上 下
43 / 46

第43話 約束

しおりを挟む
静岡リーグ最終試合、県内最強チームである静岡チャンピオンズとの対戦を前に、先日の気まずさから友達の家を転々としていた昴であったが、遂に瑞希との話し合いが持たれた。ここでは保がその責任感の強さを遺憾なく発揮し丁寧に話を切り出した。

「お前ら本音で話し合ってんのか?よそ行きの一張羅ばっか着てよ。そんなんで恋人って言えんのか?かっこ悪くても自分のこと分かってもらおうって、相手のこと分かってあげようって、それが恋愛なんじゃねえのか?」悔しいけどその通りだった。

「蓮はどう思う?」勘九郎が不意に話を振る。
「う~ん。僕は昴さんみたいに経験多くはないですけど、彼女の前では弱いとこ見せてると思いますよ。まあもともと強い人ではないんですけどね」

 それを聞いて友助も素直な気持ちを吐露する。
「俺は昴さんが羨ましいですよ。選抜に行くかどうか決められて、行きたいと言えば、AFCにも出られて。人間は失って初めてその大切さに気付くんです。贅沢ですよ、そんな人生」それを受けて、当の昴もそう感じていたようだ。

「そうだよな。一人っ子で小さい頃から欲しい物はなんでも買ってもらえてさ。わがまま言っても怒られることなんかなかったし。それって案外不幸なことなのかもな。いつでも手に入るって、変わりはいくらでもあるって、そう思って、いろんなものを大事にしてこなかったんだ。そのバチが今当たってんのかもな」

「そうですよ。人生どっかで帳尻が合うようになってるんです。誰も楽に生きることなんてできないんですよ。今は自分自身を見つめ直す時期なんだと思います」
「そうだよな。きっと人間ってのは、苦労して手に入れるからこそ大切にするんだ。簡単に手に入っちまうと有難みってもんがねえんだ。だから感謝を忘れる。自業自得なんだよ」

「乗り越えましょうよ、昴さんならできる筈です。悲しい過去なら塗り替えましょう。都大会決勝でのあの出来事、辛いけど乗り越えられるはずです」
それを聞いた昴は少し遠い目をした後、ゆっくりと重い口を開いた。

「入ってたハズだった。自分なら絶対に決められた場面だった。けど、臆病風に吹かれて、自分かわいさにチームを犠牲にしてしまったんだ」
「責められたことは、もういいんじゃないですか?悔やんでも何も始まりませんよ」
昴は小さく首を振った。

「誰も責めなかったよ。けど、逆にそれが辛かったんだ。なんであの時、自分を信じて勇気が出せなかったんだろうって。ずっと思い悩んで、あれから何点取っても素直に喜べなくなったんだ。あの試合を最後にサッカーを引退した仲間もいる。大好きだったサッカーが、日に日に嫌いになりそうになるんだ」

「昴さんーー」
「けど、何度辛いことがあっても、どんなに苦しくても、どうしても嫌いになれなかった。結局大切なものなんて、最初から分かり切ってたってのに」

 昴はゆっくりと瑞希の方に歩み寄ると、真っ直ぐにその目を見つめた。
「俺、やっぱり瑞希が好きだ。いっぱい泣かせて傷つけてしまったけど、瑞希のこと諦めきれないんだ」
「うん――私も」
「俺のこと許してくれるのか?」

「あれから考えたんだけど、私には昴くんしか居ないかなって。どれだけ泣いても、やっぱり好きなんだなって。だけど、条件付きでね」
「――条件って?」

瑞希は昴の手を握って、しっかりとその目を見つめた。
「ねえ――プロになってよ」
「えっ!?」
「ここまで私を泣かせたんだから、もう一回カッコイイとこ見せてよ」

「瑞希――」
「私、信じてるよ。昴くんだったらできるって、またもう一回やれるって」
「――分かった。俺、絶対プロになってみせるよ!!」

「もう私のこと泣かさないでよ」
「ああ、約束する」
 昴は男として、瑞希とのこの約束だけは、絶対に守り通そうと心に決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...