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婚約破棄した者達は全員許さない

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 あの日、私の世界は終わった。

「エリナ、婚約を破棄する」

 その言葉が耳に届いた瞬間、時間が止まったかのように感じた。愛するアレンが私の目の前で冷たく告げた。私の心の中で、何かが崩れ落ちる音が聞こえた。彼の視線は、もはや私を見ていない。まるで、ただの道端の石ころのように扱われている気がした。

「どうして……私が何をしたというの?」

 私は涙を堪えながら、彼に問いかけた。しかし、彼の表情は変わらない。まるで冷たい石像のようだった。背後には、彼の新たな婚約者である令嬢が立っていた。彼女は私を見て微笑み、心の奥で快感を得ているように見えた。

「お前のようなクズとは違う。私には彼女が必要なんだ」

 その言葉は、私の心を鋭く刺した。どうして?どうして私がこんな目に遭わなければならないの?私が愛した彼の心が、別の誰かに向いていることが耐えられなかった。

 アレンは私を背にして立ち去り、私の心は一瞬で暗闇に飲み込まれた。彼が遠ざかるその背中を見て、私はすべてを失ったと感じた。泣き崩れた私は、どうすることもできず、ただ地面に膝をついていた。

 その後、私は自分の部屋に閉じ込められた。涙を流し、彼との思い出に浸っていた。幸せだった日々が、鮮やかに脳裏に浮かんでは消えた。愛されたことが、こんなにも苦しいなんて。心の奥にあった希望が崩れ去り、代わりに憎しみが芽生え始めた。

「私を捨てた彼に、復讐してやる……!」

 その瞬間、私の心の中にある怒りが暴れ出した。どうして彼が私を選ばなかったのか?どうして他の誰かと結婚することを選んだのか。私の心に巣くった疑念が、徐々に私を侵食していく。

 その日から、私は変わってしまった。アレンを想うたびに、心の中で燃え上がる感情が強くなり、狂気の片鱗を見せるようになった。私は、彼に対する執着を深め、愛から憎しみへと変わっていった。

 夜ごと、彼の夢を見るようになった。美しかった日々の中で、彼が私に微笑む。しかし、すぐにその笑顔は凍りつき、暗い影が彼を包み込む。私の心がざわめき、目が覚めると、彼の名前を叫んでいた。

「アレン……!」

 そんなある晩、私は禁じられた魔法の書を見つけた。それは、かつて禁断の力と呼ばれていた。何が書かれているのかはわからなかったが、私はそれに魅了された。心の奥で燃え上がる怒りと悲しみが、私をこの力へと引き寄せていた。

「これを使えば、私は彼に復讐できる……!」

 私は本能的にその力を求め、手に取った。指先がそのページをなぞると、何かが私の中で目覚めていくのを感じた。狂気と力が交じり合い、私の心を満たしていく。これが私の新たな道だと感じた。

 その日から、私はアレンの姿を追い求め始めた。彼が誰と過ごしているのか、何を考えているのか。執拗に彼を観察し、その周りの人々にも目を光らせるようになった。私の心の中で、狂気の歯車が動き出したのだ。

「愛されないなら、神になってしまえばいい……!」

 私の心の中で新たな考えが芽生える。神になれば、誰も私を捨てることはできない。すべてを支配し、すべてを手に入れる力を手に入れるのだ。私の憎しみが、狂気へと変わる瞬間が近づいていた。

 この運命から逃れるため、私は神となる。復讐のために、私は全てを捨てていく。私は新たな道を歩むことを決意し、すべてを手に入れるために、狂った力の世界へと足を踏み入れるのだった。

 私は神となった。

 私の心は、愛を捨てたはずなのに、憎しみと快楽が交錯する渦の中で生きていた。アレンの顔が、今は恨みの対象でしかない。その存在が私のすべてを奪ったのだから。彼に対する怒りは、日ごとに膨れ上がり、私はその感情を快楽に変える術を見出した。

「すべてを破壊してやる……」

 自らの力を手に入れた私は、嫌いなものを次々と消し去っていく。かつて私を笑い者にした人々、アレンの新しい婚約者、私を冷たい目で見た貴族たち。彼らを一瞬のうちに消滅させ、私の心を満たす快楽が、私の中で渦巻いていく。

「もっと……もっと破壊したい!」

 私は夜な夜な、破壊の宴に興じる。街の中で無邪気に遊ぶ子供たちを見つめ、彼らを引き裂く快感に陶酔する。その様子を見ていると、心の奥で愉悦が満ちていく。私の存在が、恐怖に包まれた世界を作り上げていた。

「これが神の力……!」

 誰も私に逆らうことができない。かつての悲しみを忘れ、私は完全に快楽に溺れていた。私の名は恐れられ、神のように崇められるようになった。しかし、その静かな時がいつまでも続くとは思っていなかった。

 数ヶ月が経ったある日、私のもとに一人の勇者が現れた。彼の名はカイン。ひときわ目立つ金髪と、毅然とした姿勢を持つ彼は、私を討伐するためにやってきた。

「エリナ、これ以上の破壊を許さない!お前は間違っている!」

 彼の声は力強く響いたが、私の心には響かなかった。彼が何を言おうとも、私の心にはもう愛はない。むしろ、彼が私に挑んでくることで、さらなる快楽を得られることを期待していた。

「勇者様、素敵……私の快楽のために、もう一度破壊を始めるときが来たのね」

 私は笑いながら答えた。カインの目には驚きと恐怖が浮かんでいたが、その反応が逆に私の心を刺激した。私の狂気に触れ、彼もまたその渦に飲み込まれるのだろうか。

「お前の力は、必ず止めてみせる!」

 彼の言葉は、私には滑稽に響いた。彼の勇気が、私の狂気に挑むことができるなんて思えなかったからだ。私は彼に手を差し伸べ、彼が持つ武器を捨てさせるような力を送り込んだ。

「破壊したいのは、私の心に巣くったあの感情。だから、お前の力を借りることにする……」

 そう言い放つと、私は彼に向かって攻撃を仕掛けた。周囲の景色が変わり、私の力によって空間が歪む。カインの姿が不規則に揺らぎ、彼は一瞬の隙を突かれ、力を失って地面に倒れ込んだ。

「これが神の力……快楽を与えてくれるのだから」

 私は彼の前に立ち、ゆっくりと微笑んだ。彼の無力な姿は、私の心に快感を与える。こうして、私は彼を完全に屈服させることができるのだ。私の欲望が、再び目覚める瞬間が近づいていた。

 しかし、彼の目にはまだ諦めるという言葉は無かった。私に向けられるその視線は、私を挑発しているかのようだった。私の心の中で何かが動き出す。果たして、彼の勇気は私の狂気を打ち破ることができるのか。

「私の快楽を止めることは、できないのだよ……」

 私はその言葉を残し、彼の無力な姿を見下ろした。破壊の宴が再び始まる。私はすべてを支配し、完全なる快楽に溺れることを選ぶのだ。これが私の運命なのだから。

 私は快楽の渦に溺れていたが、カインの目に宿る光が次第に強くなっていくのを感じていた。彼の無力な姿が、私にとっての快楽の源だったはずなのに、その変化が私の心に警戒感を呼び起こす。

「俺は……俺は決して負けない!」

 彼の叫び声が、私の耳に響いた。力強い声が、私の中に隠れていた恐れを引き起こす。彼の持つ勇者の剣が、彼の側に戻ってくる様子を見て、私の心に恐怖が広がった。剣はまるで生きているかのように、彼の手の中で光を放ち始めた。

「そんなはずは……!」

 私の心は動揺し、彼に向かって攻撃を続けようとしたが、彼の姿は徐々に変わっていく。彼の身体から溢れ出す光が、私の力を打ち消すように感じられた。

「これが俺の力だ……お前を止めるために、全力を尽くす!」

 彼の剣が放つ光が、周囲の暗闇を照らし始めた。その光は、私が手に入れた快楽の力とは異なる、純粋な力を持っていた。私はその圧倒的な力に圧倒されていく。

「こんなこと、許されないはず……!」

 私は焦りを感じ、必死に力を振り絞って彼に向かって飛び掛かった。しかし、彼の剣が私を迎え撃ち、その光が私を貫こうとした瞬間、私は彼の力に飲み込まれそうになった。

 彼の剣が私を押し返し、私は地面に倒れ込む。体中に衝撃が走り、私の力が失われていく感覚が広がっていった。このままでは消し炭にされてしまう……。

 その時、突然、周囲が暗くなり、異様な気配が漂い始めた。私の目の前に、影のような存在が現れた。それは悪魔だった。

「ふふ……面白い光景だな、神の力が勇者に打ち負かされるなんて」

 悪魔は、どこか楽しそうに笑っている。私の恐れと焦りを感じ取り、彼は私に向かって近づいてきた。私の心がざわつき、彼の存在が私の意識をさらっていく。

「お前、誰なの……?」

 私の声は震えていたが、悪魔はただ微笑みながら答えた。

「私は、君が求めていた力の象徴。お前の心の奥底にある狂気を呼び起こすために来た」

 その言葉に私は戸惑った。私が求めていたのは、復讐のための力だ。しかし、彼が示すものは、私が知らない別の力のようだった。

「私の力を与えれば、勇者を打ち破ることができる。もう一度、破壊の快楽に溺れてみるか?」

 悪魔の言葉は、私の心の奥にある狂気を刺激した。私の中で何かが揺れ動く。勇者に追い詰められ、このままでは終わってしまう……。その瞬間、私は悪魔の誘惑に心を引かれ始めた。

「それで、私に何をしてくれるの?」

 私は彼に問いかける。悪魔はニヤリと笑い、手を差し出した。

「君の欲望を全て叶えてやろう。その代わり、少しの代償が必要だ」

「代償?」

 私の心の中で不安が広がるが、今は他に選択肢がない。このままでは消されてしまう。悪魔の力を手に入れ、カインを打ち破るためには、彼に従うしかないのかもしれない。

「お前は、私の力を手に入れる覚悟があるのか?」

 悪魔の言葉が私の心をかき乱す。欲望と恐れが交錯する中、私はその誘惑に心をゆだねていく。

「……分かった、受け入れる」

 私の言葉に悪魔は微笑み、手を伸ばしてきた。その瞬間、私の心に彼の力が流れ込む。狂気の渦が再び私を包み込み、全てを破壊する力が目覚めた。

「さあ、もう一度、快楽を楽しむがいい!」

 悪魔の言葉が響き渡ると、私は再び力を取り戻した。カインに向かって立ち上がり、今度は彼を打ち破るために全力を尽くす覚悟を決める。

「今度こそ、あなたを消してみせる……!」

 私の心の中で、再び狂気の炎が燃え上がる。悪魔の力を借りて、私は新たな戦いへと挑むのだった。

 すると、私の目の前で、カインが勇者としての力を最大解放していた。その姿は美しく、まるで光の神が降臨したかのようだ。しかし、私の心には恐怖よりも期待が広がっていた。彼がかつて私を拒絶した相手であることを思い出すと、心の中の復讐の炎がさらに燃え上がった。

「俺は勇者だ……! 負けるわけにはいかない!」

 カインの声が、私の耳に響く。彼の言葉には力強さがあり、どこか懸命さが感じられた。だが、彼の心の奥に潜む不安も、私には見えていた。

 彼が勇者としての力を解放するたびに、私の内にある神の力がさらに高まっていく。私の快楽の渦が彼を飲み込み、全てを消し去ろうとしていることを感じる。

「来い、エリナ!」

 カインは剣を高く掲げ、勇者としての誇りを取り戻そうとしている。その姿に少しの敬意を覚えたが、同時に冷笑が浮かぶ。

「そんなもの、私には通じないわ」

 私の声が、彼の前に響き渡る。彼の剣が光を放ち、私に向かって振り下ろされるが、その瞬間、私は軽やかに身をかわした。彼の攻撃は空振りに終わり、カインの表情に苛立ちが浮かぶ。

