上 下
41 / 56

藤次郎-2

しおりを挟む
 今夜は家中で夜会が開かれる。夜会には家中のほぼすべてが集まり祝いの宴が催されるのだという。なんでも、跡継ぎの元服の祝いらしい。

家中といっても相当数の人数だ。新参者の男にとっては、ほとんどが見ず知らずである。だから、どこに行っても話す内容は同じで、ほぼ自分の人となりの紹介になるのだ。新参者の男は、家中の中堅どころの親戚筋の紹介で仕官した。家はそもそも土豪の出自で地方の有力者ではあるが武家を名乗るほどの規模も実力も持ち合わせてはいなかったし、おまけに次男であるが故に自分の食い扶持は自分で探さなければならなかったのだ。そこで、頼ったのがこの海道一の弓取りを自称する大名家だった。幸いにもここである程度の地位を持っていた親戚の口添えでかなりトントンと事は進み意外なほどにすんなりと食い扶持は見つかった。当然、下の身分からの出発であるが。この家中は今、勢力を近辺に拡大している真っ只中なので人手がいくらあっても足りないのだ、それも、良いタイミングだったという事になる。

「はんじゅうろ~。酒をつげぇ~」

新参者の男の背中で飲んでいた一団の男だ。さっきから、このハンジュウロウという名を連呼していたのでそれだけで妙に覚えてしまった。また、言い回しが独特でどこか地方の訛りなのかと考えてはみたのだが、もとよりそんな事詳しく知っていないのでわかるはずも無いのだが。

「お! みかけぬ顔だなぁ~」

さっきからハンジュウロウを連呼していた男が、後ろをちらりと見た新参者を目ざとく見つけ絡んできた。

「きょ、今日からここでお世話になる。佐々木藤次郎でございます。よろしくお見知り置きを」

「はんじゅうろ~。若いのに見ろ! 立派にご挨拶ができるぞ。お前も見習え~」

その男はヒョロヒョロな体つきで、酔っているのだろうか? 頭の先から足の先まで舐め回すように藤次郎を見ていた。

藤次郎を見つめるそのヒョロヒョロ男は手招きして一団に招き入れると酒を注いでくるのだが、ヤケに手足が長く胡坐をかいている割には身体を動かすことなく想像以上に長い腕で酒を注いできて言う、

「我らはお屋敷のお庭を整えるお役目をいただいているものだ。そこの庭は見ていただけたかな? 丹精込めて仕上げた庭なので、まだなら是非見てくれ。我らの自信作だ」

すると背中から、

「藤次郎探したぞ!」

この家に藤次郎を紹介した叔父が酒を持ってやって来た。

「さ、飲むぞ。こっちへ来い!」

藤次郎は先ほどの一団に一礼すると叔父に連れられてその場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

神様と呼ばれた精霊使い ~個性豊かな精霊達と共に~

川原源明
ファンタジー
ルマーン帝国ハーヴァー地方の小さな村に一人の少女がいた。 彼女の名はラミナ、小さな村で祖母と両親と4人で平和な生活を送っていた。 そんなある日のこと、狩りに行った父が倒れ、仲間の狩人に担がれて帰宅。 祖母の必死な看病もむなしく数時間後には亡くなり、同日母親も謎の病で息を引き取った。 両親が立て続けに亡くなった事で絶望で埋め尽くされているなか、 『ラミナ元気出しぃ、ウチが側におるから! と言うても聞こえてへんか……』 活発そうな女の子の声が頭の中に響いた。 祖母にそのことを話すと、代々側に居る精霊様では無いかという そして、週末にあるスキル継承の儀で『精霊使い』を授かるかもしれないねと言われ、 絶望の中に居る少女に小さな明かりが灯った気がした。 そして、週末、スキル継承の儀で念願の『精霊使い』を授かり、少女の物語はここから始まった。 先祖の甥に学園に行ってみてはといわれ、ルマーン帝国国立アカデミーに入学、そこで知り合った友人や先輩や先生等と織りなす物語 各地に散る精霊達と契約しながら 外科医療の存在しない世の中で、友人の肺に巣くう病魔を取り除いたり 探偵のまねごとをしている精霊とアカデミー7不思議の謎を解いたり ラミナ自身は学内武道会には参加しないけれど、400年ぶりに公衆の面前に姿を現す精霊達 夏休みには,思ってもみなかったことに巻き込まれ 収穫祭&学園祭では、○○役になったりと様々なことに巻き込まれていく。 そして、数年後には、先祖の軌跡をなぞるように、ラミナも世界に羽ばたく。 何事にも捕らわれない発想と、様々な経験をしていくことで、周囲から神様と呼ばれるようになった一人の精霊使いの物語のはじまりはじまり

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋
ファンタジー
 その日を境に、人類は滅亡の危機に瀕した。  数多の国がそれぞれの文化を持ち生活を送っていたが、魔興歴四七〇年に突如として世界中に魔物が大量に溢れ、人々は魔法や武器を用いて奮戦するも、対応しきれずに生活圏を追われることとなった。  そんな中、ある国が王都を囲っていた壁を利用し、避難して来た自国の民や他国の民と国籍や人種を問わず等しく受け入れ、共に力を合わせて壁内に立て籠ることで安定した生活圏を確保することに成功した。  魔法師と非魔法師が共存して少しずつ生活圏を広げ、円形に四重の壁を築き、壁内で安定した暮らしを送れるに至った魔興歴一二五五年現在、ウェスペルシュタイン国で生活する一人の少年が、国内に十二校設置されている魔法技能師――魔法師の正式名称――の養成を目的に設立された国立魔法教育高等学校の内の一校であるランチェスター学園に入学する。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

魔法学園に転入したのは騎士の国の王子だった件

すて
ファンタジー
騎士の国ルフトは突然隣国のガイザスに攻め込まれ、記憶を失った王子ルークは騎士ソルドによって友好国の魔法王国アルテナに逃された。ルークは魔法学園の生徒となり、何も知らないまま楽しい学園生活を送るが、あるきっかけで記憶を取り戻す。記憶を取り戻したルークが取るべき行動、それはもちろんガイザスに攻め込む事だった。

処理中です...