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伍場 一
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次の日の午後、早速報酬をもらい受けに行った吉右衛門は、
「大滝殿、昨晩はお疲れ様でした。私もあの後、興奮して一睡もできませんでした。」
実篤が興奮したように吉右衛門を検非違使詰め所で出迎えた。
「あぁ。。それはそれは……」
集金に出向いた吉右衛門を見つけると実篤が昨晩の回想を延々と話して離さない。同じ話を三周位した頃、奥から役人が出てきて吉右衛門を呼んだ。
「上面の行徳様がお呼びだ。そちらに行っていただけるか」
吉右衛門は隣にいた実篤に思わず聞いた。
「実篤殿、行徳ってのは何者だい?」
「行徳様ですか……何用なのでしょうなぁ」
実篤が考え込んでいる。
「そうじゃなくて、何者だって聞いている」
「法皇様の懐刀にして裏の政を取り仕切る方と聞き及んでいます。この北面武士団の実質的な棟梁です。もともとは坊主で、どこぞの山で修行して開眼したとかで三年ほど前に現れたと思ったら、あっという間に法皇様のお気に入りになりました。もちろん、私の様な末席に置かれるものは会うことなどありませんので、噂でしか知りえませんが」
『……そんな奴がどうして……』
「大滝殿、昨晩は失礼したな。儂が行徳じゃ。色々悪い噂でも吹き込まれて来たのではないか?」
吉右衛門が上面の部屋に通されるとそこには既に昨日の老人が上座に座ってこちらに手招きをしている。
「いえ、そのような事は。。。大滝吉右衛門、罷り越しました」
「そんなにかしこまる事はあるまいて。昨晩の続きを話したくて年甲斐もなくお呼び立てしてしまった。許してくれ」
吉右衛門が表情を変えずに
「どのようなご用向きでしょうか?」
と間髪入れずに聞いた。
「つれないのう。そなたは。もしかしてこの年寄りが、そなたの奥方を取り上げるとでも思っておいでなのかな? 昨晩の話し方が悪かったな。勘弁してくれ。もし、それならば、全く検討違いじゃぞ。今日、呼んだのはそなたと奥方と我々に御助力いただきたいと思ってな。それのお願いじゃよ」
吉右衛門はよっぽどの事が無い限り靜華との関係は夫婦として通している。その方が目立たなくて過ごしやすいからに他ならないからで、今回のような状況であえて本当の事を話す気など全くない。
「いえ、そのような事は。その助力とはどのような事でしょうか?」
「あぁ。そなたの剣働きは聞き及んでいる。存じておると思うがこの北面武士団は法皇様の私設軍と言っても差し支えない。が、実際には要職を平家に牛耳られている。平時には問題は無いが、もしも平家と対立するようなことになればどの程度機能するか甚だ疑わしいのが現実だ。そこで、そなたの様な平家以外の腕の立つものを探して内裏の警護に置きたいと言ったところが表向きの話じゃ」
「表向きって……十分生臭い話だが。そんなの源氏にでも頼めばいいのではないか?」
「都にいる源氏は知っていると思うが、平家の息がかかっておるしな。そもそも、あいつらもどこまで平家の棟梁に信頼されているのか分かったものではあるまいて」
と行徳が吉右衛門を手招きする。
「ここからは表向きと逆の話だ」
行徳から出ていた好々爺の空気が一変した。どこか血なまぐさい空気が部屋中に充満する。靜華がみたらそれなりに何か見えそうな雰囲気である。
「法皇様は平家と手を切る。近いうちに。いずれ京は戦場になろう。その時にお前たちに活躍してもらいたい。もちろんタダでとは言わない。お前の身分をあるべき姿に戻そうではないか。奥方も出仕する必要はない。そなたが必要と思うときに二人で仕事をしてくれればいい。今の仕事も続けても良い。要は我らが望んだときに最前線にたって我らの敵対勢力を蹂躙してくれれば良いのだ。出来るであろう?そなたたちなら」
行徳は口元で笑みを見せているが瞳の奥では明らかに脅しを掛けてきている。これを断れば京での生活は立ちいかなくなるぞと言ったところか。
「行徳殿、我らはどの勢力にも組することなくやっている。だからと言って空気を食って生きているわけでもない。我らと組するのであれば繁栄は約束されたも同じ。それにしては、あまりにも待遇が安過ぎはしないか?」
「んふふふ。はっはあは! 足元をみおって! 金程度で済むなら安いもの。引き受けるという事だな。は~はっはは」
