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参場 二

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「馬場なぁ……」

吉右衛門が以前のやり取りを思い出している。靜華と頼政の屋敷に忍び込んで尋問した時の事だ。

「奴とは何かと因縁があるな。結構、陰でコソコソ動き回っているからだろうな。今晩の頼嗣は頼政の郎党だ。頼種の弟だ」

弁慶と霞に昔のいきさつのさわりを聞かせていた吉右衛門が言う。

「頼嗣って奴が現世の巫女と巫女の残滓に絡んでいるのは確定だろうな。それと、霞の事は知っているんだろう? だから、遅かれ速かれこちらに何かしらの行動を起こしてくるだろう。ならば、先手だ。こっちから攻め込む。昼間のうちに弁慶と偵察に行ってきた。それほど屋敷は大きく無くて総数二十人。真ん中の館に頼嗣は居る」

馬場頼嗣の屋敷は左京の六条通り沿いにあった。吉右衛門の屋敷から3km程のところだ。周囲は塀を巡らせてはいるものの、馬場の郎党の屋敷としては小ぶりでそれほど高位の待遇を受けている様には見受けられない。

「霞、屋敷に何人いる?」

「ちょっとまってなさい。えぇ~と7,8,9、15人ってところね。」

聞いていた吉右衛門の表情が変わった。霞を見ていた視線が厳しくなる。

「霞、俺たちは命のやり取りをしているんだ。しっかりとした情報をだせ。俺たちはお前に命を預けているんだ! わかるか? それと遅い」

半笑いが消えている吉右衛門をみてどことなくお遊び気分の霞は自分の置かれている立場を認識した。特別に訓練されていたわけでは無い霞にとっては言われて初めて気づくことなのだが。
吉右衛門と弁慶は連携して素早く塀に登っている。

「少し言い方が厳しいのでは無いか?」

弁慶が塀の上で吉右衛門に言っている。

「弁慶、俺たちは全員の能力を信じあえなければ戦えないんだ。だから、今のうちから求めるものをはっきりと伝えて置く。そして、求められた相手はそれに応える義務がある。それをわからせるんだ。あいつはやるよ。見て見ろ、さっきとは目つきが違う。」

吉右衛門は塀の下にいる霞を見て手を差し伸べた。
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