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婚約破棄の罪

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 霧が立ち込める朝、古びた城の外壁には静寂が漂っていた。その中で、ミレーナは一人、鏡の前に座っていた。彼女の姿はその美しさを誇示するかのように、光沢のある黒髪と深い碧眼が鏡に映し出されている。しかし、その瞳には重い雲がかかっており、疲労と悲しみが色濃く浮かんでいた。

 ミレーナの部屋は華麗で豪奢な装飾が施されているが、彼女の心の中はその豪華さとは裏腹に荒れ果てていた。彼女は繊細な手で鏡の縁を掴み、自分の顔をじっと見つめた。その美しさを保つために、毎朝の手入れを欠かさなかったが、今その美しい顔は疲れと失望の色を見せていた。

 それから数時間後、城内は大騒ぎに包まれていた。ミレーナは広間に呼ばれ、彼女の婚約者であるロランドと向き合うことになった。ロランドは堂々とした姿勢で座っており、その顔にはいつもの自信満々の笑みが浮かんでいた。しかし、その笑みにはどこか冷酷さが潜んでいた。

「ミレーナ、君に話がある」とロランドは低い声で言った。彼の言葉は予兆のように響き、ミレーナの心に不安の波を呼び起こした。彼女は深呼吸をしてから、その広間へと足を踏み入れた。

「ロランド、どうしたの?」

 ミレーナは声を落ち着けようとしたが、心の中では動揺が広がっていた。ロランドはその姿を見て、わずかに眉をひそめた。

「ミレーナ、君に正直に話さなければならない」とロランドは言葉を続けた。

「最近、君の顔に変化があった。以前のように輝きがなくなったし、もう僕が求める美しさを保っていない」

 その言葉はミレーナにとって電撃のようだった。彼女の心は一瞬で凍りつき、目の前が暗くなった。彼の言葉が耳を打ち、脳裏に焼き付いた。「不細工になった」という言葉が、彼女の心に深く突き刺さり、痛みが広がっていった。

「な、なぜ?」

 ミレーナは震える声で問いかけた。その声には驚きと悲しみが混じっていた。

「正直に言うと、僕の理想には合わなくなったんだ。婚約を続ける理由が見当たらない」とロランドは冷たく言った。その言葉には感情がこもっておらず、ただの事務的な報告のように響いた。

 ミレーナの体が一瞬、力を失ったように感じられた。彼女は言葉を失い、立ち尽くすことしかできなかった。目の前のロランドがどんどん遠くなり、彼の言葉だけが彼女の心に深く刻まれていった。

「それが、君のすべてなのか?」

 ミレーナは涙をこらえながら訊ねた。

「私がこれまで、どれだけ努力してきたか、君は分かっているのか?」

「努力?君が何をしても、僕の理想には届かないんだ」とロランドは冷たく言い放った。

「この婚約は終わりだ。僕の新たな未来に向けて前に進むべきだろう」

 その瞬間、ミレーナの心は崩れ落ちるような感覚に襲われた。彼女は深く息を吸い込み、精一杯の力を振り絞って、広間を後にした。足元はふらつき、心は千切れるような痛みに包まれていた。

 城の庭に出たミレーナは、冷たい風に顔を打たれながら、自分の感情を整理しようとした。しかし、風に吹かれて涙が頬を伝うと、彼女の内なる怒りと悲しみが溢れ出した。彼女は一歩一歩歩きながら、自分の心に浮かぶ感情を感じ取った。

「これで終わりにはしない」とミレーナは強い決意を抱きながら呟いた。その声には、復讐の意志が込められていた。彼女は自分の心に誓った。ロランドに対する復讐を果たし、自分の美しさと誇りを取り戻すために、彼女は行動を起こすと決めた。

 夜が更けると、ミレーナは城の地下室へと足を運び、秘蔵の魔法書を取り出して新たな計画を立てる準備を始めた。彼女の心には、新たな復讐の計画と、それを実現するための確固たる意志が燃えていた。彼女の目は、夜の闇の中で輝いていた。

