55 / 56
藤次郎-16
しおりを挟む
追いかけている黒装束は越境して100km。何とか藤次郎の村にたどり着き探りを入れながら待ち伏せるに適した場所を探り入れ、体制を整えたばかりだった。斥候の三人はまさに偶然正面から藤次郎たちを捉えたのだ。慌てて脇道に入り挟み撃ちの形が出来上がったところであった。
猛追していた黒装束が間道のカーブを抜けると。立ちはだかる藤次郎が見えた。藤次郎を視認した黒装束は馬を止めることなく鞍から跳躍してその勢いで襲いかかってくる。
藤次郎がそのうちの一人に身体を向き合わせ、太刀に手をかけ……
グッ。
低く唸り声が聞こえてきた。
振り向きざま着地したばかりの二人目の背中越しに突きを入れそのまま手を離すと背中に蹴りを入れ転がる二人目から太刀を奪い三人目に向き合っている。
足元には最初の犠牲者が大量の血を流し横たわり、二人目が背中に刀が刺さってうつ伏せに倒れている。
黒装束には見えなかった。藤次郎の太刀筋が。
黒装束たちは藤次郎を囲んで一気に切り伏せるはずだったのが着地の前をまず一人目が狙われ空中で成すすべなく腹部を両断された。頭を超えていった二人目が、着地した瞬間に背中から心臓目掛け太刀を突き刺された。二人とも即死だった。
今、三人目と対峙している。
「くっ。その構えは天心神刀流か」
黒装束たちは自分の力を熟知している。敵の能力と自分の能力を量りに掛ける必要があるからだ。敵の能力を見誤る事がそのまま死につながる事を良く知っているのだ。
しかし、目の前の藤次郎の強さは想定の外に会った。そもそも、田舎侍の新参者と見誤っていたのだ。それは、あの日の夜会での藤次郎の態度を見ればそう思っても仕方が無かったのかもしれない。いま、自分の目の前の敵である藤次郎の足元には二人の身体が転がっている。この二人は別段、未熟者であったわけでは無かった。それにも関わらず一瞬で斬り伏せられた。改めて藤次郎の実力を推し量れば間違いなく藤次郎の方が上にある。おまけに天心神刀流の剣術使い。厄介な相手だ。天心神刀流は実戦で鍛え上げられた流派。決して一対一で対峙してはならない相手と聞く。
向ける太刀の切っ先が微妙に震える。こんなにも太刀は重かったのか。いや、目の前の男の威圧のせいなのか……
藤次郎は敵と語り合う気などさらさらない。目の前の黒装束を斬り殺す。それのみだ。それは、相手への威圧となって示現され、ますます対峙する敵を藤次郎の気が飲み込んでいく。
一歩踏み込んだ。
「そこまでだ。藤次郎!」
背後から佳宵の首元に太刀を当てる男が現れた。
「遅いから見に来てみればこのありさまか」
やれやれといった表情で男は立っている。
「藤次郎。この通りだ。もう、お終いにしよう。お前が太刀を捨てなければこの娘を殺す」
太刀を突き付けられている佳宵の目を見ると、瞳を横に往復させている。何か知らせたいのか?
