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壱場 八

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「弁慶、どこに囚われているのだ。具体的に言ってくれ」

「鳥邉野(とりべの)の山を登った先にある寺社と聞いている」

翌日、夕食を済ませた二人は酒を飲みに行くと言って屋敷を出た。今夜は囚われている場所の状況を確認する事を目的としている。吉右衛門はサイコロを振る仕事をしない。理詰めで追い込んで不確定要素を潰す。その不確定要素が己の実力内で処理できる範疇になったら行動に移す。それが、生き残る術だと心得ている。

そして、今晩。

「目的は囚われている周辺の偵察だ。屋敷の構成、見張りの配置、人数、逃走経路の検討。諸々だ。」

吉右衛門の指示に弁慶が従う。それが今夜の同行を許す条件だった。目的地は街中から2km程離れた東山の西側斜面一体で比高200~300m程度だ。当然、日が沈んだ後にわざわざおもむく場所ではない。

「しかし、こりゃぁ。薄気味悪いのう」

弁慶が森の中でもっと薄気味悪い声で吉右衛門の後からついてきている。鳥邉野は京の庶民の埋葬場で木の上にはそこかしこに遺体が安置してある。いわゆる鳥葬だ。

「坊主でも怖いのか?」

吉右衛門は後ろの弁慶を嘲笑しながら言ったのだが、まともな修行もしてないだろうという意味も込めている。

「坊主はな。葬式のためにいるのではないからな。むしろこういうのは苦手だ」

「まぁいいや。あとどのくらいだ? 中々にしんどいぞ。この山は。」

二人は正面の道を選ばずに背後から廻る道を選んでいる。それは、道のりは伸びるのだが斜度は緩くなる。はずなのだが。
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