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壱場 九
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「あ~しんど」
弁慶が全身から汗を吹き出して、半ば白目をむいて登り切った先には、今までうっそうとしていた森が開け、寺の境内が見えてきた。
「来たか、弁慶。静かにしろ」
既に森の切れ間に達していた吉右衛門は地面に寝そべり寺の周囲を観察している。
「見ろ、正面。寺から見れば側面になるのか? あそこの塀の上。一人、二人、三人。側面の見張り塔の上に三人。周囲三方も見たいのだが。よし、寺の背後あそこの山の上から見れそうだ。もう一段登るぞ、来い!」
吉右衛門は地面の上を這いながら元来た山道へと戻って行った。
「弁慶、あそこにいるのは誰からの情報だ?」
二人は元来た山道の途中に上へと続く小路を見つけていた。そこまで一旦、戻って寺の背後を目指す。
「誰からの情報かまでは知らん。鎌田様に聞いただけだが。何かあるのか?」
弁慶は頭の汗を拭きとりながら怪訝そうに聞いてくる。
「あぁ、まあな。この仕事の基本だよ。全てを疑うのさ。疑って自分で正しい事を確認する。それを怠って丸乗りして前に失敗したからな。よし、上が見えてきた」
寺のある山腹から30m程の比高がある背面上部の広場が見えてきた。広場はまだ、春先だからだろう。それほど草なども生い茂っていない。せいぜい足首程度だ。広場の正面が恐らく寺の背後になっていると思われる。
「周囲を観察しろ。人影は無いか?」
吉右衛門が警戒の手順を教えながら周囲を観察している。
「この広場に出ると身体がもろに露出する。敵に囲まれたら圧倒的に不利だ。念には念を入れろよ」
しばらく、地面に伏せて周囲を観察していたが、人影の様なものは見当たらなかった。
「よし、あの広場の向こう側まで突っ切るぞ。立て!」
吉右衛門は弁慶の背中を叩いて走り出した。遅れて弁慶も追走する。広場は50m程度だ。難なくたどり着ける。
「よし、下は丸見えだ」
広場の先は崖になり目論見通り寺の内部が丸見えだ。寺の周囲を塀が取り囲み見張り台は四つ角にあり、それぞれに歩哨が三名配置されている。周囲を取り囲む塀は外側からは見えなかったがさらに内側にも塀があり、二重になっていたのだ。塀のいっぺんは50m程度。門が正面と裏手にある。裏手の門からは別の道が伸びていた。建物は中央に本堂、右手に社殿、正面の門から入ってすぐに左右に一棟ずつ建物がある。
「弁慶、どの建物にいるかはわからないのか?」
「わからん」
「そうか、たいした問題ではないがな。建物の大きさから推測すると中にいるのは凡そ三十人程度だろう。お前二十九人やれるか?」
半笑いの吉右衛門が弁慶を見ながら聞いてみたが、当の弁慶は鼻で笑って相手にすることは無かった。調子よく眉を上げた吉右衛門が
「よし、夜の人員配置はわかった。今夜はここまでだ。今度は昼間に来て同じことをする。次は、総数、人の流れその辺りだな」
吉右衛門が、今晩の偵察の終了を宣言しようとした時、二人の背後から篠笛の調べが聞こえてくる。
ゆったりとした調べが耳に心地良い。
「まずい! 靜華だ!! 何でここがわかった? いや、でも。あいつ力が無いって……」
弁慶が全身から汗を吹き出して、半ば白目をむいて登り切った先には、今までうっそうとしていた森が開け、寺の境内が見えてきた。
「来たか、弁慶。静かにしろ」
既に森の切れ間に達していた吉右衛門は地面に寝そべり寺の周囲を観察している。
「見ろ、正面。寺から見れば側面になるのか? あそこの塀の上。一人、二人、三人。側面の見張り塔の上に三人。周囲三方も見たいのだが。よし、寺の背後あそこの山の上から見れそうだ。もう一段登るぞ、来い!」
吉右衛門は地面の上を這いながら元来た山道へと戻って行った。
「弁慶、あそこにいるのは誰からの情報だ?」
二人は元来た山道の途中に上へと続く小路を見つけていた。そこまで一旦、戻って寺の背後を目指す。
「誰からの情報かまでは知らん。鎌田様に聞いただけだが。何かあるのか?」
弁慶は頭の汗を拭きとりながら怪訝そうに聞いてくる。
「あぁ、まあな。この仕事の基本だよ。全てを疑うのさ。疑って自分で正しい事を確認する。それを怠って丸乗りして前に失敗したからな。よし、上が見えてきた」
寺のある山腹から30m程の比高がある背面上部の広場が見えてきた。広場はまだ、春先だからだろう。それほど草なども生い茂っていない。せいぜい足首程度だ。広場の正面が恐らく寺の背後になっていると思われる。
「周囲を観察しろ。人影は無いか?」
吉右衛門が警戒の手順を教えながら周囲を観察している。
「この広場に出ると身体がもろに露出する。敵に囲まれたら圧倒的に不利だ。念には念を入れろよ」
しばらく、地面に伏せて周囲を観察していたが、人影の様なものは見当たらなかった。
「よし、あの広場の向こう側まで突っ切るぞ。立て!」
吉右衛門は弁慶の背中を叩いて走り出した。遅れて弁慶も追走する。広場は50m程度だ。難なくたどり着ける。
「よし、下は丸見えだ」
広場の先は崖になり目論見通り寺の内部が丸見えだ。寺の周囲を塀が取り囲み見張り台は四つ角にあり、それぞれに歩哨が三名配置されている。周囲を取り囲む塀は外側からは見えなかったがさらに内側にも塀があり、二重になっていたのだ。塀のいっぺんは50m程度。門が正面と裏手にある。裏手の門からは別の道が伸びていた。建物は中央に本堂、右手に社殿、正面の門から入ってすぐに左右に一棟ずつ建物がある。
「弁慶、どの建物にいるかはわからないのか?」
「わからん」
「そうか、たいした問題ではないがな。建物の大きさから推測すると中にいるのは凡そ三十人程度だろう。お前二十九人やれるか?」
半笑いの吉右衛門が弁慶を見ながら聞いてみたが、当の弁慶は鼻で笑って相手にすることは無かった。調子よく眉を上げた吉右衛門が
「よし、夜の人員配置はわかった。今夜はここまでだ。今度は昼間に来て同じことをする。次は、総数、人の流れその辺りだな」
吉右衛門が、今晩の偵察の終了を宣言しようとした時、二人の背後から篠笛の調べが聞こえてくる。
ゆったりとした調べが耳に心地良い。
「まずい! 靜華だ!! 何でここがわかった? いや、でも。あいつ力が無いって……」
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