『解り辛いよ。佳宵様。この男が言う事が本気なら右目を閉じて嘘なら両目を閉じてください』
佳宵は両目をパチパチしてみせた。
「残り、四人か? いつでもいいぞ」
低く囁くように藤次郎が答える。
「お前? 話を聞いていたのか?」
「お前たちがその娘を殺すはずがない。殺すことは出来ない。絶対だ。知っているぞ、お前たちの事は。なぁ~。ハンジュウロ~」
「おい! ふざけるな。その言い方は大嫌いなんだ!!」
そういうと半重郎は藤次郎の煽りに乗って佳宵を横に投げ、無策に襲いかかってきた。
突きを主体にした甲冑越しの敵を刺殺制圧する天心神刀流。
藤次郎の切っ先は半重郎の口から入って首の後ろから出ていた。藤次郎の実力も確かめずに突っ込んだ半重郎の完敗だ。
瞬間、蹴りを入れ太刀を引き抜くと後ろにいた四人目の右手を斬り落としひるんだすきに首を刺した。
四人やられた。部隊は壊滅だ。ここからはどうやって逃げるかを考える場面になる。
一度戦う気を失った者は全てにおいて後れを取る。訓練を積んだものでもそれは変わらない。藤次郎は半重郎の太刀を取り、構え直す。動けずにいた半重郎の後ろの黒装束は後ずさりしながら切っ先が下がってきた。その一瞬、藤次郎が一歩踏み込んで、両手首を斬り落としそのまま、首をはねた。
最後の一人は背中を見せ既に走り出していた。逃げたのだ。藤次郎は馬に乗り追いかけ、追いつきざまに背後から首を斬り落とした。首の無い黒装束は5mほど走っていたがそのまま前のめりに道から外れ山肌を転がり落ちていった。
佳宵のいるところに馬で戻ると
「強いじゃない藤次郎!」
といって無邪気に抱き着いてきた。
「まぐれですよ」
藤次郎の謙遜など聞こえないふりで、
「藤次郎、心の声は当然って言ってるけど? どっちが本当なのですか?」
いたずらっ子の様に笑っている。
「藤次郎!あなたさっき、わたしが右目を閉じたのに何であいつの事煽ったの?わたし、殺されかけてたのよ!」
「え?佳宵様?右目を閉じてください」
両目を閉じる。
「両目を閉じてください」
両目を閉じる。
「左目を閉じてください」
両目を閉じる。
佳宵は片目だけを閉じることが出来なかったようだ。
「馬を全部頂いていきましょう」
死体は間道の下に投げ捨てた。少しでも発見を遅れさせるためだ。金目のものは全部奪った。間道の血だけはどうしようもない。
六頭の馬は順次交代で乗っていく。最後には乗り捨てて殺す。万が一戻られると事だろう。可哀想だと佳宵は言っているがこれも仕方が無いと説得するのだが、納得はいっていないようだ。だが、馬の六頭乗りつぶしは一気に移動距離を稼ぐことが出来た。
猛追していた黒装束が間道のカーブを抜けると。立ちはだかる藤次郎が見えた。藤次郎を視認した黒装束は馬を止めることなく鞍から跳躍してその勢いで襲いかかってくる。
藤次郎がそのうちの一人に身体を向き合わせ、太刀に手をかけ……
グッ。
低く唸り声が聞こえてきた。
振り向きざま着地したばかりの二人目の背中越しに突きを入れそのまま手を離すと背中に蹴りを入れ転がる二人目から太刀を奪い三人目に向き合っている。
足元には最初の犠牲者が大量の血を流し横たわり、二人目が背中に刀が刺さってうつ伏せに倒れている。
黒装束には見えなかった。藤次郎の太刀筋が。
黒装束たちは藤次郎を囲んで一気に切り伏せるはずだったのが着地の前をまず一人目が狙われ空中で成すすべなく腹部を両断された。頭を超えていった二人目が、着地した瞬間に背中から心臓目掛け太刀を突き刺された。二人とも即死だった。
今、三人目と対峙している。
「くっ。その構えは天心神刀流か」
黒装束たちは自分の力を熟知している。敵の能力と自分の能力を量りに掛ける必要があるからだ。敵の能力を見誤る事がそのまま死につながる事を良く知っているのだ。
しかし、目の前の藤次郎の強さは想定の外に会った。そもそも、田舎侍の新参者と見誤っていたのだ。それは、あの日の夜会での藤次郎の態度を見ればそう思っても仕方が無かったのかもしれない。いま、自分の目の前の敵である藤次郎の足元には二人の身体が転がっている。この二人は別段、未熟者であったわけでは無かった。それにも関わらず一瞬で斬り伏せられた。改めて藤次郎の実力を推し量れば間違いなく藤次郎の方が上にある。おまけに天心神刀流の剣術使い。厄介な相手だ。天心神刀流は実戦で鍛え上げられた流派。決して一対一で対峙してはならない相手と聞く。
向ける太刀の切っ先が微妙に震える。こんなにも太刀は重かったのか。いや、目の前の男の威圧のせいなのか……
藤次郎は敵と語り合う気などさらさらない。目の前の黒装束を斬り殺す。それのみだ。それは、相手への威圧となって示現され、ますます対峙する敵を藤次郎の気が飲み込んでいく。
一歩踏み込んだ。
「そこまでだ。藤次郎!」
背後から佳宵の首元に太刀を当てる男が現れた。
「遅いから見に来てみればこのありさまか」
やれやれといった表情で男は立っている。
「藤次郎。この通りだ。もう、お終いにしよう。お前が太刀を捨てなければこの娘を殺す」
太刀を突き付けられている佳宵の目を見ると、瞳を横に往復させている。何か知らせたいのか?
