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第13話 ミニ四駆
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*ミニ四駆の話
ぼくが小学校低学年生の頃にはちょうど『第二次ミニ四駆ブーム』と重なっていて、近所の男の子はみんな好きなマシンを作って走らせて遊ばせていた。ミニ四駆とは、F1マシンをA1のノートと同じくらいの大きさにしたようなオモチャで、当時の価格は400円前後、四輪駆動で動くのでミニ四駆という名前だった。
第一次ブームの『ダッシュ四駆郎』の頃から比べると目覚ましい進化を遂げていて、当時爆発的人気であった『烈&豪(レッツエンドゴー)』というアニメのマシンを持っている子がほとんどだった。
双子の弟である豪が使う『マグナム』は『レブチューンモーター』を搭載していて速さが売りであった。一方、兄である烈が使う『ソニック』は『トルクチューンモーター』を搭載していて持久力が売りであった。ぼくらより少し後の世代だと『アトミックチューンモーター』という速さと持久力を兼ね備えた『いいとこ取り』のものが出てきたりしていたようだが、ぼくらは基本的にこのどちらかの2択であった。
主人公二人のマシンにはそれぞれ必殺技があり『マグナムトルネード』と呼ばれるミニ四駆が野球のボールのように回転する技と『ハリケーンパワードリフト』と呼ばれるマシンの前方にあるウイングが変形して加速する技など現実ではあり得ないようなものを見て、子供ながらに“いや、こんなの無理だろ”と思ったりもしていた。
他にも『スピンアックス』というジグザグ走行ができるマシンや『トライダガー』という壁走りができるマシン『レイスティンガー』という針で相手を刺すマシンや『ブロッケンギガント』というウイリーの体制から相手を踏みつぶすマシン『プロトセイバー』という空気の刃で敵を切り裂くマシンなど『ウルトラC難度』の技を繰り広げていた。
また、他の地域の子たちの中にはいわゆる『肉抜き』というプラスチックの車体を繰り抜いてその部分の代わりにネットを貼って軽くする改造や、『シャーシ(車体)』の前後のローラーにコーナリングしやすくなるパーツを付けるようなことをやっていた子もいたようだ。
だが、ぼくらの地域はそこまでガチでやっている子はおらず、せいぜいタイヤとモーターをいいパーツにするくらいだった。けど、友達の家に遊びに行ってレースをしたり、うちにもコースがあったので、みんなと楽しめていたのでいい思い出になっている。
当時のアニメで自分が持っているのと同じ種類のマシンが、溶岩に落ちたり破壊されたりするのを見て複雑な思いがあったのだが、“新しいマシンを出すために仕方がなかったのかな”と大人になった今なら思える。
そしてこの『烈&豪(レッツエンドゴー)』などの平成初期(1990年代)に流行ったものは、2010年代に入っても続いているものがそれなりにあり、息の長さとしてはお笑い芸人の『江頭2時50分』さんの『素潜り4分』に匹敵する長さだと思うが、一度流行ったコンテンツを意地でも手放さないというのは、世界共通の現象なのではないかと考えられる。
*給食のエビフライの話
日本の小学校には給食と呼ばれるものがあり、お昼になると当番の人が給食を取りに行き、教室まで持ち帰って配って行くという仕組みだった。ただ、大葉小学校には他校と違うところがあって、それは『トレーラー』を使って運んでいたという点だった。『トレーラー』とは給食が入っているナベやハコを載せる台車のことで、銀色で下にコロコロが付いていて面白い代物だった。
しかもエレベーターで自分のところの回まで運んでくれるという至れり尽くせりな状況で、この学校はヤンチャな生徒が少なかったので、『トレーラー』のスピードを上げ過ぎて横転させてしまうようなこともなかった。給食着を貸してもらって着て、みんなに給食を配るのは、なんだか大人になったみたいで嬉しくもあった。
また、余った牛乳やみかん、プリンなどをジャンケンをして取り合い、ゲットした時などは何とも言えない優越感のようなものがあったりもした。学校によってスタイルが全然違っているので、別の学校に通っていた人と幼少期の話をすることがあったら、その学校特有の習慣がないか比べて見るのは面白いと言える。
そんな2年生のある日、給食でエビフライが出たことがある。エビフライと言えば、小学生で嫌いな子はいないんじゃないかというくらいの人気メニューなので、みんな喜んで食べていた。すると、たかた先生がみんなに声を掛けてくれた。
「みんないけないわね。エビフライ残しちゃ」
「え~。先生、みんなちゃんと食べてるよ」
誰かがそう言うと、たかた先生はその言葉を待っていたかのように話し始めた。
「いいえ、まだよ。エビフライはね、こうやって食べるのよ」
そう言うと先生は残しておいた自分のエビフライを箸でつかむと、なんとシッポまで一気に食べてしまったのだ。ぼくたちは驚いて口々に感想を述べて行った。
「すごいや先生!ぼくらシッポは食べちゃいけないと思ってたよ」
「先生、かたいのにシッポなんか食べて大丈夫なの?」
「私、なんだか怖いな。先生、大丈夫なの?」
みんなが意見を言い終わった頃、先生は穏やかに話し始めた。
「大丈夫よ、みんな。食べ物はね、その動物の命を貰ってできているの。お米だってそうよ。植物にだって命があって、みんなみんな生きているの。だからそんな大切な命を頂いているんだから、食べ物はなるべく残しちゃいけないのよ」
それを聞いてみんなとても感心してしまった。
「だからみんな先生のマネをして、食べてもいいと思う人はシッポまで食べてみて」
ぼくらの心はもう決まっていた。
「私、食べてみる!」
「ぼくも!先生がそう言うんなら食べてみるよ!」
「そうだよね、お腹が空いているのに食べられない子たちもいるのに、大事な食べ物を残しちゃいけないよね」
先生は決して『強要』しなかった。ぼくたちが食べたくないと思うかもしれない、その『気持ち』を尊重しようとしてくれた。だから、ぼくたちもその先生の気持ちに応えようとしたんだと思う。
結果的にクラス全員が、エビのシッポをすべて食べていた。2010年代に日本全体にある同調圧力のようなものは全くなく、みんなが気分よく食べることが出来ていた。それから何回か、給食でエビフライが出てきたのだが、みんな何も言われずにシッポまで食べ、体調が悪い時以外は給食を残すこともなかった。
ぼくが小学校低学年生の頃にはちょうど『第二次ミニ四駆ブーム』と重なっていて、近所の男の子はみんな好きなマシンを作って走らせて遊ばせていた。ミニ四駆とは、F1マシンをA1のノートと同じくらいの大きさにしたようなオモチャで、当時の価格は400円前後、四輪駆動で動くのでミニ四駆という名前だった。
第一次ブームの『ダッシュ四駆郎』の頃から比べると目覚ましい進化を遂げていて、当時爆発的人気であった『烈&豪(レッツエンドゴー)』というアニメのマシンを持っている子がほとんどだった。
双子の弟である豪が使う『マグナム』は『レブチューンモーター』を搭載していて速さが売りであった。一方、兄である烈が使う『ソニック』は『トルクチューンモーター』を搭載していて持久力が売りであった。ぼくらより少し後の世代だと『アトミックチューンモーター』という速さと持久力を兼ね備えた『いいとこ取り』のものが出てきたりしていたようだが、ぼくらは基本的にこのどちらかの2択であった。
主人公二人のマシンにはそれぞれ必殺技があり『マグナムトルネード』と呼ばれるミニ四駆が野球のボールのように回転する技と『ハリケーンパワードリフト』と呼ばれるマシンの前方にあるウイングが変形して加速する技など現実ではあり得ないようなものを見て、子供ながらに“いや、こんなの無理だろ”と思ったりもしていた。
他にも『スピンアックス』というジグザグ走行ができるマシンや『トライダガー』という壁走りができるマシン『レイスティンガー』という針で相手を刺すマシンや『ブロッケンギガント』というウイリーの体制から相手を踏みつぶすマシン『プロトセイバー』という空気の刃で敵を切り裂くマシンなど『ウルトラC難度』の技を繰り広げていた。
また、他の地域の子たちの中にはいわゆる『肉抜き』というプラスチックの車体を繰り抜いてその部分の代わりにネットを貼って軽くする改造や、『シャーシ(車体)』の前後のローラーにコーナリングしやすくなるパーツを付けるようなことをやっていた子もいたようだ。
だが、ぼくらの地域はそこまでガチでやっている子はおらず、せいぜいタイヤとモーターをいいパーツにするくらいだった。けど、友達の家に遊びに行ってレースをしたり、うちにもコースがあったので、みんなと楽しめていたのでいい思い出になっている。
当時のアニメで自分が持っているのと同じ種類のマシンが、溶岩に落ちたり破壊されたりするのを見て複雑な思いがあったのだが、“新しいマシンを出すために仕方がなかったのかな”と大人になった今なら思える。
そしてこの『烈&豪(レッツエンドゴー)』などの平成初期(1990年代)に流行ったものは、2010年代に入っても続いているものがそれなりにあり、息の長さとしてはお笑い芸人の『江頭2時50分』さんの『素潜り4分』に匹敵する長さだと思うが、一度流行ったコンテンツを意地でも手放さないというのは、世界共通の現象なのではないかと考えられる。
*給食のエビフライの話
日本の小学校には給食と呼ばれるものがあり、お昼になると当番の人が給食を取りに行き、教室まで持ち帰って配って行くという仕組みだった。ただ、大葉小学校には他校と違うところがあって、それは『トレーラー』を使って運んでいたという点だった。『トレーラー』とは給食が入っているナベやハコを載せる台車のことで、銀色で下にコロコロが付いていて面白い代物だった。
しかもエレベーターで自分のところの回まで運んでくれるという至れり尽くせりな状況で、この学校はヤンチャな生徒が少なかったので、『トレーラー』のスピードを上げ過ぎて横転させてしまうようなこともなかった。給食着を貸してもらって着て、みんなに給食を配るのは、なんだか大人になったみたいで嬉しくもあった。
また、余った牛乳やみかん、プリンなどをジャンケンをして取り合い、ゲットした時などは何とも言えない優越感のようなものがあったりもした。学校によってスタイルが全然違っているので、別の学校に通っていた人と幼少期の話をすることがあったら、その学校特有の習慣がないか比べて見るのは面白いと言える。
そんな2年生のある日、給食でエビフライが出たことがある。エビフライと言えば、小学生で嫌いな子はいないんじゃないかというくらいの人気メニューなので、みんな喜んで食べていた。すると、たかた先生がみんなに声を掛けてくれた。
「みんないけないわね。エビフライ残しちゃ」
「え~。先生、みんなちゃんと食べてるよ」
誰かがそう言うと、たかた先生はその言葉を待っていたかのように話し始めた。
「いいえ、まだよ。エビフライはね、こうやって食べるのよ」
そう言うと先生は残しておいた自分のエビフライを箸でつかむと、なんとシッポまで一気に食べてしまったのだ。ぼくたちは驚いて口々に感想を述べて行った。
「すごいや先生!ぼくらシッポは食べちゃいけないと思ってたよ」
「先生、かたいのにシッポなんか食べて大丈夫なの?」
「私、なんだか怖いな。先生、大丈夫なの?」
みんなが意見を言い終わった頃、先生は穏やかに話し始めた。
「大丈夫よ、みんな。食べ物はね、その動物の命を貰ってできているの。お米だってそうよ。植物にだって命があって、みんなみんな生きているの。だからそんな大切な命を頂いているんだから、食べ物はなるべく残しちゃいけないのよ」
それを聞いてみんなとても感心してしまった。
「だからみんな先生のマネをして、食べてもいいと思う人はシッポまで食べてみて」
ぼくらの心はもう決まっていた。
「私、食べてみる!」
「ぼくも!先生がそう言うんなら食べてみるよ!」
「そうだよね、お腹が空いているのに食べられない子たちもいるのに、大事な食べ物を残しちゃいけないよね」
先生は決して『強要』しなかった。ぼくたちが食べたくないと思うかもしれない、その『気持ち』を尊重しようとしてくれた。だから、ぼくたちもその先生の気持ちに応えようとしたんだと思う。
結果的にクラス全員が、エビのシッポをすべて食べていた。2010年代に日本全体にある同調圧力のようなものは全くなく、みんなが気分よく食べることが出来ていた。それから何回か、給食でエビフライが出てきたのだが、みんな何も言われずにシッポまで食べ、体調が悪い時以外は給食を残すこともなかった。
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