だからね)
ひねくれた発言に憤りつつ、わざと自分を貶めるような発言に悔しくなって、つい言ってしまった。
「大丈夫、それは遺伝しないから。性的嗜好は人それぞれだから、陛下はぜんっぜん普通ですよ。」
だめ押しのように、ぜんっぜん、の部分を強調する。
言われた本人は信じられないといった表情で、わたしを凝視した。
(ふふん、ざまあみろ)
勝手に優越感にひたっていると、陛下は我に返ったという風情で口の端を上げた。
「普通?これが? この前も言ったよね、『縛っていい?』って。女性が甚振られる姿を見ると興奮するんだ。狂ってるし、どう考えても異常でしょう? それとも君は、痛くされて喜ぶとか言う?」
そう言って、手をひらひらと振って自虐的に笑う。
いえ、それは全然フツウですよ。性癖なんて人それぞれなので、逆にいじめられて喜ぶ人もいますよ。
さすがにそこまでは言わなかったけれど、「異常じゃないし、狂ってもいないですから安心してください。」と付け加えた。
これ以上言っても無駄だとわかったのか、アレクセイ陛下は小さく息を吐いた。そして静かに席を立って、ダンスでターンするかのようにぐるりと回り込み隣に座った。ソファに座るという、ただそれだけの行為なのに、流れるようなその動きはとても優雅だった。
「なーんか君と話していると調子が狂うよ。まじめに考えるのがばかみたいだ。」
そう言って目を覗き込まれてからおもむろに顎を掴まれた。反射的に顔を背けてしまうと、耳元で唇がかすめるくらいの距離で囁かれる。
「拒まないで。」
人を従わせることに慣れた声で命令され、否応なく顔を戻された。
いつもより少し低めで、若干かすれたような声音にぞくりとする。間近で見る顔はうるわしく、やはり心臓に悪い。
陛下は、おそろしいくらいの色気を垂れ流しながら、うっとりとした表情でわたしに口づけた。拒むこともできたかもしれないけれど、わたしはそれをしなかった。
(きもちいい・・・ぜんぜんいやじゃない)
前みたいな強引さはない。舌先で閉じた唇をノックされ、薄く口を開けるとゆっくりと蠢く生暖かい舌の感触。ぬちゃ、と音がした。
作り物めいた外見からは想像できないくらいに生々しい舌は、様子を窺うように絶妙な強さでわたしの舌を扱き、感じる部分を責め、唾液を流し込んだ。
何度も何度も舌を吸いながら空いている手でわたしの胸をぐりぐりと刺激する。嫌がらせにしては優しすぎる愛撫に否応なく声が漏れる。
「ん・・・・っ、んんっ・・!」
ドアが開いていることはわかっているので、キスの合間に漏れ出そうな声を堪えるのに必死だった。
しばらく咥内を貪られた後、ようやく離された。ありったけの生気を吸い取られたみたいにぼーっとする。顔も熱い。なんだか目が潤んでいるのが自分でもわかった。
わたしの情けない表情を見て満足したのか、アレクセイ陛下は天使もかくあるやという笑みを浮かべて宣言した。
「王族との婚姻は純潔が求められる。だから君はまっさらな状態で、私に捧げられるんだ。ぐちゃぐちゃにして穢してあげるから楽しみにしていてね。」
わたしの左の手首を掴んだままそう宣言する。本能的にぶるりと震えると、陛下は獲物をいたぶる肉食獣のような眼をして笑った。
(・・・ほんと、一筋縄ではいかない王様だよねえ)
それほど多くのことを話したわけではないけれど、この人は、真剣なときほど軽い言動で本心を隠そうとすることに気づいていた。心の奥についた傷を見ないふりして、どうって事ないって顔をして笑う。
──まるで、自分自身をごまかすように。
セイのようなまっすぐな不器用さではないけれど、人に弱みを見せないように自分を偽っているさまは、それなりにあぶなっかしい。さっきの言葉だって、いかにも誤解されるような口ぶりだ。もしふつうのお嬢さんが「適当に楽しんだら他の相手に引き取ってもらう」なんて聞いたら、遊び相手として扱われたと激怒するにちがいない。
(でも、残念ながら見た目はこんなだけど、中身はちゃんと大人だからね)
ひねくれた発言に憤りつつ、わざと自分を貶めるような発言に悔しくなって、つい言ってしまった。
「大丈夫、それは遺伝しないから。性的嗜好は人それぞれだから、陛下はぜんっぜん普通ですよ。」
だめ押しのように、ぜんっぜん、の部分を強調する。
言われた本人は信じられないといった表情で、わたしを凝視した。
(ふふん、ざまあみろ)
勝手に優越感にひたっていると、陛下は我に返ったという風情で口の端を上げた。
「普通?これが? この前も言ったよね、『縛っていい?』って。女性が甚振られる姿を見ると興奮するんだ。狂ってるし、どう考えても異常でしょう? それとも君は、痛くされて喜ぶとか言う?」
そう言って、手をひらひらと振って自虐的に笑う。
いえ、それは全然フツウですよ。性癖なんて人それぞれなので、逆にいじめられて喜ぶ人もいますよ。
さすがにそこまでは言わなかったけれど、「異常じゃないし、狂ってもいないですから安心してください。」と付け加えた。
これ以上言っても無駄だとわかったのか、アレクセイ陛下は小さく息を吐いた。そして静かに席を立って、ダンスでターンするかのようにぐるりと回り込み隣に座った。ソファに座るという、ただそれだけの行為なのに、流れるようなその動きはとても優雅だった。
「なーんか君と話していると調子が狂うよ。まじめに考えるのがばかみたいだ。」
そう言って目を覗き込まれてからおもむろに顎を掴まれた。反射的に顔を背けてしまうと、耳元で唇がかすめるくらいの距離で囁かれる。
「拒まないで。」
人を従わせることに慣れた声で命令され、否応なく顔を戻された。
いつもより少し低めで、若干かすれたような声音にぞくりとする。間近で見る顔はうるわしく、やはり心臓に悪い。
陛下は、おそろしいくらいの色気を垂れ流しながら、うっとりとした表情でわたしに口づけた。拒むこともできたかもしれないけれど、わたしはそれをしなかった。
(きもちいい・・・ぜんぜんいやじゃない)
前みたいな強引さはない。舌先で閉じた唇をノックされ、薄く口を開けるとゆっくりと蠢く生暖かい舌の感触。ぬちゃ、と音がした。
作り物めいた外見からは想像できないくらいに生々しい舌は、様子を窺うように絶妙な強さでわたしの舌を扱き、感じる部分を責め、唾液を流し込んだ。
何度も何度も舌を吸いながら空いている手でわたしの胸をぐりぐりと刺激する。嫌がらせにしては優しすぎる愛撫に否応なく声が漏れる。
「ん・・・・っ、んんっ・・!」
ドアが開いていることはわかっているので、キスの合間に漏れ出そうな声を堪えるのに必死だった。
しばらく咥内を貪られた後、ようやく離された。ありったけの生気を吸い取られたみたいにぼーっとする。顔も熱い。なんだか目が潤んでいるのが自分でもわかった。
わたしの情けない表情を見て満足したのか、アレクセイ陛下は天使もかくあるやという笑みを浮かべて宣言した。
「王族との婚姻は純潔が求められる。だから君はまっさらな状態で、私に捧げられるんだ。ぐちゃぐちゃにして穢してあげるから楽しみにしていてね。」
わたしの左の手首を掴んだままそう宣言する。本能的にぶるりと震えると、陛下は獲物をいたぶる肉食獣のような眼をして笑った。
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