「俺は……俺は勇者なのに……!」

 カインは苦しみを抱えながら、再び立ち上がる。彼の目に宿る光は、決意とともに力強さを放っている。しかし、その決意は私には何の脅威でもなかった。

「さあ、私の力を味わいなさい」

 私は彼に向かって放った攻撃が、彼を圧倒する。私の力が彼を捉え、彼の足元が崩れていく様子を見ていると、心の底から快感が広がっていく。彼が立ち上がる姿は、もはや以前の彼とは別人のようだ。

「エリナ……!」

 彼の声がかすかに震える。勇者としての誇りを守ろうと必死に抵抗する彼の姿は、私の心に笑みを浮かべさせる。私は彼の強さを認めつつ、快楽に浸っている。

「なぜお前に負けなければならないんだ……!」

 彼の叫びが虚しく響く。カインは何度も立ち上がり、私に向かって剣を振るうが、その攻撃は次第に鈍くなっていく。私の力が彼を圧倒し、彼の心を押しつぶすのだ。

「俺は、勇者だ! 絶対に負けない!」

 その言葉は、かつての彼の強さを象徴している。しかし、私の中にある狂気が彼を呑み込み、彼の力を徐々に奪っていく。カインの剣が私に届くことはなく、彼の心が崩れていくのを感じた。

「そう、そこだ……お前の心の奥底に眠る恐れが、私を呼び起こす」

 彼の抵抗は虚しく、私の力がその全てを覆い尽くす。カインが持つ勇者としての誇りが、徐々に彼の目から消え去っていく。彼が崩れ落ちる瞬間、私の中で狂気の渦が巻き起こる。

「もう、終わりにしてあげるわ」

 彼の叫びが消え、最後の力を振り絞っても、私には届かない。カインの姿が徐々に薄れていく。彼の勇者としての力が完全に私の前に屈服し、私はその瞬間を待ち望んでいた。

 彼が力尽き、消え去る瞬間、私は心の中で歓喜に浸る。この勝利が、私に与えられた力の証であり、復讐の第一歩となるのだ。

「さあ、次はアレンの番……」

 カインが消えたことで、私の心には新たな目標が明確になった。新たな婚約者ミシェルを刻むこと。それが私の復讐のスタートだ。彼女を追い詰め、アレンに苦しみを与えることが私の新たな楽しみになる。

「この快感を、もっと味わわせてあげる……!」

 私の心の中で、狂気の炎が燃え上がり、復讐の渦が広がっていく。私の中に宿る神の力が、私を新たな快楽へと導いてくれる。これからの展開が楽しみで仕方がなかった。

 カインは、私の目の前で消し炭となった。彼の叫び声が消え、彼の姿が闇に飲み込まれるのを見て、私の心には不思議な達成感が広がった。これで、私を止める者はいなくなった。私の中にある狂気が、さらなる快楽を求めて渦巻いている。

「これが神の力……!」

 私の口から漏れた言葉は、自己満足に満ちていた。アレンへの復讐が、今や目の前に迫っている。彼の婚約者であるミシェルを刻むことこそ、私の復讐の第一歩だ。

 ミシェルのことは、アレンから聞いていた。彼女は美しく、私とは正反対の存在。彼女がアレンの心を掴み、私を消し去ったのだ。そんな彼女を私の手で刻むことができれば、アレンの心に深い傷を残すことができる。

「まずは、彼女のもとへ行こう」

 私は暗い夜の中、ミシェルの住む屋敷へ向かった。彼女は貴族の令嬢で、華やかな生活を送っている。そんな彼女に潜む無防備さを見逃さない。私は静かに彼女の家に忍び込み、心の中で復讐のシナリオを練った。

 屋敷の中に忍び込むと、静寂が支配していた。どこか神秘的な空気が漂う中、私は彼女の部屋へと向かう。扉をそっと開けると、そこには美しいミシェルが眠っている姿があった。彼女の無邪気な表情に、心が高揚する。

「あなたの運命は、私が決める……」

 私は自分の心の中で呟く。彼女の傍に近づくと、静かに息を潜めながら彼女を見つめる。彼女の心臓の鼓動が、私の耳に響いていた。瞬間、私は彼女の顔に手を伸ばし、彼女を起こす。

「誰……?」

 ミシェルの目が驚愕の表情に変わる。その瞬間、私の中で狂気が再び目を覚ました。彼女の恐怖を見ていると、快感が全身に広がっていく。

「私はエリナ……あなたの前の婚約者、アレンの元婚約者よ」

 私の言葉に彼女の目がさらに大きくなり、恐れが増していく。私の存在が、彼女の運命を狂わせることを理解しているのだ。

「何を……私に何をするつもり?」

 彼女の声は震えていたが、私はその恐怖に酔いしれるように微笑む。

「あなたの存在が、私の復讐の一部なの」

 私は手を伸ばし、彼女の顔に触れる。彼女の肌の感触が、私の中にさらなる興奮を引き起こす。私の心の奥で燃え上がる復讐の炎が、彼女を飲み込んでいく。

「あなたはアレンを奪った。その罰を受けてもらうわ」

 私の言葉に、彼女の目が恐怖に満ちた。彼女の表情が、私の心の中で快楽を呼び覚ます。私はその瞬間を待ち望んでいた。

「エリナ、お願い、やめて……!」

 彼女の叫び声は無駄だった。私は彼女の手首を掴み、力強く引き寄せる。彼女の反抗を感じながらも、私は笑いをこぼした。

「あなたが消えれば、アレンはどんな気持ちになるかしら……」

 私の心の中で狂気が炸裂し、彼女を完全に支配する快感が広がっていく。彼女がどんなに叫んでも、私の中の復讐の炎は消えることがない。

「もう、逃げられないわよ」

 私は一瞬の隙をついて彼女の心に潜り込む。私の力を感じた瞬間、彼女の目がさらに絶望に染まる。

「エリナ、お願い、許して……!」

 彼女の懇願は、私の耳には届かない。逆にその声が私の心の中に快楽を増幅させていく。

「復讐の瞬間が近づいている……」

 私は彼女の目を見つめ、心の奥に秘めた狂気を解放する。ミシェルの心に私の影を刻み込む瞬間を、今まさに迎えようとしていた。

「これが私の復讐よ……!」

 彼女の中に、私の狂気を刻み込む瞬間が訪れる。そして、私はその快感に酔いしれ、全ての終焉を見届けるのだ。

 数日後、私はアレンの元を訪れた。彼との再会を心待ちにしていたが、その心の奥には別の感情が渦巻いていた。婚約者ミシェルを刻むために、彼を取り巻く全てを消し去る決意を固めていた。

「アレン、久しぶりね♡」

 私の声が彼の屋敷の扉を開け、彼のもとへと響き渡る。だが、彼の反応は思ったよりも冷静だった。

「エリナ……お前が来るとは思っていた」

 アレンは私を見つめ、その眼差しには冷たさが宿っていた。彼は婚約者の死から、異変に気付いていたようだった。私の心の中に潜む狂気を感じ取ったのかもしれない。

「各国から選りすぐりの傭兵や、当国の最強剣士を雇った。お前の力を抑え込むためだ」

 彼の言葉は、私の心をざわつかせた。彼が私を恐れていることが伝わってくる。私の力を侮っていた彼が、私に警戒心を抱くのも無理はない。

「ふふ、準備がいいのね。でも……それは無駄よ」

 私は微笑みながら言った。アレンが雇った強敵たちを目の前にしても、恐れなどなかった。むしろ、彼らとの戦いを楽しみにしていた。

 次の瞬間、強敵たちが私に襲いかかってきた。彼らの力は驚異的で、私も互角の戦いを繰り広げる。剣が交わる音が響き、鋼のような意志がぶつかり合う。

 だが、彼らは本当に強かった。強すぎた。私が力を振るうたびに、彼らは反撃を仕掛けてくる。思った以上の強敵に、徐々に追い詰められていく。

「くっ……!」

 私の心が焦りを感じ始める。これまでの戦いとは異なり、次第に彼らの強さが私を圧倒していく。心の奥で狂気が目覚めるのを感じ、私はその感情を受け入れることに決めた。

「私には、悪魔の力がある……!」

 私の中に秘められた悪魔の力が目覚める。私の肉体が熱くなるのを感じ、狂気と共に力が溢れ出てくる。目の前の敵たちが一瞬怯む。

「悪魔の力よ……今こそ解放する!」

 私の声が空に響き渡り、悪魔の力が私を包み込む。体中に力が満ち、目の前の敵たちが驚愕の表情を浮かべる。その瞬間、私の心に宿る狂気が暴走し始めた。

「これで、全てを破壊してやる……!」

 私の目が赤く光り、全身から悪魔の力が迸り出る。周囲の空気が変わり、静寂が訪れる。私が解放した力は、まるで怒りの嵐のように暴れ回る。

 強敵たちが私の目の前に立ちはだかるが、もはや彼らは私に敵わない。彼らの攻撃は全て無意味に思え、私はその瞬間を待ち望んでいた。

「全てを壊して、アレンの前に立ってやる……!」

 剣士は冷静な表情を崩さず、私を見つめていた。彼の瞳の奥には覚悟が宿り、その瞬間、彼が抜刀する姿はまるで静かな嵐のようだった。剣士の心に決意が満ちると、彼は言葉を発した。

「これ以上は許さない。覚悟しろ!」

 その瞬間、彼は剣を振り下ろし、「懺影」と呼ばれる超高速の技を繰り出した。私の目には彼の動きがスローモーションのように映り、彼の剣が空気を切り裂く音が響いた。

「……!」

 私はその技に反応する暇もなく、彼の剣が私の四肢を切り飛ばしていく。痛みが走り、身体が崩れ落ちる。信じられない思いが心を駆け巡り、私の意識が薄れていくのを感じた。

 だが、ここで終わるわけにはいかない。私の心の奥底で眠る悪魔が目を覚ます。全てを覆す力が私の中で動き出し、私の身体が再生するのを感じた。悪魔の力が四肢を再生させ、傷が癒されていく。

「無駄な抵抗だったな」

 私の声は低く響き、再生した私の姿は剣士の目に恐怖を与える。彼は驚愕の表情を浮かべ、何もかもが虚しくなったようだ。

「もう、終わりにしてあげる……!」

 私は剣士に向かって突進し、彼の目の前に立ちはだかる。そして、一瞬の内に彼を貫いた。彼の悲鳴が耳に響くが、私はその声に耳を貸さなかった。

 剣士が崩れ落ちる瞬間、私の中の狂気が高まり、私は次々と傭兵たちを皆殺しにしていく。彼らは私の悪魔の力に抗うことができず、次々と倒れていく。

「これが私の力よ……!」

 全てを無に帰していく私の姿を見て、アレンがそこに立っていた。彼の目には恐れと驚愕が混じり、私の復讐が現実となった瞬間を感じ取っている。

 彼の前に立った私は、無言で彼の顎に手をやり、持ち上げる。そして、そのまま彼に深くキスをする。

 私の唇がアレンのものに触れた瞬間、全てが静止する。彼の驚きと戸惑いが、私の心の奥で喜びに変わっていく。彼の温もりを感じながら、私はその瞬間を楽しむように、さらに深くキスを続けた。

「アレン……私を受け入れて」

 心の底から湧き上がる感情が、私の言葉に乗せられて彼に伝わっていく。私の求めは彼を貪りたいという衝動へと変わり、アレンの口を奪い、彼の意識を私の中へ引き込んでいく。

 アレンは一瞬、抵抗しようとするが、その目には私の狂気が映り込んでいることに気づく。私の愛の力に、彼は抵抗しきれなくなり、次第にその愛に溺れていく様子が見て取れた。

「エリナ、君……!」

 アレンの声が震え、彼の表情は困惑と驚愕が入り混じったものとなる。しかし、その困惑の中には、私の愛が彼を惹きつけていることも確かだった。

「私を見て、アレン。私の全てを受け入れて……」

 その言葉を口にするたびに、私の中の狂気と愛が交錯し、ますます彼を求める気持ちが強くなっていく。彼の抵抗は薄れ、私の熱に飲み込まれていく様子が、私の心を満たしていった。