 夜の闇が城を包み込み、星々が静かに輝く中、ミレーナは城の地下室で静かに作業をしていた。地下室は広く、古びた石壁が周囲を囲み、その上に時折見られる苔が、歴史の長さを物語っていた。薄暗いランプがわずかに照らすその場所には、木製の棚が何列も並び、埃をかぶった魔法書や薬草が無造作に積まれていた。

 ミレーナの心の中には、ロランドによる婚約破棄の怒りと失望が燻っていた。その痛みを乗り越え、彼に復讐するために、彼女は必死で情報を探していた。地下室の空気は冷たく、ひんやりとした感触が彼女の肌に触れる。風がかすかに地下の隙間を通り抜けると、冷たさが一層強調された。

「ロランドを見返してやりたい……」

 ミレーナは呟きながら、棚から一冊一冊書物を取り出しては、ページをめくっていった。書物の表紙は年代物であり、色あせた革の装飾がその古さを物語っていた。ページをめくる音が静寂の中に響き渡り、ミレーナの集中を高めていった。

 棚に積まれた書物の中には、魔法やポーションについての情報が詰まっていたが、復讐に役立つ情報はなかなか見つからなかった。彼女は次第に疲れが溜まり、手に取る書物の一つ一つが重く感じられるようになった。夜が深まる中で、彼女の目は少しずつ疲れを見せていた。

 その時、ミレーナの目に一冊の古びた書物が映った。その書物は棚の奥深くにひっそりと置かれており、表紙には金色で「変容の魔法」と書かれていた。表紙のデザインは年代物の装飾が施されており、見るからに特別なものであることが感じられた。

 彼女はその本を取り出し、慎重に机の上に広げた。書物の表紙は重厚で、触れると冷たく感じられた。ランプの光がその表紙に反射し、微かに輝いている。ミレーナはその本を開き、ページをめくりながら内容を確認していった。古びたページの上には、複雑な文字と図が描かれており、時折見られる手書きの注釈がその歴史を物語っていた。

 ページをめくるごとに、ミレーナの心は期待で膨らんでいった。途中、様々な変容の技術や魔法が記されており、彼女が求めていた情報が見つかるまでには時間がかかった。しかし、ついに「顔を変えるポーション」のレシピが記されたページにたどり着いた。ミレーナの心臓は一瞬高鳴り、そのページに引き込まれていった。

 ポーションのレシピには、顔をとんでもない変顔に変化させるという恐ろしい効果が詳しく記されていた。ミレーナの目はその説明を読みながら、ロランドがこのポーションによってどのような姿になるのかを想像し、心の中で歓喜の声を上げそうになった。ポーションがもたらす変化は、ただの見た目の変化にとどまらず、その者の誇りや自信を根底から打ち砕くものであると説明されていた。

「これだ……これで復讐できる」とミレーナは心の中で呟いた。その瞬間、彼女はポーションの調合を始める決意を固めた。しかし、ページをさらに読み進めるうちに、ポーションを作成するためには「月光草」という特別な薬草が必要であることが判明した。月光草は夜にしか咲かず、特定の場所でしか見つからない稀少な植物だった。

「月光草……」

 ミレーナはその名前を心に刻みながら、材料が足りないことを痛感した。これではポーションは完成しない。彼女は一旦作業を中断し、材料を調達するための計画を立てる必要があると判断した。

 地下室の冷たい空気の中で、ミレーナは書物を閉じ、資料を片付ける作業に取り掛かった。書物を棚に戻し、机の上を整頓しながら、彼女は翌日の計画を練っていた。月光草の入手方法や、どのようにしてその薬草を探し出すかについての情報を集めるため、彼女は城の図書室や他の書物に目を通すことに決めた。

 夜が更けると、ミレーナは深い息をつきながら、その日の作業を終了した。彼女の心には、新たな一日の計画とポーション完成への期待が入り混じっていた。復讐のための準備は整い、彼女は翌日に向けて静かに眠りについた。

 朝の陽光が森の中に差し込み、木々の葉がキラキラと輝いていた。ミレーナは早朝から城を出発し、月光草を求めて森の奥深くに足を踏み入れていた。空気は清々しく、鳥のさえずりが心を和ませるが、彼女の心は焦燥感でいっぱいだった。手にした古びた書物の地図を頼りに、指定された場所に向かっていたが、その道は予想以上に困難だった。

 森の中には、苔むした岩や絡み合った枝があり、道はどんどん険しくなっていた。ミレーナは足を進めながら、時折立ち止まっては周囲の様子を確認していた。しかし、指定された場所にたどり着くも、そこには月光草の姿はなかった。

「ここじゃない……」

 ミレーナは失望のあまり、地面に膝をついた。周囲を見回しながら、空を仰ぎ、心の中でどうすればいいのかを考えた。手にした地図が間違っているのか、それとも月光草が既に取られてしまったのか。どちらにせよ、彼女の復讐の計画はここで立ち止まってしまうように思えた。

 その時、ふとした動きが視界に入った。別の若者が同じように森の中を歩き回っているのが見えた。彼の服装は旅人風で、手には大きな袋を持っていた。ミレーナはその人物がもしかして同じ目的でここに来たのではないかと考え、彼に声をかけることにした。

「こんにちは!」

 ミレーナはその若者に向かって呼びかけた。若者は驚いたように振り返り、彼女の姿を認めた。

「お、こんにちは」

 若者は微笑みながら近づいてきた。

「何かお探しですか?」

「月光草を探しているのですが……」

 ミレーナは肩を落としながら説明した。

「ここにあると聞いてきたのですが、見つからなかったんです」

 若者の目が輝いた。

「実は私も同じ目的でここに来たんです」

 彼は袋を少し開けて、中に入っている道具を見せた。

「月光草が必要で、どうしても手に入れたくて」

「本当に?」

 ミレーナは驚きと興奮が入り混じった表情で答えた。

「それなら、どこか他に月光草がある場所を知っているのですか?」

 若者は少し考え込みながら答えた。

「実は、月光草が見つかると言われている別の街があるんです。そこに行けば、もしかしたら見つかるかもしれません」

 ミレーナはその話を聞いて、希望が湧いてきた。彼と一緒に行けば、月光草を見つける可能性が高くなるかもしれないと感じた。彼女は笑顔を見せ、「それなら、一緒に行きましょう!」と提案した。

 若者も笑顔で応じた。

「私の名前はルカ。よろしくお願いします」

 二人は互いに自己紹介を済ませ、ルカが持っていた地図を見ながら別の街へ向かう準備を整えた。ミレーナはルカの助けを借りることで、再び希望を持ち始めた。彼と共に新たな場所へ向かう道のりは長いかもしれないが、共に力を合わせれば、月光草を見つけることができるだろうと感じた。

 森を抜け、二人は歩き始めた。晴れ渡る空と新たな仲間に囲まれながら、ミレーナの心は少しずつ軽くなっていった。ルカと共に過ごす時間が、彼女にとって新たな希望と可能性をもたらしていることを感じながら、二人は目的地に向かって進んでいった。

 ミレーナとルカは、数時間の旅を経て、ついに目的の街に到着した。街の景色は、見渡す限りの石造りの建物と狭い路地が入り組んでおり、中世の雰囲気が漂っていた。石畳の道には、商人たちの屋台や職人たちの工房が立ち並び、賑やかな音が響き渡っていた。陽光が街を照らし、石壁に反射して眩しく輝いていた。

「ここが目的の街……」

 ミレーナは周囲を見渡しながら呟いた。ルカが指示した通り、街の中心にある古びた建物に向かう。

 建物は、一見すると普通の家屋のように見えるが、入り口には古い看板が掲げられており、「魔法の薬草屋」と書かれていた。看板は風化しており、文字もかすれていたが、その店が特別な薬草を扱っていることを示していた。

