上 下
1 / 1

婚約破棄してもらおうと頑張ったが……?

しおりを挟む
 エミリア・ヴァレンタインは、名門貴族の一人娘として生まれ、幼少期から数多くの社交場を経験してきた。彼女は美しい金髪と深い青の瞳を持ち、誰もが羨む気品を備えていたが、その魅力の裏にある苦悩を知る者は少なかった。

 彼女の婚約者、アレクサンダー・ブラックウッド公爵は冷徹な策略家として知られていたが、実際に彼に会うと、周囲の噂とは全く違う人物であることがわかった。アレクサンダーはエミリアに対して驚くほどの優しさと愛情を示し、彼女に尽くしていた。彼の愛は、エミリアが想像していた以上に深く、彼女を困惑させていた。

 エミリアは、アレクサンダーが彼女に贈る花束や宝石の数々に戸惑いを隠せなかった。彼は頻繁に彼女を訪れ、夕食や舞踏会に誘った。エミリアが断ろうとすると、アレクサンダーはその理由を優しく尋ね、彼女が安心して出席できるように配慮を重ねた。彼の態度は紳士的であり、エミリアの心に少しの隙間も与えなかった。

 しかし、エミリアの心はすでに別の男性に向かっていた。それは彼女の幼馴染であり、貴族ではないが誠実で穏やかなルーカスだった。彼と過ごす時間は、エミリアにとって唯一の癒しの瞬間だった。彼はエミリアの心の内を理解し、彼女が誰にも言えない苦悩を共有できる唯一の存在だった。

 エミリアは、アレクサンダーとの婚約を続けることに耐えられなくなり、どうにかして婚約を解消したいと考えるようになった。しかし、ヴァレンタイン家の娘として、自ら婚約を破棄することは許されなかった。もし彼女が自ら婚約を解消すれば、家の名誉を傷つけるばかりか、彼女自身も悪評を受けることになる。

 ある日、エミリアはアレクサンダーとの散歩中に、彼に対して冷たい態度を取ろうと決意した。彼女は無口になり、彼の問いかけにも無愛想に答えた。彼女の心中には、ルーカスへの想いが渦巻いており、アレクサンダーに対する罪悪感を抱えていた。しかし、彼女の態度にもかかわらず、アレクサンダーは微笑を浮かべ、変わらぬ愛情を注いだ。

「エミリア、君が何かに悩んでいるのは分かっている。無理に話さなくてもいい、だが、僕はいつでも君の味方だ」

 その言葉に、エミリアは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼の優しさは、彼女が望んでいるものではないが、彼を傷つけることもできなかった。彼女はどのようにして、アレクサンダーから婚約を破棄させるか、頭を抱え始めた。

 エミリアは、次第に自らの行動がどうすれば彼の愛情を冷まさせるかを模索し始めた。彼女はアレクサンダーに対して無理に冷淡に振る舞ったり、わざと気難しい言動を取ろうとしたが、彼の態度は一向に変わらなかった。むしろ、彼はエミリアの様子を心配し、さらに彼女に優しく接するようになった。

「どうしてこんなにも優しいの?」

 エミリアはある夜、思わず問いかけた。

「それは君を愛しているからだよ、エミリア」

 アレクサンダーは彼女の手を取り、静かに答えた。

「僕は君のすべてを受け入れるつもりだ。君がどんなに辛い思いをしても、僕が支えるから」

 その言葉に、エミリアの心はますます重くなった。彼の愛は純粋であり、彼女の望んでいるものとは対極にあった。だが、彼女が抱くルーカスへの想いを裏切ることもできなかった。エミリアはこの複雑な状況に追い詰められ、次の策を考えるために夜ごと眠れぬ日々を過ごすことになるのだった。

 エミリアは、アレクサンダーとの婚約をどうにかして解消するために頭を抱えていた。彼の愛情が深まるほど、彼女の心はますます混乱し、ルーカスへの想いと罪悪感が入り混じっていた。彼女はなんとかして、この不幸な婚約から解放されたいと切望していた。

