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第27話 音楽の授業

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*ねりけしの話
 この頃はどこの小学校でもそうだが、ぼくの学校でも『ねりけし』が流行っていた。ねりけし』とは消しゴムのカスを集めて練ってかたまりにするというもので、それ専用の消しゴムが売られていたりもするものである。

 ぼくは専用の消しゴムを持っていなかったのだが、公園に行った時に違うクラスの子が持っていて『ねりけし』を少し分けてくれて、それを元にせっせと作っていた。だが、これには少し問題があって、専用の消しゴムと普通の消しゴムのカスを合わせると、大きくなるにつれて『ねりけし』がヒビ割れてくるのだ。

そこで水を足して柔らかくするのだが、欲張りすぎたぼくは水ではカバーしきれないくらい大きくしてしまって、『ねりけし』がぽろぽろ欠けるようになってしまった。だが、なんとなく愛着があったので机の隅にそっとしまっておいたのだった。

*やましたさんとの話 
 3年生の時に同じクラスになった山下さんという子は、背丈は普通くらいで髪が長く大人しめの性格の子だった。あすかちゃんと違うクラスになってからというもののなんだかこの子のことが気になっており、2学期になって偶然にも同じ班になった。

話しているうちにどんどん気になってきたのだが、別に付き合っているわけでもないのに、当時からクソ真面目だったぼくは、なんだかあすかちゃんに悪い気がして、その気持ちを抑え込むようにしていた。

 ぼくが風邪気味で熱っぽい時に心配してくれたり、前日から教科書を入れ替えるのを忘れた時に、席が隣で見せてくれたりと何かと親切にしてくれた。

 明るい性格のあすかちゃんとは対照的に、本を読んだり絵を描いたりすることが好きだったようで、くしゃみをする時に口に手を当てたり、律儀にハンカチで手をふいていたりと、わりとお上品な子でもあった。

 特に何かあったわけではないのだが、若い頃には異性に目移りしやすいもので、『意志の強い人間である』ということも一つの取柄であると言えそうだ。


*おんがくの授業の話
 ぼくは昔から高い声を出すのが苦手で、おんがくの授業の時はわりと苦労したものだった。先生に当てられた子がみんなの前で歌うのだが、みんなが当たり前に出せる高いドやレといった音域でも、ぼくには出すことができず、いつも悔しい思いをしていた。

 日本の授業はテクニックなど専門的なことを教えることは少なく、『とにかくやってみろ』というような進め方なので、指導をする時は、『裏声を混ぜてミックスボイスで歌う』といったような具体的な改善法を教えるようにしてほしいものである。

そんなこんなで授業を受けていたわけだが、ある日、クラスの高木さんという女子から衝撃的な一言を言われてしまった。

「おかもとくんの歌声って、ニワトリが首を絞められてる時みたいで変だよね」
「なっ(なんてこと言うんだの『な』)」

 小学生というのは時になんの配慮もすることなく、残酷な真実をためらわずにつきつけるものである。ぼくは今まで声が出ていないという自覚はあったのだが、まさか『ここまでむごい現実』をつきつけられるとは思っていなかったので、かなりのショックを受けたのであった。

「うるさいな。そんなこと言ったって真剣にやってるんだから仕方ないだろ」
「なによ、あんたが下手だから悪いんじゃない」

 気持ち的にひん死のところにこんなことを言われ、“ぼくだって一生懸命に歌っているのに、下手だから悪いと言われては立つ瀬がない”と思い、思わず今考えても酷いことを言ってしまった。

「なんだと、このゴリラ女」
「なによ、ゴリラって」

 それから、おんがくの先生が止めに入るまで二人でひたすら罵り合い、しばらくは全く話をしないようになってしまった。なんとか上手くなりたいと思い悩んだのだが、いかんせんやり方が分からなかったということもあり、当時やっていたリコーダーを頑張って練習して見返してやろうと考えた。

日本の小学校ではリコーダー、ピアニカ、ハーモニカをやるのが定番になっていて、どこの学校でもだいたいやっているのであった。そして、授業のたびに奮闘していたのだが、2学期末にクラスで発表会(成果を見せつけるためになぜかどの楽器でも必ずやる)をやることになった。

そこで頑張って来た成果が認められた(あれをそこまで本気でやる人はあまりいない)ため、先生が授業の終わりにぼくを名指しで褒めてくれた。

「たかぎさんとおかもとくんは本当によく頑張ったわね。先生感心しちゃった。これからも頑張ってね」
 これは後になって分かったことなのだが、たかぎさんの家はいわゆる『音楽一家』で、彼女は陰で楽器を相当練習していたようだった。

「あんたやればできんじゃん、見直したよ。下手なんて言ってごめんね」
「ううん、いいよ。あれがあったお陰で練習できたわけだし。ぼくもゴリラなんて言ってごめん」

 こうして仲直りできたわけだが、ぼくはこれまで何かあったら見返してやりたいと考え猛練習することで、だいたいのことは乗り切ってこれた。人生には『レベルアップ』は必要不可欠であり、そのままでいると忽ちみんなから追い抜かれてしまう。

みんなが日進月歩で努力している中では、『現状維持は即ち衰退』であり、集団の中で認められるためにも、日々努力して『何か光るもの』を身に付けられるようにすべきであると言える。
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小木田十(おぎたみつる)
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