上 下
33 / 44
世界樹

水の都クレール③

しおりを挟む
 クレール2日目の朝。
 再び素材集めのため、朝食を終えた俺達3人は町を離れる。
 (後ろに誰かいるな)
 町を出て第六感が動く。後ろにいるのは1人だ。

「ちょっと待ってください」

 声をかけられ後ろを振り向くと、転移者であろう男の子がいた。俺より幼い顔をしているので、中学生ぐらいだろうか。

「何かようか?」
「最強の転移者ユリトさんですよね?報酬を払うので依頼を受けてくれませんか。相手が相手なので、町から離れた時を狙って声をかけさせてもらいました」
「内容と報酬次第だな」

 強くなるためには金はいくらあっても足りない。怪しい奴だが要件次第では誰からの依頼でも受けるスタンスでいる。

「依頼ですがこの先にある盗賊のアジトを全滅していただきたいのです。僕は友達と一緒に転移したのですが、数日前に僕をかばって友達が盗賊に殺されました。巨大な組織で町の中にも仲間がいるみたいで、ギルドが討伐体を組んでも逃げたり奇襲したりして手を焼いているレベルです。こないだもSランクのパーティーが全滅しました」

 ありえない話ではないが、都合よく盗賊のアジトなんてあるのか。嘘を看破するスキルを持ち合わせていない俺には真偽はわからない。

「報酬は?」
「3000万エルを前渡しします。その代り僕も一緒に連れていってください。邪魔にはならないようにしますし、守ってもらわなくてもいいです。友達はもうこの世にいないと覚悟していますが、盗賊の最後は見届けたいのです」

 俺は依頼を受けることにした。詩音の依頼に期限はないし、寄り道程度にしか考えていない。そして依頼主の男の子の名前はマオと言った。ユニークスキルは『縮小』で、触れたものを縮める。目の前で木を対象で見せてもらったが、手の平に乗るミニチュアになった。冒険者は無理だろうが使い方によっては、役に立てるのではないだろうか。

 マオに言われた道を歩いて15分程して、森の中に倉庫が見えた。倉庫にしか見えないがマオ曰く、盗賊達のアジトはそれらしい。

「ユリトさんお願いします」

 人の気配は感じないが、気配を消す魔道具くらいあるだろう。
 外から倉庫を破壊することを考えたが、捕まっただけの市民もいるかもしれないため1つしかない入り口から正面突破することに決めた。

 倉庫を開け、俺の視界に飛び込んだのは一切何もない空間だけだった。夜になるには遠い時間のため、窓からは日差しが差し込み開いた入り口からは風が入る。
 そして昨日聞いたばかりの声が響く。

「ありがとねマオ」
「メイか」
「女性に対する挨拶にしては0点よユリト君」
「ごめんねユリトさん騙しちゃって。友達が盗賊にやられたのは本当の話だけどメイさん達が敵討ちしてくれたんだ。少しでも恩人の力にはなりたいから恨みはないけどここで死んでください」
「そういうこと。昨日本部長に報告したら君のことすぐ消してこいって言われてきちゃいましたー」

 何もなかった空間に10人の男女が現れる。メイの仲間だ。
 マオの『縮小』で目に見えないサイズになっていたのだろう。依頼でモンスター狩りに来たのに、対モンスターより対人戦ばっかりだな。

「景虎から君の話は聞いてるよ。彼も今日来たかったみたいだけど、別の依頼が入ってたせいでお休みだ。君の『転移者の本』でもお土産に持って帰ってあげなきゃね」
「俺を倒すには人数が少なすぎるんじゃないか?」
「ガキが調子に乗るなよ」

 殺気で空間が満ちる。
 今までにない緊張が走る。王城で戦った以上のプレシャーだ。本気で俺を殺しにきているのがわかる。
 最初に動いたのはメイだ。メフィスに短剣で切りかかるように動く。
『ユニークスキル:束縛』
 メイは囮だった。メイの横から11人目の敵が現れ、両手から召喚された牢がメフィスを捕らえる。

「おっけーだよ。天使ちゃんは私と一緒に今回は高見の見物でもしようね」

 すぐさまメフィスを助けるために行動に移るが、振るった鎌もラファの闇魔法も牢に弾かれる。

(ユリト様申し訳ございません。中から動くことはできませんが、発動した相手も同じようです。私の事は気にせず、他の奴等を倒してください)
(わかった。ラファ!先に邪魔者を殺すぞ)
(了解です。さくっと倒してメフィちゃん助けます)

 メフィちゃんって君等いつの間にそんな仲良くなってたの。
 って今はそんなことどうでもいいか。

 さあ、殺し合いだ――

しおりを挟む

処理中です...