行徳は高笑いをしばらくの間し続けた。
「大滝殿、昨晩はお疲れ様でした。私もあの後、興奮して一睡もできませんでした。」
実篤が興奮したように吉右衛門を検非違使詰め所で出迎えた。
「あぁ。。それはそれは……」
集金に出向いた吉右衛門を見つけると実篤が昨晩の回想を延々と話して離さない。同じ話を三周位した頃、奥から役人が出てきて吉右衛門を呼んだ。
「上面の行徳様がお呼びだ。そちらに行っていただけるか」
吉右衛門は隣にいた実篤に思わず聞いた。
「実篤殿、行徳ってのは何者だい?」
「行徳様ですか……何用なのでしょうなぁ」
実篤が考え込んでいる。
「そうじゃなくて、何者だって聞いている」
「法皇様の懐刀にして裏の政を取り仕切る方と聞き及んでいます。この北面武士団の実質的な棟梁です。もともとは坊主で、どこぞの山で修行して開眼したとかで三年ほど前に現れたと思ったら、あっという間に法皇様のお気に入りになりました。もちろん、私の様な末席に置かれるものは会うことなどありませんので、噂でしか知りえませんが」
『……そんな奴がどうして……』
「大滝殿、昨晩は失礼したな。儂が行徳じゃ。色々悪い噂でも吹き込まれて来たのではないか?」
吉右衛門が上面の部屋に通されるとそこには既に昨日の老人が上座に座ってこちらに手招きをしている。
「いえ、そのような事は。。。大滝吉右衛門、罷り越しました」
「そんなにかしこまる事はあるまいて。昨晩の続きを話したくて年甲斐もなくお呼び立てしてしまった。許してくれ」
吉右衛門が表情を変えずに
「どのようなご用向きでしょうか?」
と間髪入れずに聞いた。
「つれないのう。そなたは。もしかしてこの年寄りが、そなたの奥方を取り上げるとでも思っておいでなのかな? 昨晩の話し方が悪かったな。勘弁してくれ。もし、それならば、全く検討違いじゃぞ。今日、呼んだのはそなたと奥方と我々に御助力いただきたいと思ってな。それのお願いじゃよ」
吉右衛門はよっぽどの事が無い限り靜華との関係は夫婦として通している。その方が目立たなくて過ごしやすいからに他ならないからで、今回のような状況であえて本当の事を話す気など全くない。
「いえ、そのような事は。その助力とはどのような事でしょうか?」
「あぁ。そなたの剣働きは聞き及んでいる。存じておると思うがこの北面武士団は法皇様の私設軍と言っても差し支えない。が、実際には要職を平家に牛耳られている。平時には問題は無いが、もしも平家と対立するようなことになればどの程度機能するか甚だ疑わしいのが現実だ。そこで、そなたの様な平家以外の腕の立つものを探して内裏の警護に置きたいと言ったところが表向きの話じゃ」
「表向きって……十分生臭い話だが。そんなの源氏にでも頼めばいいのではないか?」
「都にいる源氏は知っていると思うが、平家の息がかかっておるしな。そもそも、あいつらもどこまで平家の棟梁に信頼されているのか分かったものではあるまいて」
と行徳が吉右衛門を手招きする。
「ここからは表向きと逆の話だ」
行徳から出ていた好々爺の空気が一変した。どこか血なまぐさい空気が部屋中に充満する。靜華がみたらそれなりに何か見えそうな雰囲気である。
「法皇様は平家と手を切る。近いうちに。いずれ京は戦場になろう。その時にお前たちに活躍してもらいたい。もちろんタダでとは言わない。お前の身分をあるべき姿に戻そうではないか。奥方も出仕する必要はない。そなたが必要と思うときに二人で仕事をしてくれればいい。今の仕事も続けても良い。要は我らが望んだときに最前線にたって我らの敵対勢力を蹂躙してくれれば良いのだ。出来るであろう?そなたたちなら」
行徳は口元で笑みを見せているが瞳の奥では明らかに脅しを掛けてきている。これを断れば京での生活は立ちいかなくなるぞと言ったところか。
「行徳殿、我らはどの勢力にも組することなくやっている。だからと言って空気を食って生きているわけでもない。我らと組するのであれば繁栄は約束されたも同じ。それにしては、あまりにも待遇が安過ぎはしないか?」
「んふふふ。はっはあは! 足元をみおって! 金程度で済むなら安いもの。引き受けるという事だな。は~はっはは」
行徳は高笑いをしばらくの間し続けた。
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