 まずエミリアは、アレクサンダーの興味を失わせるために、彼が好む女性像とは正反対の振る舞いをしようと決意した。彼が気に入っている優雅さや教養を意図的に無視し、わざと粗野な言動を取ることにした。例えば、食事の際には礼儀作法をわざと乱し、舞踏会ではあえて下手な踊りを披露した。しかし、彼はそんな彼女の振る舞いを微笑ましいと感じたようで、ますます彼女に夢中になっていった。

「エミリア、君は本当にユニークだ。そんな姿も愛おしいよ」

 その言葉にエミリアは内心で苦悩しながらも、表情を作り直し、微笑みを返すしかなかった。どんなに自分を変えようとしても、アレクサンダーは彼女のすべてを受け入れてくれる。エミリアはさらに策を講じるために、アレクサンダーの過去や弱点を探り始めた。

 エミリアはアレクサンダーの昔の友人や知人に接触し、彼の過去について情報を集めた。彼がかつて誰かを深く愛していたという噂を耳にし、その女性との関係が何らかの理由で終わったことを知った。しかし、その詳細は謎に包まれており、彼が過去を語ることはほとんどなかった。

「アレクサンダーが過去にどれだけ傷ついたか、私には想像もつかない。でも、それが彼を変える鍵になるかもしれない」とエミリアは考え、彼の過去をさらに掘り下げることを決意した。

 一方で、エミリアの内心は揺れ動いていた。彼女はルーカスを愛し続けながらも、アレクサンダーの優しさに心が引かれることを感じ始めていた。ある夜、アレクサンダーが彼女の元を訪れ、二人は熱い抱擁を交わした。彼の手が彼女の頬を撫で、優しく唇を重ねた瞬間、エミリアの心の中で混乱が渦巻いた。

「どうすればいいの……?」エミリアは彼の腕の中で、どうすればこの状況を打破できるのかを必死に考えていた。彼の肌の温もりや、心地よい吐息を感じながらも、彼女の心は冷静さを失わなかった。

 彼が愛を囁き、さらに彼女を引き寄せた時、エミリアは自分が何をしているのか、自問せずにはいられなかった。彼女が愛しているのはルーカスであり、アレクサンダーとの未来は望んでいない。しかし、彼の深い愛情を裏切ることへの罪悪感が彼女を蝕んでいた。

「このままでは、彼を傷つけてしまう……それでも、私が幸せになるためには、彼に婚約を破棄させるしかない……」彼の愛撫を受け入れながらも、エミリアの頭の中では冷徹な計算が繰り広げられていた。

 エミリアは、自分が行ってきた策がすべて失敗に終わったことを悟り、新たなアプローチを考えることにした。彼女はアレクサンダーにとって、自分が重荷になっていることを示す必要があると考えた。例えば、彼の社会的な立場や政治的な野心に影響を与えるような行動を取れば、彼が自然に婚約を破棄する可能性があると考えたのだ。

 エミリアは次に、アレクサンダーが大切にしている事業や人脈に対して、わざと失敗を装うことで彼を試す計画を練り始めた。彼女がどれだけ彼の人生を不安定にするか、それによって彼の愛情が揺らぐかどうかを見極めるためだった。

 エミリアの心の中では、ルーカスへの愛とアレクサンダーに対する罪悪感が葛藤していた。しかし、彼女は自分の幸福のためには、この策略を最後まで貫き通す覚悟を決めた。

 エミリアの計画は、思った以上に難航していた。アレクサンダーの愛情は揺るぎなく、どんなに彼女が失敗を装っても、彼はそのすべてを受け入れ、彼女を支え続けた。エミリアは次第に焦りを感じ、自分が何をしているのかさえもわからなくなりつつあった。

 ある晩、アレクサンダーが彼女のもとを訪れた。彼の瞳にはいつものように優しさと愛情が宿っており、エミリアはその瞳から目を逸らせなかった。彼女は自分の心が彼に引き寄せられていることを感じ、ルーカスへの愛を裏切っているかのような罪悪感にさいなまれた。