 二人は慎重に建物の扉を開け、中に入った。店内は薄暗く、棚には色とりどりの薬草やポーションが並んでいた。古い木の棚や棚の間に吊るされた乾燥薬草の香りが、空気に溶け込んでいた。壁には魔法のアイテムやお守りが並び、店全体が神秘的な雰囲気を醸し出していた。

「おい、誰かいるか?」

 ルカは声をかけた。しばらくして、店の奥から爺さんが現れた。彼の顔は皺だらけで、髭が無造作に生えていた。目は鋭く、無愛想な表情をしていた。

「何だ、客か?」

 爺さんは不機嫌そうに言った。

「用がないなら出て行け」

 ミレーナは少し緊張しながら、丁寧に説明した。

「月光草を探しているんですが、ここで手に入ると聞きました」

 爺さんは眉をひそめ、「月光草?それなら、簡単には手に入らないぞ」と冷たく答えた。

 交渉は一筋縄ではいかなかった。爺さんの偏屈な態度に何度も挑戦したものの、月光草を二つ手に入れるのは困難を極めた。

「この月光草、一つだけなら譲ってやるが、二つ目は無理だ」

 爺さんは頑なに言い張った。

「どうしても二つ必要なんです。どうにかならないでしょうか?」

 ミレーナは必死に頼んだが、爺さんは冷たく首を振った。

「一つだけだ。もうこれ以上は譲れん」

 爺さんの言葉には、もはや余地がなかった。

 ルカとミレーナは悩んでいた。二つ必要なところが一つしか手に入らないのでは、計画が破綻してしまう。しかし、交渉の結果、一つだけはどうにか手に入れることができた。ミレーナは感謝しつつも、心の中で複雑な思いを抱えながら、月光草を手に入れた。

「ありがとうございます」

 ミレーナは礼を言いながら、店を後にした。ルカと共に、手に入れた月光草を大事に包んで、宿屋へと向かう。

 宿屋は古い木造の建物で、外観からは素朴な印象が漂っていた。石畳の上に建てられたその宿屋は、内部もシンプルでありながら温かみのある雰囲気を醸し出していた。大きな暖炉が部屋を暖かくし、木のテーブルと椅子が並ぶレセプションには、親しみやすい宿屋の主人が出迎えてくれた。

「お部屋を一つお願いできますか?」

 ルカが宿屋の主人に頼んだ。主人は頷き、二人に鍵を渡した。

「どうぞ、ごゆっくり」

 宿屋の主人は笑顔で送り出した。

 宿屋の部屋は、シンプルでありながらも清潔感があり、柔らかな毛布とベッドが整えられていた。ミレーナとルカは荷物を置き、少しの間、静かに過ごした。

「どうする?この先のことを考えないと」

 ミレーナは沈黙を破り、困惑した表情で言った。

「月光草は一つしか手に入らなかったね。どうすればいいんだろ……」

 ルカはじっと考え込みながら、ふと視線を向けた。

「これを君に譲ってもいい」

「え!? 本当!?」

 ミレーナの顔が明るみを増す。

 しかし、次に放たれた言葉は想像を絶するものだった。

「対価として、一度俺と寝ろ」

「……え?」

 ルカはその目をじっと見つめ、冷静な表情を保っていたが、その目には強い決意と冷酷さが見て取れた。

「月光草は非常に貴重なもので、簡単には手に入らない。手に入れるためには、何らかの対価が必要だ。その対価として私が要求するのは、君と一晩寝ることだ」

 ミレーナは言葉を失い、どう反応すべきかを考えながら、頭を抱えた。ルカの提案は、彼女にとってあまりにも無理で、受け入れがたいものだった。彼の言葉には、復讐のための材料を得るために踏み越えなければならない一線が示されていた。

「それは……無理です」

 ミレーナは心の中で必死に考えながら、ゆっくりと答えた。「そんな条件を受け入れることはできません。もっと他の方法があるはずです」

 ルカはその言葉を聞き、少しの間沈黙した後、再び口を開いた。

「他の方法はないと思う。これが現実だ。もし月光草が必要なら、私の提案を受け入れるしかない」

 ミレーナは深い迷いの中で、心の葛藤を抱えた。ルカの要求はあまりにも重く、彼女の感情と理性が交錯していた。夜の静けさの中で、どうすれば良いのかを考えなければならないという現実が、彼女に重くのしかかっていた。

 ルカの言葉が部屋に重く残る中、彼は月光草を手に取り、そっとポケットに入れた。

「じゃあ、これはもらっていく」と冷たく言い放ち、立ち上がりかけた。

 ミレーナはその様子を見て、心の中で焦りと恐怖が混じった感情が湧き上がってきた。彼を引き止めなければ、月光草を失うだけでなく、復讐の計画も破綻してしまう。彼女は決意を固め、声を震わせながら言った。

「待って、ルカ。もし……優しくしてくれるのなら……私……条件を受け入れます」

 ルカはその言葉を聞いて、ゆっくりと振り向いた。その目には驚きとともに、わずかな興奮が宿っていた。彼はミレーナの顔をじっと見つめ、しばらく沈黙した後、ゆっくりと歩み寄った。

「優しくするのなら?」

 ルカは低い声で問いかけ、彼女の前に立った。ミレーナは小さく頷きながら、目を閉じた。心臓が激しく鼓動し、息が詰まるような感覚が襲っていた。

 だが、ルカの反応は予想外だった。突然、彼は荒々しい手つきでミレーナの服を引きちぎり、強引にその体を押し倒した。彼の目はまるで獣のように荒々しく、欲望に満ちた光を放っていた。服が引き裂かれる音と、冷たい空気に触れた肌の感触が、彼女を一層不安にさせた。

「ルカ、やめて……」

 ミレーナは震えながら声を出そうとしたが、その言葉は空しく響いた。ルカは彼女の抵抗を無視し、強引に体を重ねていった。彼の力強い手が彼女の肌に触れるたび、ミレーナの心は痛みと混乱でいっぱいになっていった。

 ミレーナは泣きながら、彼の体温を感じるしかなかった。彼の強引な行為に対して、ただただ受け入れるしかなかった。彼女の涙は頬を流れ、服の破れた部分から冷たい風が入り込んでくる。痛みと悲しみの中で、彼女は力なく彼を迎え入れた。

 ルカの動きは激しく、まるで彼の欲望を満たすための狂気に取り憑かれているかのようだった。彼の荒い呼吸と力強い体の圧迫が、ミレーナにとって一層辛いものとなった。彼女の心の中では、月光草を手に入れるためにこの状況を耐え忍ぶしかないという現実が、ますます深刻に感じられた。

 夜の静寂の中で、二人の身体と心が交わる様子は、月の光に照らされながらも、どこか冷たく、残酷に感じられた。ミレーナは泣きながら、彼を迎え入れ続け、苦しみの中で一時の慰めを見つけようとした。

 ミレーナの心は痛みと混乱で満たされていた。ルカの荒々しい動きに対して、彼女は必死に耐えようとしたが、彼の欲望に引き裂かれるような感覚が続いた。ルカの息遣いは荒く、彼の体の圧迫がミレーナの全身に圧し掛かる。

「もっと……」

 ルカは喘ぎながら言葉を漏らし、彼の手は無造作にミレーナの体を求め続けた。彼の熱い体温が彼女の肌に触れるたび、ミレーナの心はさらなる苦しみを感じた。彼の激しい動きと、彼女の体の震えが交錯し、夜の静寂の中でその音だけが響いていた。

 ミレーナはただひたすらに、早く終わることを願っていた。彼の体が離れることを切望しながら、涙を流し続けた。心の中で、痛みと共に悲しみが渦巻いていた。彼女はこの状況から抜け出すことを強く望み、夜の終わりを待ち続けた。

 ようやく、ルカの動きが鈍くなり、彼の呼吸が落ち着いていくと、ミレーナの心にもわずかな安堵が訪れた。彼の体が彼女から離れ、暗闇の中で静寂が戻ってきた。

 夜が過ぎ、やがて朝が訪れると、部屋の中には冷たい静けさが漂っていた。ミレーナは疲れ切った体を引きずるようにして目を覚ました。体のあちこちに残る痛みと、心の中の深い悲しみが、彼女の目を開けさせるのを困難にしていた。

 彼女が目を開けた瞬間、部屋の中にルカの姿はなかった。混乱しながらも、目の前に置かれた月光草の入った袋を見つけた。袋の中身は確かに月光草だったが、ルカの姿はどこにも見当たらない。彼は一体どこへ行ったのか、その姿は影も形もなく、ただ彼が持っていたはずの月光草だけが残されていた。

 ミレーナは自分が置かれた状況を理解しようと必死になりながら、無力感と絶望感に襲われた。彼が逃げたという現実が、心の中でさらに深い痛みをもたらしていた。夜の出来事と共に、彼女の計画も崩れ去り、彼女の心には深い空虚感が広がっていた。

 ミレーナはふらつきながらも、月光草を握りしめ、これからどうすべきかを考えることにした。彼女の心には、復讐のために必要な材料を手に入れたという僅かな希望と、ルカに裏切られたという深い悲しみが交錯していた。彼女の目には、未来への不安と共に、夜の出来事が鮮明に刻まれていた。

 夜の冷たい空気を背にして、ミレーナは自分の家に帰り着いた。家の中は薄暗く、静まり返っていた。彼女の心はまだ夜の出来事に揺れていたが、家の中の温かさが少しだけ安堵をもたらしていた。

 彼女は急いで作業部屋に向かい、以前から用意していた材料を取り出した。棚には様々な瓶や薬草が整然と並び、ミレーナの手は自然と動き始めた。作業台の上には月光草が置かれ、その独特の光を放っていた。彼女はその光を見つめながら、心の中で復讐の計画を進める決意を固めた。

 まず、ミレーナは月光草を慎重に粉末状にし、他の材料と混ぜ合わせた。手際よく進められる作業の中で、彼女は夜の出来事を忘れようと必死だった。粉末の香りが漂い、部屋に満ちる薬草の香りが彼女を落ち着けてくれた。

 次に、ミレーナは釜に水を注ぎ、火を入れて慎重に煮込み始めた。薬草が溶けていく様子を見ながら、彼女の心は少しずつ穏やかになっていった。月光草が水の中で独特の青い光を放ち、その色合いがポーションに変化を与えていく。

 時間が経つにつれて、ポーションは徐々に濃厚な青色に変わり、強い香りが漂い始めた。ミレーナは慎重にその変化を観察し、ポーションが完成するまでの微妙な調整を行った。彼女の手は確かなもので、確信を持って作業を進めていた。

 ポーションが完成する瞬間、ミレーナはその瓶を手に取り、しばらく見つめた。青い液体が輝き、彼女の手の中で輝くその色は、彼女の復讐の象徴となった。心の中で決意を新たにし、彼女はそのポーションを振り返りながら、これからの計画に思いを馳せた。

 すべての準備が整い、ポーションが完成したとき、ミレーナは深呼吸をして心を落ち着けた。これからが復讐の時であることを自覚し、冷静に行動を始める準備を整えた。彼女の目には決意が宿り、月光草のポーションが持つ力を信じていた。

「これで……」

 ミレーナは低く呟きながら、ポーションの瓶をしっかりと握り締めた。

「これで、彼に私の苦しみを味わわせる」

 夜の静寂の中で、ミレーナはそのポーションを持って、再び街に向かう決意を固めた。復讐の計画が遂に実行の時を迎え、彼女の心は冷徹な決意に満ちていた。

 ミレーナの心には、復讐の決意が確固たるものとなり、ポーションを手にして再び街へと向かった。彼女は情報を集め、ロランドが主催する豪華なパーティーが開かれることを知った。復讐の機会を見逃すわけにはいかない。ミレーナは自分の復讐計画を実行するため、華やかな夜の舞踏会に紛れ込む決意をした。