「愛している……私と一緒にいて」

 私は彼の唇から離れず、彼の視線を奪う。アレンの心の奥に潜む恐れを消し去りたい。その瞬間、彼の目の中に一瞬の迷いが消え、私の求めに応えようとする決意を感じた。

「エリナ……」

 彼の声が、私の名前を呼ぶ。私の中で何かが弾け、その瞬間、私たちの間に新たな絆が生まれる。私の愛に溺れ、彼が私のもとへと引き寄せられていく感覚が心地よかった。

 アレンはまだ、心の奥で抵抗の意志を見せていた。しかし、私の愛に触れ続けるうちに、彼の目に宿る迷いが次第に消えていく。彼の唇を重ねるたびに、私の愛の力が彼の中に浸透していくのを感じた。

「エリナ、私は……」

 彼の言葉は苦悶に満ちていたが、その声が次第に甘く変わり、やがて彼は私の求めに応じるようになった。私たちの体が重なり合い、互いに獣のように求め合う。私の指が彼の背をなぞり、彼の温もりを感じると、まるで全てが一つになったような錯覚を覚えた。

 アレンの目が私を見つめる。その目には恐れが薄れ、代わりに欲望が宿っていた。私の心の中で狂気と愛が渦巻き、全てを飲み込んでいく。私たちは獣のように激しく、求め合い、愛し合った。

「私を抱いて、アレン……!」

 私の叫びに彼は応え、彼の手が私の髪を掴み、体を引き寄せる。私たちの心が一つになり、身体が交わるたびに、彼の抵抗は完全に消え去っていった。彼が私に屈服する様子は、まるで愛の儀式のようだった。

 やがて、アレンは完全に私に屈服した。彼の目の中にある迷いは消え、私の愛に満ちた視線だけがそこにあった。私の心は満たされ、幸福感に包まれた。

 しかし、その瞬間、心の奥に潜む復讐の炎が再び燃え上がる。私の愛は彼を手に入れたが、まだ終わりではない。彼を完全に私のものにするために、私は彼の首を飛ばす決意を固めた。

「ありがとう、アレン。これで私の全てが手に入った……!」

 その言葉を口にすると、私は剣を取り出し、彼の首に向けた。彼は私の目を見つめ、恐怖が一瞬浮かぶ。しかし、その目にはもう抵抗はなかった。彼は完全に私に屈服したのだ。

 一瞬の静寂の後、私は剣を振り下ろした。

 アレンの首が空中で輝き、その瞬間、私の心に満ちていた緊張が解放された。彼の体が崩れ落ち、静寂が訪れる。その場の空気が一瞬止まったかのように感じられた。私の中で高まっていた興奮が、一気に爆発した。

「アレン……!」

 私は高らかに叫び、歓喜に満ちた笑い声を上げた。彼の首が飛ぶ瞬間、甘美な快感が全身を駆け巡り、私の心は狂気に満ちていく。復讐が果たされた喜びは、何物にも代えがたいものだった。

 その快感は私を支配し、全ての苦しみが浄化されていく感覚があった。私の心の奥に潜む暗い欲望が、ますます膨れ上がっていく。アレンを手にかけたことで、私は自由になった。彼の支配から解放され、私の真の姿が目覚める。

 その後、私は新たな存在として名を轟かせていく。私の復讐はまだ始まったばかりだった。婚約破棄し、少女たちを苦しめた男たちを抹殺する者として、恐れられる存在となった。

「彼らも同じように、苦しむがいい……」

 私の心の中で渦巻く復讐の炎は、今や消えることがなかった。次々と標的を追い詰め、彼らを狩る。彼らの恐怖の顔を見ながら、私は快感に浸る。彼らの命が私の手にかかるとき、私の心は高揚する。

「もっと……もっと苦しんで……!」

 私はその存在が知られ、噂が広まるにつれ、ますます狂気に染まっていく。私の名は、「復讐の女神」として、悪を為す者たちの耳に響き渡った。

 彼らは私の名を恐れ、次第に私の前に立つ者はいなくなった。私の手の中で、次々と男たちの命が消えていく。私の復讐は、私の心を満たしていく唯一の道だった。
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