 しかし、その夜は特別だった。アレクサンダーはエミリアを抱きしめ、耳元で甘い言葉を囁いた。彼の手が彼女の背中を撫で、彼女の肌に火を灯すような感覚が走った。エミリアはその瞬間、すべてを忘れたいという衝動に駆られ、彼の腕の中に身を委ねた。

 アレクサンダーの手が彼女のドレスのリボンをほどき、彼女の身体を包む温もりが一層強まった。エミリアは彼の愛撫に身を震わせ、彼の唇が彼女の首筋を滑るたびに、快楽の波が全身を駆け巡った。彼女はその瞬間、全てを忘れ、彼の愛に溺れたいという強烈な欲望を感じた。

 彼女の中で何かがはじけた。エミリアは自分が何をしているのか、誰を愛しているのかを一瞬忘れ、ただその瞬間の快楽に身を任せた。彼の唇が彼女の唇に触れるたびに、彼女は深く彼に引き込まれていった。アレクサンダーの愛情に包まれる中で、エミリアは今まで感じたことのないほどの高揚感と安らぎを味わった。

 しかし、快楽の波が引いた後、エミリアは自分の行動に対する深い後悔と絶望に打ちひしがれた。彼女はアレクサンダーの胸元に顔を埋めながら、涙を流さないよう必死にこらえた。彼が彼女の髪を優しく撫で、静かにささやく声が耳に届いたが、エミリアの心はもはやその言葉を受け入れることができなかった。

「ああ、どうして私は……」エミリアは心の中で自問した。彼女は自分がどれほど脆弱であるかを悟り、アレクサンダーに対する自分の感情が複雑であることを痛感した。彼の愛情に応えることは、ルーカスへの裏切りを意味するが、同時に彼女自身も傷つけることになった。

 次の日、エミリアは自らを奮い立たせ、アレクサンダーとの関係に終止符を打つために、再び策略を練り始めた。彼の愛情がどれだけ深くても、それを拒絶する方法を見つけ出すことが彼女の唯一の選択肢だった。彼女はもう一度自分を取り戻し、ルーカスと共に未来を歩むために、最後の決断を下す覚悟を決めた。

 エミリアは、アレクサンダーに対して冷静かつ徹底的な策を講じる必要があると感じた。彼の事業や人脈に致命的な影響を与えるような行動を取ることで、彼の愛情を揺るがし、婚約を破棄させる手段を考え始めた。彼女は自らの心を鉄のように固め、次の一手に向けて動き出した。

 彼女が快楽に溺れた一夜は、エミリアにとって決して忘れることのできない経験となったが、それと同時に、彼女の決意をより強固なものにした。

 エミリアはアレクサンダーがなぜこれほどまでに自分を愛しているのか、真実を知る日がやってきた。その日、彼女は偶然、アレクサンダーの書斎で古い日記を見つけた。興味本位で手に取った彼女は、その中に書かれていた内容に目を見張った。

 日記には、アレクサンダーが幼少期から抱いていた孤独と不安、そして彼がエミリアに出会った瞬間から感じていた彼女への特別な感情が綴られていた。彼は彼女を一目見た瞬間から、彼女こそが自分を救ってくれる存在だと確信し、その思いを胸に秘め続けていたのだった。彼の愛は、単なる感情ではなく、彼の心の深層に根差したものだった。

 その事実を知ったエミリアは、深い衝撃を受けた。彼が自分に対して抱く愛情の深さを理解した瞬間、彼女の心は大きく揺れ動いた。彼の愛はただの執着や欲望ではなく、彼自身の存在意義をかけたものだったのだ。エミリアは、その重みに耐えかねるようにして、彼の元へと急いだ。

 その夜、エミリアとアレクサンダーは再び激しく求め合った。彼女は、彼の愛を拒むことができず、その熱情に身を委ねた。二人の体は、まるで野獣のように本能に従い、激しく、そして乱暴に絡み合った。彼の手が彼女の体を強く引き寄せ、彼女もまた彼に応えるように爪を立てた。夜が更けるまで、二人は互いに何度も何度も深く愛し合った。

 エミリアの心の中には、アレクサンダーの愛情の重さと、彼に対する複雑な感情が渦巻いていた。彼女はこの瞬間だけでも彼を愛し、彼に全てを捧げたいと思った。しかし、それは単なる逃避であり、彼女の本当の気持ちではないことも、どこかで理解していた。

 翌朝、エミリアは目覚めた。薄明かりが部屋に差し込み、昨夜の情熱的な夜が遠い夢のように思えた。隣で眠るアレクサンダーの寝顔を見つめるうちに、エミリアの心は次第に冷静さを取り戻していった。彼の温もりや愛情がどれほど深いものであったとしても、彼女の心の奥底にあるルーカスへの愛は、決して消えることはなかった。

 エミリアは、昨夜の自分の行動に対して深い後悔を感じた。彼の愛に応えることで一時的な安らぎを得たとしても、それは決して彼女が本当に望んでいたものではなかった。彼女が本当に愛しているのはルーカスであり、その気持ちに嘘をつくことはできない。

 静かにベッドから抜け出したエミリアは、自分の心の中にある真実を認めることにした。彼女が求めていたのは、アレクサンダーの愛ではなく、ルーカスとの未来だった。彼の愛がどれほど深くても、それを受け入れることは彼女にとって偽りでしかなかった。

 エミリアは、これ以上アレクサンダーを傷つけることはできないと決意し、再び彼との婚約を解消する方法を模索し始めるのだった。彼女の心には、ただルーカスと共に未来を歩むための決意が強く刻まれていた。

 エミリアは、再び婚約を破棄する方法を考え始めた。アレクサンダーとの関係を続けることは、彼女自身をも裏切ることになると感じていた。しかし、彼の愛情と情熱は、彼女の思考を次第に曇らせていった。

 最初のうちは、彼女は冷静に策を講じようとした。彼にとって彼女がいかに負担であるかを示し、彼自らが婚約を解消するように仕向けようと考えた。しかし、毎晩彼と過ごす時間が増えるにつれて、エミリアは次第にその計画から遠ざかっていった。

 アレクサンダーは、彼女の心と体を巧みに操り、彼女が自分の決意を忘れさせるほどの愛のテクニックを持っていた。彼の触れ方、囁き声、そして彼女の欲望を見透かすような鋭い視線――すべてが、エミリアを彼に引き戻す力となっていた。

 毎夜、彼女は彼の腕の中で快楽に溺れ、その度に婚約破棄の考えは遠のいていった。彼の指が彼女の肌を滑り、彼の唇が彼女の耳元で熱く囁くたびに、エミリアは抵抗する意志を失い、彼に身を委ねたくなる自分に気づいていた。彼の愛撫は彼女の心の奥深くに響き、彼女は彼を拒むどころか、ますます求めるようになっていた。

「これではダメだ……」

 エミリアはそう思いながらも、彼の誘いを拒むことができなくなっていた。彼女は、彼の腕の中で得られる快楽が、彼女を堕落させていることを知りつつも、その誘惑に逆らうことができなかった。

 次第に、彼女の心は快楽を求めるようになり、婚約破棄の考えは二の次となっていった。彼女はアレクサンダーの愛に溺れ、ルーカスのことさえも忘れてしまいそうになる自分を感じていた。彼の腕の中で、彼女は今まで感じたことのないほどの高揚感と幸福を味わい、彼の愛を拒むことができなくなっていった。

 エミリアは自分を責めた。ルーカスを愛しているはずなのに、なぜ彼女はアレクサンダーの愛に溺れてしまうのか。彼のテクニックがあまりにも巧妙で、彼女はその魅力から逃れることができなくなっていた。彼が彼女を抱きしめるたびに、彼女の心は彼のものになり、彼女の身体は彼に完全に屈服してしまうのだった。

 婚約破棄の計画は次第に遠ざかり、エミリアはアレクサンダーとの夜を重ねるごとに、彼への依存を深めていった。彼女の心は二つに引き裂かれ、理性は彼を拒むべきだと叫んでいたが、彼女の身体は逆らうことができなかった。彼の愛に囚われたエミリアは、自分自身を見失いかけていた。

 エミリアは、限界に達していた。心の中ではルーカスを思い続けながらも、アレクサンダーの腕の中で感じる快楽と、その圧倒的な魅力に抗えなくなっていた。何度も彼との関係を断とうと試みたが、その度に彼の巧みな愛の技に心も体も翻弄されてしまった。彼の指が彼女の肌をなぞり、彼の囁きが耳元で響くたびに、エミリアの決意は揺らぎ、理性が崩れ去っていった。

 彼女はついに自分自身に問いかけた。

 このまま抵抗し続けて何になるのか?

 アレクサンダーの愛は彼女を完全に包み込み、彼女の心の隅々にまで浸透していた。彼に抗うことは、もはや不可能に思えた。

 ある晩、彼女は自らアレクサンダーのもとへ向かった。彼の寝室に足を踏み入れると、彼はすでに彼女を待ち受けていた。その瞳には、いつもの優しさと共に、彼女への強い欲望が宿っていた。エミリアはその視線に耐え切れず、震える手で彼の手を取った。

「もう……もう限界よ、アレクサンダー。あなたには勝てないわ」

 エミリアは、すべてを告白するように彼にそう言った。彼女の声には、長い間抑え込んできた欲望が滲んでいた。

 アレクサンダーは微笑みながら彼女を引き寄せ、その唇を重ねた。彼のキスは甘く、しかし同時に彼女の全てを奪い去るような激しさを帯びていた。エミリアは彼に応えるように、彼の首に腕を回し、自らの欲求を解放することを選んだ。

 その夜、二人は今まで以上に激しく愛し合った。エミリアはすべての抑制を捨て、彼に全身全霊で応えた。彼女の体は彼の手によって解放され、彼の愛に溺れることを受け入れた。彼の指が、唇が、彼女の欲望を掻き立て、彼女は自分自身を完全に彼に委ねた。

 エミリアは、自らの中に秘めていた欲求がこれほどまでに強かったことに驚きながらも、その快楽に身を任せた。彼女の心は、彼の愛によって完全に支配され、理性はもはや無意味なものとなった。

 朝が訪れる頃には、エミリアは疲れ果て、アレクサンダーの胸に抱かれたまま眠りに落ちた。彼女は彼の腕の中で穏やかな眠りを得ていたが、その裏側には、彼女自身がどれほど深く彼に堕ちてしまったかという恐れがあった。しかし、その恐れさえも今は感じられなかった。

 エミリアは、自分が選んだ道に後悔はしなかった。彼女はついに、アレクサンダーの愛と共に生きることを受け入れたのだ。そして、その決断が彼女をどこへ導くのか、まだ誰にもわからなかったが、彼女は少なくとも今、彼の愛に満たされていた。

 数日後、エミリアの元にルーカスからの招待状が届いた。彼はエミリアにデートの約束を取り付けたかったのだ。彼女はその知らせを受けて、一瞬心が躍った。ルーカスの優しさと、彼との再会が彼女にとってどれほど意味があるかを考えながらも、心の奥底では複雑な感情が交錯していた。

 デートの日がやってきた。ルーカスとの再会を心から楽しみにしながらも、エミリアの心は依然としてアレクサンダーとの夜のことを引きずっていた。彼との快楽は彼女に強烈な印象を残しており、その思い出が彼女の心に深く刻まれていた。

 ルーカスは、以前と変わらず温かくエミリアを迎えてくれた。彼の笑顔や言葉には、彼女に対する変わらぬ優しさと愛情が溢れていた。彼は、彼女が心から楽しめるようにと気配りをし、エミリアの手を優しく取り、デートのプランを進めた。彼との時間は、心地よいものであり、エミリアの心を安らげるものであった。

 二人は素敵なカフェで食事を楽しみ、その後、静かな公園を散歩した。ルーカスは彼女の話を真剣に聞き、彼女が話すことに対して興味を持っていることを示した。その中で、エミリアは心からリラックスし、彼の存在に安心感を感じていた。彼の優しさと配慮に、エミリアの心は温かくなった。

 しかし、夜が深まるにつれて、エミリアの心は再び揺れ動き始めた。アレクサンダーとの激しい夜の記憶が、彼女の意識の中に繰り返し浮かび上がり、その感覚が彼女を強く引き戻していた。ルーカスと過ごす優しい時間の中でさえも、アレクサンダーとの快楽が頭から離れなかった。

 デートが終わり、ルーカスはエミリアを家まで送り届けた。彼は彼女の手を優しく取り、微笑みながら「また会えるのを楽しみにしているよ」と言った。その言葉に、エミリアの心はまたもや温かさを感じたが、同時にアレクサンダーとの夜の余韻が心の中で燻っていた。

 家に戻ると、エミリアは一人静かに考え込んだ。ルーカスの優しさと愛情を再確認する中で、彼女はその感情を尊重しながらも、自分の中に残るアレクサンダーの影をどうにかしなければならないと感じた。彼との関係がもたらした快楽が、彼女にとってどれほどの影響を与えているかを、再び痛感した。

 彼女は、自分がアレクサンダーとの快楽から完全に解放されるためには、心の中の整理が必要であると決意した。ルーカスとの未来を見据えるためにも、自分が本当に何を望んでいるのかを見つめ直さなければならなかった。

 エミリアは、アレクサンダーとの快楽とルーカスへの愛情という二つの感情に挟まれながら、自分の心と向き合う覚悟を決めた。彼女は、どちらの道を選ぶにしても、自分自身が納得できる決断を下すことが必要だと感じた。

 エミリアは、心の中の葛藤を乗り越えた。アレクサンダーとの夜の余韻が、彼女の中で依然として鮮明であり、その快楽の記憶が彼女の心に深く刻まれていた。ルーカスへの愛は変わらず深いものであったが、彼女はついにその感情を整理し、アレクサンダーとの未来を選ぶ決断を下した。

 ある晩、エミリアは意を決してアレクサンダーのもとを訪れ、

 二人の関係は新たな段階に進むこととなった。アレクサンダーの家の扉が閉まると、彼は優しく彼女を迎え入れ、その手を取りながら彼女を内室へと導いた。部屋に入った瞬間から、二人の間に漂う空気は一変し、彼の目は熱く、彼女の心を引き寄せる力を持っていた。

「エミリア、どうしたんだ?」

 彼はその瞳で彼女を見つめ、心からの愛と期待を表現していた。彼の声には、彼女への深い感情が込められていた。

 エミリアは彼の目を見つめ返しながら、決意を込めて答えた。「アレクサンダー、私は今、あなたと共にいることを選びました。もうルーカスのことは考えないわ」

 彼の表情が一瞬驚きに変わった後、喜びと愛の色に満ちた微笑みが広がった。彼は彼女を優しく引き寄せ、彼の唇が彼女の額に軽く触れた。その瞬間、彼の愛の温もりが彼女を包み込み、彼女の心は一層熱くなった。

 彼は彼女の顔を両手で包み込み、深いキスを彼女に贈った。そのキスは最初は柔らかく、ゆっくりとしたものであったが、次第に情熱がこもったものに変わっていった。彼の唇が彼女の唇に重なり、彼の舌が彼女の口内を探ると、エミリアの呼吸は浅くなり、彼女は彼の愛に応えるように体を寄せた。