 パーティー会場は、豪華な装飾で飾られた大広間に広がっていた。シャンデリアが天井から垂れ下がり、金色の光が煌めく中、貴族たちが華やかな衣装を纏い、優雅に談笑していた。ミレーナはこの華やかな空間に溶け込むため、目立たないように装いを整えた。

 会場の一角に設置された飲み物のテーブルには、さまざまな酒やジュースが並んでいた。ミレーナはその中からロランドの好みの飲み物を見つけ出し、慎重にポーションを混ぜる作業に取りかかった。瓶から取り出した青い液体は、彼女の手の中で輝き、そのまま飲み物の中に落ちていった。

 ポーションを混ぜ終わると、ミレーナはその飲み物をテーブルに戻し、周囲の人々と共に会話に加わりながら、ロランドの動向を見守った。ロランドはパーティーの主役として、周囲の注目を浴びていた。彼の自信に満ちた表情が、どこか傲慢さを感じさせるものだった。

 時間が経つにつれて、ロランドは飲み物を一口一口と味わいながら、歓談を楽しんでいた。その顔に満足そうな笑みが浮かび、彼は自分が主催したパーティーに満足しているようだった。だが、やがてその表情が変わり始めると、周囲の人々は異変に気付くこととなった。

 ロランドの顔が急激に変わり始めたのだ。皮膚が赤く腫れ上がり、目の周りには青紫の斑点が浮かび上がっていた。その変貌ぶりはまさに恐怖そのもので、彼の美しい顔立ちが見るも無残なものへと変わっていった。周囲の人々は驚きと混乱の声を上げ、彼を避けるように後退していった。

「どうして……どうしてこんなことに!」

 ロランドは自身の顔を触りながら、パニックに陥った。

 周囲の貴族令嬢たちは、ロランドの変わり果てた姿を見て、次々と彼から離れていった。彼の地位と威厳が崩れ去り、彼はまるで一人ぼっちのようになってしまった。ミレーナはその光景を遠くから見つめ、心の中で静かに勝利の感情を感じた。

 その後、会場が騒然とする中、ミレーナはそっと会場を離れ、街を歩きながら、次の目的地を目指した。彼女の心には、これからの計画を進めるための決意が宿っていた。

 ミレーナが街の外れで待っていたのは、かつての盟友であり、復讐の対象でもあるルカだった。彼はまだ彼女の復讐の計画に絡んでいた。ミレーナは決して忘れられない過去の出来事と向き合う覚悟を決めていた。

 ルカが現れると、彼の表情には驚きと疑念が交錯していた。彼はミレーナを見て、その変わり果てた姿を見つめた。

「ミレーナ……どうしてここに?」

 ルカは驚きながらも、ミレーナの目を見つめていた。

 ミレーナは冷静な顔でルカを見返し、ゆっくりと口を開いた。

「あなたにも、私の復讐の対象となってもらうわ」

 ルカはその言葉を聞いて、驚きと恐怖が入り混じった表情を浮かべたが、ミレーナは既に決意を固めていた。彼女はポーションを取り出し、ルカに対して容赦なくその液体を振りかけた。ルカの顔が急速に変わり始め、彼の表情は恐怖と痛みで歪んでいった。

 ミレーナは冷徹な目でその様子を見つめながら、復讐の最後の一手を終えた。彼女の心には、長い間抱き続けてきた復讐の感情が、ついに完結したという安堵が広がっていた。

 夜が深まり、街は静寂に包まれた。ミレーナは自分の行動を振り返りながら、過去の痛みを乗り越え、新たな未来に向かって歩み始めた。復讐の道を歩んだ彼女の心には、冷たい決意と共に、新たな希望が芽生えていた。
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