『解り辛いよ。佳宵様。この男が言う事が本気なら右目を閉じて嘘なら両目を閉じてください』
佳宵は両目をパチパチしてみせた。
「残り、四人か? いつでもいいぞ」
低く囁くように藤次郎が答える。
「お前? 話を聞いていたのか?」
「お前たちがその娘を殺すはずがない。殺すことは出来ない。絶対だ。知っているぞ、お前たちの事は。なぁ~。ハンジュウロ~」
「おい! ふざけるな。その言い方は大嫌いなんだ!!」
そういうと半重郎は藤次郎の煽りに乗って佳宵を横に投げ、無策に襲いかかってきた。
突きを主体にした甲冑越しの敵を刺殺制圧する天心神刀流。
藤次郎の切っ先は半重郎の口から入って首の後ろから出ていた。藤次郎の実力も確かめずに突っ込んだ半重郎の完敗だ。
瞬間、蹴りを入れ太刀を引き抜くと後ろにいた四人目の右手を斬り落としひるんだすきに首を刺した。
四人やられた。部隊は壊滅だ。ここからはどうやって逃げるかを考える場面になる。
一度戦う気を失った者は全てにおいて後れを取る。訓練を積んだものでもそれは変わらない。藤次郎は半重郎の太刀を取り、構え直す。動けずにいた半重郎の後ろの黒装束は後ずさりしながら切っ先が下がってきた。その一瞬、藤次郎が一歩踏み込んで、両手首を斬り落としそのまま、首をはねた。
最後の一人は背中を見せ既に走り出していた。逃げたのだ。藤次郎は馬に乗り追いかけ、追いつきざまに背後から首を斬り落とした。首の無い黒装束は5mほど走っていたがそのまま前のめりに道から外れ山肌を転がり落ちていった。
佳宵のいるところに馬で戻ると
「強いじゃない藤次郎!」
といって無邪気に抱き着いてきた。
「まぐれですよ」
藤次郎の謙遜など聞こえないふりで、
「藤次郎、心の声は当然って言ってるけど? どっちが本当なのですか?」
いたずらっ子の様に笑っている。
「藤次郎!あなたさっき、わたしが右目を閉じたのに何であいつの事煽ったの?わたし、殺されかけてたのよ!」
「え?佳宵様?右目を閉じてください」
両目を閉じる。
「両目を閉じてください」
両目を閉じる。
「左目を閉じてください」
両目を閉じる。
佳宵は片目だけを閉じることが出来なかったようだ。
「馬を全部頂いていきましょう」
死体は間道の下に投げ捨てた。少しでも発見を遅れさせるためだ。金目のものは全部奪った。間道の血だけはどうしようもない。
六頭の馬は順次交代で乗っていく。最後には乗り捨てて殺す。万が一戻られると事だろう。可哀想だと佳宵は言っているがこれも仕方が無いと説得するのだが、納得はいっていないようだ。だが、馬の六頭乗りつぶしは一気に移動距離を稼ぐことが出来た。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる