夏から夏へ ~SumSumMer~

崗本 健太郎

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第22話 永久歯

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*とみさんの話
ぼくが住んでいた千葉市緑区あすみが丘は『住宅地』として開発された土地で、商業施設や飲食店などが全然ないという少し寂しいところだった。近所にある一番おもしろい建物がセブンイレブンで、その他は歯医者しかなかったので、遊びに行く時は誰かの家に行ってゲームをすることが多かった。
ただ、東京のベットタウンとして開発されたであろう場所であったため、みんな車を持っていて、土日には遠出したりしていたので、何かを買ってもらったりすることにはさほど困ってはいなかった。
そんな中、町内で唯一のコンビニであったセブンイレブンに遊びに行く時には、いつも同級生の富田くんと一緒に行っていた。この子の家はわりと裕福だったのか、遊びに行くと毎回おやつを買っていて、ぼくはそんなにお金がなかったので、買わずに帰るか、10円のガムを買って帰っていた。とみさんは短髪のえびす顔で、明るくて話が面白いと言う感じの子だった。
ある時、とみさんから上の歯が歯茎の中に入っていて、生えてこなくて困っているという話をされた。よくよく聞いてみると、来週の金曜日の3時間目に学校を抜けて小さな手術をすることになったらしい。
とみさんはそんなに気にしている風ではなかったのだが、相談された身としてはなんとかしたいので心配しつつも遊んでいたら、あっという間にその日が来てしまった。とみさんが手術に向かう時に
「とみさん頑張ってって言って」と自分で言い、みんなから
「とみさん頑張って」と言われていたのにはちょっと笑ってしまったが、
とみさんが涙目なのを見て、“ほんとは無理してたんだな”と思うとぼくも少し悲しくなった。次の週にとみさんが口にガーゼを付けて元気に登校したことで、無事に帰って来て安心したのをよく覚えている。
後にとみさんから、「あの時に話を聞いてくれたことで少し楽になった」と言われたことがあり、“多少なりとも役に立てて良かったな”と思ったのであった。


*永久歯に生え変わるの話
小学校低学年になると、みんな歯が大人の歯に生え変わり、抜けた歯をどうするかということを考える。日本では一般的に、上の歯を埋めたり谷底へ投げ込んだり、下の歯を屋根の上に乗せたり山の上に置いて来たりする。なぜ生えている側と『反対の方向』なのかと言うと、その乳歯の代わりに生えた永久歯が、上の歯は下へ、下の歯は上へグングン伸びるようにという願いを込めてそうするようだ。

だが、これは少し古い習慣なので、ぼくの母は『せっかくだから歯を取っておきたい』と言って、へその緒と同じ箱にぼくの歯を並べて取っておくようにしていた。同級生の中には歯が抜けた時に食べていたものと一緒に飲み込んでしまったり、寝ている間にいつの間にかなくなっていたという子も居たが、ぼくはなんとか全部コンプリートできた。

歯が抜けそうになり、歯茎の中でグラグラしている時は、なんだか気になってストレスになりそうではあったが、いざ抜けてしまうとなんだが寂しい気もするのであった。コンプリートした歯を見ながら、せっかく永久歯が生えたのだからと一層気合を入れて歯みがきをしたお陰で、それから全然虫歯になることなく過ごせていた。
あまり家族と話さなかった健康マニアの父が、毎日出掛けに言ってくれていた言葉がある。それは

「歯みがきして、車にひかれんなよ」
という言葉であり、結局小学校を卒業するまで口ぐせとして言い続けていた。検診以外で歯医者に行ったことがないというのは、ぼくの一つの自慢であったので、手洗いウガイと歯磨きは、面倒だがサボらず適度にやっておいた方が良いと言える。
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