 アレクサンダーは彼女を抱き上げ、彼女をベッドへと運んだ。彼の手が彼女の背中を優しく撫で、そのままドレスの肩紐を外すと、彼女の肌が露わになった。彼の指が彼女の肩や胸に触れるたびに、エミリアはぞくぞくとした感覚に包まれ、彼の触れ方に身を委ねるしかなかった。

 彼の手が彼女のドレスをゆっくりと下ろし、彼女の全身を愛撫する。彼女の息が切れ、体が彼の手に反応していくのを感じると、アレクサンダーはさらに情熱的に彼女に触れた。彼の手は彼女の腰に回り、そのまま彼女を引き寄せ、さらに深いキスへと導いた。

 エミリアは彼の手が彼女の体を愛撫する感覚に圧倒され、彼の体に全身を委ねた。彼女の体は、彼の手のひとつひとつの動きに敏感に反応し、彼の触れ方に応えることで、彼の愛を感じることができた。

 二人の衣服が乱れ、床に散らばり、部屋の中には彼らの情熱的な喘ぎ声が響いた。アレクサンダーは彼女を上に乗せ、彼の体を彼女の体に押し付け、激しく求め合った。彼の体は彼女の体に深く入り込み、彼女のすべてを感じ取るように動き続けた。エミリアはその快楽に身を委ね、彼の愛に溺れることを受け入れた。

 彼らの愛は野生的で、抑制を知らず、彼らの体は深く絡み合い、心から欲望を解放した。彼の動きは荒々しく、エミリアの体をしっかりと掴みながらも、その愛の深さを感じさせた。彼女の体が彼の愛に完全に包み込まれ、その快楽が彼女のすべてを占めていった。

 二人はその夜、無限の愛を確かめ合い、快楽の頂点を共に迎えた。エミリアはアレクサンダーと一緒に過ごすことの喜びと、彼との深い結びつきを実感し、彼の愛に全身全霊で応えた。

 夜が明ける頃には、彼らは満ち足りた表情でお互いを見つめ合い、心の奥底からの安堵感を感じていた。エミリアは、自分が選んだ道が正しいことを確認し、アレクサンダーとの新たな未来に向けて一歩踏み出す決意を固めていた。

 その夜の出来事は、二人の関係にとって新たな始まりとなり、エミリアはアレクサンダーと共に歩む未来に希望を抱いていた。彼女の心の中にあった迷いは完全に消え去り、彼との新たな道を歩む準備が整ったのだった。

 数週間が過ぎ、エミリアとアレクサンダーはその関係をさらに深めていた。彼女はアレクサンダーと過ごす時間が何よりも大切であり、彼の愛に完全に包まれていた。二人の関係はますます密接になり、彼の名を呼ぶたびにエミリアの心は深く満たされた。

 ある晩、彼らは再び一緒に過ごす時間を楽しんでいた。部屋の中には、彼らの情熱と愛が溢れており、エミリアの声がアレクサンダーの名前を呼ぶたびに、彼女の心からの愛が感じられた。

「アレクサンダー……!」

 エミリアは彼の名を叫び、その感情を全身で表現した。彼女の声は熱く、彼の名を呼ぶことで彼女の全ての欲望が解放されていた。アレクサンダーもその呼び声に応え、彼の愛情をさらに深めることで、二人の結びつきは一層強くなった。

 一方、ルーカスはエミリアとの関係に見切りをつけ、彼女から距離を置くことを決意した。彼の心は傷つき、エミリアの決断を受け入れるしかなかった。彼は彼女から去り、彼の心に残る愛情も消え去っていった。ルーカスは静かに姿を消し、エミリアとの過去の時間を手放すことにした。

 エミリアの新たな未来は、アレクサンダーと共に歩む道となった。彼女はアレクサンダーとの愛に完全に満たされ、彼の名前を呼びながら彼との関係を深めていった。ルーカスとの過去は遠い記憶となり、彼女の心の中に残るのはアレクサンダーとの幸福な時間だけであった。

 彼女は彼の愛に包まれ、その幸福を享受しながら、過去を完全に断ち切ることができたのだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...