凪の始まり

Shigeru_Kimoto

文字の大きさ
上 下
27 / 390
5月 リリィさん

2 美琴さん2

しおりを挟む
美琴さんの海岸沿いのアパートを目指す。
確か、この辺りだ。防波堤沿いの道路から海岸平野の北側のドン詰まり、背中に海岸段丘の崖を背負っている二階建ての民営アパート。その二階の一番奥の部屋だった。はず。

この辺りの道路は入り組んでいて、迷宮のようだ。
道路から一段高く、100mほど手前の防波堤の直近を通る道路からは、アパートは見えているのだが、そこにたどり着けないでいる。時間が無いと思うと焦りばかりが募っていく。

と、思っているうちに、あ~、行き過ぎた上に行き止まり、神社の参道に続く急峻な崖を登る為の階段が目の前にあるだけだ。

「波留神社」

そんな名前が階段の横の石碑にあった。
神社がこんなとこにあるんだな……

そんな事考えている場合じゃない。Uターンすら出来ないその道をバックで戻ると100m程のところを右にギリ曲がれそうな路地があった。さっきは気付かなかった。丁度、その路地は直進すると死角になる様な取り付け方で俺は気付かずに過ぎ去ったらしい。

そして、ようやくにして、美琴さんのアパートの前に着いたのだが……
美琴さん、二階建ての2DKのアパートにワンワンと……ヒモと一緒に住んでいる。

「美琴さ~ん」

ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、

から~の

携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、ピンポン連打、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電、携帯鬼電

「なんだよ、うっせ~な」

ガラのお悪いお友達が、男子友達が出てきた。

「うっせ~、おめ~に用はね~んだよ。ヒモどいてろ!」

俺はひょろっとしたプロの“たかり”を片手で払い部屋の中に不法侵入してやった。

わんわんわん。

美琴さんの愛犬、はんぺんちゃんだ。
チワワの毛の短い白い子。可愛い~。

「よーし、よしよし、可愛いね~、そう、ご挨拶に出てきてくれたの~。よちよち」

やってる場合じゃなかった、はんぺんちゃんを抱えて、一番奥の8畳ほどの部屋のダブルベットに全裸でお眠りあそばす美琴さんの肩を揺らして、

「美琴さん、仕事ですよ。起きてください」

「ん~、なに……」

目をこすりながら大の字になってふくよかなお胸を俺に向けている。いや全部、向けている。

「美琴さん、仕事ですよ。起きてください」

二回目です。

「おい、ヒモ! パンツ穿かせろ!」

部屋の入口で事の成り行きを見守って棒立ちの使えなさそうな小男に俺は指示して、美琴さんの準備を始めた。

美琴さんは、三十代のお姉さまで何気に人気キャストだが、突然、休む癖がある。これにはまいる。特に予約があるのが昨日からわかっているのにこれでは話にならない。

「充希! 美琴さん確保! 部屋の準備しとけ!!」

俺は携帯先で充希に怒声を浴びせ、社用車86のイグニッションをONした。嘘だ。

俺は無事、美琴さんをサルベージして車に乗せて店へと突き進んでいる。既に40分経過だ。隣の助手席で化粧をする美琴さんは

「ご~めんね~、店長」

悪びれた様子もない。
あの、くそヒモ、美琴さんの時間管理くらいしろよ。その金で遊んで暮らしてんだろう。ほんとつかえねぇな。

「美琴さん、この業界でも時間にルーズだといずれ行き詰りますよ。ホントに」

俺が珍しくキレかげんでいってやった。

「もう、こわい~ぃ」

薄ら笑って、アイライン整えている。こりゃダメだ。

「店長~、学校どう?」

最近の俺へのあいさつ代わりの質問だ。

「あ? 毎日楽しいよ。違う世界が見れて」

いや、違う世界じゃなかった。本来、俺が16年前に見ておくべき世界だった。

「そう言えば、ウチのアパートにも店長とおんなじ学校の子がいたよ。多分、六年生だと思うんだけど、凄く大人っぽいの。いつも挨拶してくれるよ」

「へー、そうですか、今の子供は大人っぽいですから」

まあ、よくある事だ。

それより、残り10分、間に合うのか俺。
今、俺は社用車の国産リッタカーを赤城山麓の下り最速張りに飛ばしている。イメージはフルブレーキからの、パワードリフト中。ヘアピンを抜けてからのアクセル全開、続く複合ヘアピンへと入る手前、ギリギリまでアクセルペダルに足を置いた俺は、一気に2速へ落とす!!ダブルアクセル、ダブルクラッチ、スムーズに繋ぎ、回転数は落としてない!
……いや、オートマだった。あくまで脳内86だ。

そして、店の前に横付け。
こうして俺のGWは始まった。さぁ、行くぜ! 目標越え!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

処理中です...