18 / 390
4月 始まり
5
しおりを挟む
俺は、五年生の2学期の最後の方から学校に行かなくなった。行けなくなったのかな。
最初こそ、父親も学校に行けってうるさく言っていたが、次第に何も言わなくなって、終いにはいない子同然になっていた。俺は小学校に行かなくなって、何をしていたんだろう。本を読んでいた?テレビを見ていた?家にいたのは確かだ。
そのうち、桜が咲いた頃、先生が来るようになった。満島先生だ。宿題を持って、だから、先生のくれるプリントを俺はしていた。分数の掛け算、割り算なんかは中々、味があったが、先生が持ってきた六年生の教科書を熟読すれば何とかやっつける事が出来た。
そう言えば……それを、宿題を毎日先生に渡していたな。そして、その宿題をちゃんと添削して持ってきてくれていた。満島先生は。
すっかり忘れていた。
そんな感じで、中学も行かずじまいだ。当然、その上も同様だ。周りの奴らが高校に入る歳に、何とか拾われて、この風俗店の仕事に着いた。気が付きゃ、いつの間にか店長になり、客とキャストとの板挟みで苦しむ毎日を送っている。
先生はさっき後悔という言葉を使っていたが、そうだな、そう言う意味では俺も後悔している。あの時、まだ、学校に行かなくなった3か月くらいのあの日、六年生の担任の満島先生の手を取っていたら、その後の俺の人生はどう変わっていったのだろうか。
そして、今、俺の前であの日と同じように俺の前に現れて、手を差し伸べている。小学校に通う?そんな事をして、この俺の何が変わるというのか?
何も変わらないだろう。
だけど、差し伸べてくれる手がある事がどれほどありがたいか、あれから16年たった俺には痛いほどに理解できている。
先生、ありがとう。今度は先生の手を掴ませてもらうよ。
俺は、先生に感謝を表し、学校に行く事を約束した。
……そして、先生が帰ると、
「ちょっと、店長。小学校に通うの?」
雅さんが、早速、ことりちゃんから事のいきさつを聞きつけて、事務所へとやって来た。
「そうね。なんか、それも面白いかなって」
詳細は俺のデリケートな部分だ、省いておく。
「うちの子の使っていたジャージあげようか?」
いや、デカイ俺が子供の小さいお古を着れるわけねぇだろ。
ていうか、まじか?え?じゃあ、俺、ランドセル背負うの?
最初こそ、父親も学校に行けってうるさく言っていたが、次第に何も言わなくなって、終いにはいない子同然になっていた。俺は小学校に行かなくなって、何をしていたんだろう。本を読んでいた?テレビを見ていた?家にいたのは確かだ。
そのうち、桜が咲いた頃、先生が来るようになった。満島先生だ。宿題を持って、だから、先生のくれるプリントを俺はしていた。分数の掛け算、割り算なんかは中々、味があったが、先生が持ってきた六年生の教科書を熟読すれば何とかやっつける事が出来た。
そう言えば……それを、宿題を毎日先生に渡していたな。そして、その宿題をちゃんと添削して持ってきてくれていた。満島先生は。
すっかり忘れていた。
そんな感じで、中学も行かずじまいだ。当然、その上も同様だ。周りの奴らが高校に入る歳に、何とか拾われて、この風俗店の仕事に着いた。気が付きゃ、いつの間にか店長になり、客とキャストとの板挟みで苦しむ毎日を送っている。
先生はさっき後悔という言葉を使っていたが、そうだな、そう言う意味では俺も後悔している。あの時、まだ、学校に行かなくなった3か月くらいのあの日、六年生の担任の満島先生の手を取っていたら、その後の俺の人生はどう変わっていったのだろうか。
そして、今、俺の前であの日と同じように俺の前に現れて、手を差し伸べている。小学校に通う?そんな事をして、この俺の何が変わるというのか?
何も変わらないだろう。
だけど、差し伸べてくれる手がある事がどれほどありがたいか、あれから16年たった俺には痛いほどに理解できている。
先生、ありがとう。今度は先生の手を掴ませてもらうよ。
俺は、先生に感謝を表し、学校に行く事を約束した。
……そして、先生が帰ると、
「ちょっと、店長。小学校に通うの?」
雅さんが、早速、ことりちゃんから事のいきさつを聞きつけて、事務所へとやって来た。
「そうね。なんか、それも面白いかなって」
詳細は俺のデリケートな部分だ、省いておく。
「うちの子の使っていたジャージあげようか?」
いや、デカイ俺が子供の小さいお古を着れるわけねぇだろ。
ていうか、まじか?え?じゃあ、俺、ランドセル背負うの?
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる