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藤次郎-9
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「私は、宮中女官として、皇后さまにお使いしていたのです」
佳宵は自らの過去を語りだした。藤次郎が受け持つ塀の外の幅10mほどの道から少し外れたところで、佳宵を座らせて藤次郎は周囲を伺いながら佳宵の話に傾聴する。
「ご存じとは思いますが今や御所などは荒れ放題でまともにお役目など出来ない状態です。地方の侍が来て官位を売り渡したりして日銭を稼いでいる様な有様でした。当然、そこでお使いしている私共もお金に換えられるのならばそうしたい。そんなところだと思います。
ある日、ここの家中の者が御所にきて若殿のお相手を探しているので下げ渡してくれと金子をもってやってきました」
「若殿の奥方と言う事ですか?」
「いいえ。お相手です」
「…………」
「お判りいただけませんか? 奥方が決まるまでの間、寝所でお勤めをすると言う事です」
藤次郎にも意味が分かった。驚きの表情を佳宵の前にさらして、言葉を継げなくなっていた。
「…………」
「藤次郎?」
小さくなった佳宵が俯く藤次郎の顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい。大丈夫です」
「それで、ここにやって来た日、藤次郎に出会いました。私はあなたに会って自分の未来を呪いました。自分の事を自分で決める事が出来ないそのことに、そして、私は一つの賭けをしました。藤次郎も知っている私の秘密を使って」
「人の気持ちがわかるというあれですか?」
「そうです。私の事を思っていなくても集中すれば何とか気持ちを探ることぐらいはできるのです。だから、私は自分の秘密を大殿に話しました。そして自分が降天の巫女だと言ったのです」
「降天の巫女? いったいそれは?」
「宮中に伝わる話では、降天の巫女とは世の中が乱れた時に現れ、世を正しい方向へと導き、巫女を手にした者は天下を自分の物と出来ると」
「そうなんですか? 佳宵様が?」
「まさか。私はまごう事無き偽物です。そんな力はありません。せいぜい私を好きになってくれる人の心がわかるくらいです。でも、それって好きな方が出来れば誰でも同じになるのではありませんか?」
「…………」
「それから、大殿の前で大殿が考えている事を読んだのです。大殿は大喜びでした。降天の巫女様が自分の手にあれば天下を取れたも同じだと。そこで、私はこう言ったのです。巫女の力は殿方と交われば喪失してしまいます。如何いたしますか? って」
「…………」
「大殿は勿論そんな必要は無いと。家中に屋敷も与えましょうとなりましたが、それだけで終わる事はありませんでした。そのような女人の姿ではこれからも男の目から守らなくてはならない。幼子に変える。と言って、京から神官を呼び寄せ私に三日三晩祈祷していたのです。
わたしは全く信じてなかったのですが、二日目辺りから、なんかおかしいと思っていたのですが今日にはこのように幼子のような姿かたちに生まれ変わってしまいました。神官が言うには以前の姿には生涯戻らないといっていました。その時の苦痛たるや酷いものでした」
いつの間にか佳宵はまた涙を流していた。それを見た藤次郎は佳宵をそっと抱き寄せる。
「どちらにしても生きていくとは辛いものなのですね」
藤次郎の胸でなく小さな佳宵の身体は震えていた。藤次郎は抱いていた佳宵の肩を持ち、顔を覗き込む。
「佳宵様は幸せですか?」
「何を言っているのです?」
「これからここで幸せになれるのですか? このようなお姿にされてしまって」
「ひどいですよ! 藤次郎! わたしが望んでこんな童の姿になったはずないでしょう? ひどいですよ」
「佳宵様は自由を望んでおられましたね。覚えていますか? 私と最初に会った時です。その時に月を見てそう仰っていましたよ」
「でも、わたしはもう……今晩は藤次郎にお別れを言いに来たのです。永遠のお別れを」
「お別れとは?」
「館には明日から入りいます。そしたら、もう殿方には会えないのですからお別れになります」
佳宵の俯いた視線には生が感じられなった藤次郎は気付いた。
佳宵は死を選ぶのだろう。
『佳宵様、あなたを死なせない』
藤次郎は声に出さず、佳宵の目をまっすぐに見て心の中で呟いた。
「藤次郎、ずるいですよ。なぜわたしの心を読むのですか?」
「だって、好きならばそのくらいわかりますよね? さっき佳宵様が言いましたよ」
そう言うと、藤次郎は立ち上がり、佳宵の手を取り、二人は暗闇へと消えていった。
佳宵は自らの過去を語りだした。藤次郎が受け持つ塀の外の幅10mほどの道から少し外れたところで、佳宵を座らせて藤次郎は周囲を伺いながら佳宵の話に傾聴する。
「ご存じとは思いますが今や御所などは荒れ放題でまともにお役目など出来ない状態です。地方の侍が来て官位を売り渡したりして日銭を稼いでいる様な有様でした。当然、そこでお使いしている私共もお金に換えられるのならばそうしたい。そんなところだと思います。
ある日、ここの家中の者が御所にきて若殿のお相手を探しているので下げ渡してくれと金子をもってやってきました」
「若殿の奥方と言う事ですか?」
「いいえ。お相手です」
「…………」
「お判りいただけませんか? 奥方が決まるまでの間、寝所でお勤めをすると言う事です」
藤次郎にも意味が分かった。驚きの表情を佳宵の前にさらして、言葉を継げなくなっていた。
「…………」
「藤次郎?」
小さくなった佳宵が俯く藤次郎の顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい。大丈夫です」
「それで、ここにやって来た日、藤次郎に出会いました。私はあなたに会って自分の未来を呪いました。自分の事を自分で決める事が出来ないそのことに、そして、私は一つの賭けをしました。藤次郎も知っている私の秘密を使って」
「人の気持ちがわかるというあれですか?」
「そうです。私の事を思っていなくても集中すれば何とか気持ちを探ることぐらいはできるのです。だから、私は自分の秘密を大殿に話しました。そして自分が降天の巫女だと言ったのです」
「降天の巫女? いったいそれは?」
「宮中に伝わる話では、降天の巫女とは世の中が乱れた時に現れ、世を正しい方向へと導き、巫女を手にした者は天下を自分の物と出来ると」
「そうなんですか? 佳宵様が?」
「まさか。私はまごう事無き偽物です。そんな力はありません。せいぜい私を好きになってくれる人の心がわかるくらいです。でも、それって好きな方が出来れば誰でも同じになるのではありませんか?」
「…………」
「それから、大殿の前で大殿が考えている事を読んだのです。大殿は大喜びでした。降天の巫女様が自分の手にあれば天下を取れたも同じだと。そこで、私はこう言ったのです。巫女の力は殿方と交われば喪失してしまいます。如何いたしますか? って」
「…………」
「大殿は勿論そんな必要は無いと。家中に屋敷も与えましょうとなりましたが、それだけで終わる事はありませんでした。そのような女人の姿ではこれからも男の目から守らなくてはならない。幼子に変える。と言って、京から神官を呼び寄せ私に三日三晩祈祷していたのです。
わたしは全く信じてなかったのですが、二日目辺りから、なんかおかしいと思っていたのですが今日にはこのように幼子のような姿かたちに生まれ変わってしまいました。神官が言うには以前の姿には生涯戻らないといっていました。その時の苦痛たるや酷いものでした」
いつの間にか佳宵はまた涙を流していた。それを見た藤次郎は佳宵をそっと抱き寄せる。
「どちらにしても生きていくとは辛いものなのですね」
藤次郎の胸でなく小さな佳宵の身体は震えていた。藤次郎は抱いていた佳宵の肩を持ち、顔を覗き込む。
「佳宵様は幸せですか?」
「何を言っているのです?」
「これからここで幸せになれるのですか? このようなお姿にされてしまって」
「ひどいですよ! 藤次郎! わたしが望んでこんな童の姿になったはずないでしょう? ひどいですよ」
「佳宵様は自由を望んでおられましたね。覚えていますか? 私と最初に会った時です。その時に月を見てそう仰っていましたよ」
「でも、わたしはもう……今晩は藤次郎にお別れを言いに来たのです。永遠のお別れを」
「お別れとは?」
「館には明日から入りいます。そしたら、もう殿方には会えないのですからお別れになります」
佳宵の俯いた視線には生が感じられなった藤次郎は気付いた。
佳宵は死を選ぶのだろう。
『佳宵様、あなたを死なせない』
藤次郎は声に出さず、佳宵の目をまっすぐに見て心の中で呟いた。
「藤次郎、ずるいですよ。なぜわたしの心を読むのですか?」
「だって、好きならばそのくらいわかりますよね? さっき佳宵様が言いましたよ」
そう言うと、藤次郎は立ち上がり、佳宵の手を取り、二人は暗闇へと消えていった。
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