上 下
49 / 66
三章・金の亡者

眷属2

しおりを挟む
 僕の『恩返し後にモフる作戦』は失敗に終わった。恩返しの「お」の字もない。
 そう、僕の計画は発動前に木っ端微塵になったのだ。今更軌道修正など無理だろう。
 だって、モフる目的の獣人くんにファーストタッチで強引に迫ったのだから。
 ならば、優しさなどと言う不可視で、信用できないものは切り捨てよう。
 そうすれば、自ずと僕の向きにやるべきことも明らかとなる。

「獣人くん、君は僕の従僕です。従いなさい。」

 そう、圧倒的な理不尽さで従えるのである。
 ついでに魔力も出しておく。僕の無駄に有り余っている魔力を。

 まあ、反抗されるかな?と思っていたら、意外にも大人しくかしずく獣人くん。魔力がいい働きをしたのかな?

「狼獣人ラズリーは、ラント様に忠誠を誓います。」

「狼、、」

 流石に障害がなさすぎて驚きを隠せない。
 ジークハルトには狼であることが気に掛かったようだ。
 まあ、順調ならば問題ない。順調すぎて落ち着かないが。

「立って。」

 獣人くん、改めてラズリーくんと話すために立ってもらったが、デカかった。ジークハルトと良い勝負ではないだろうか?
 
 ラズリーは監禁されていたからか、痩せこけてはいるが、それでも身長の高さと力強い目には圧を感じる。

 そして、その表情には意外と悪感情はないようだ。何が要因かは謎だが、この状況は受け入れられているようだ。
 ならば、さっさと彼を自分のものにしてしまおう。

「ラズリー、君は僕の眷属となり、僕を支えて下さい。」

 ラズリーの目を見ながら、僕は手を差し出す。瞬間、僕の手を引っ込めようとしてくるジークハルトを睨む。今こそ本当に良いところなんだから、邪魔をしないで欲しい。
 同時に、ラズリーも目を逸らす。もしかして、僕の手はお嫌いですか?

 さっきは従者とか言いながら、次は眷属とか、自分でも支離滅裂であることは分かっている。だが、きっとラズリーはこの急展開に頭が追いついていないだろう。
 いや、追いついていないで欲しい。
 そんな混乱の中なら、僕から何を言われてもラズリーは肯定をするだろうという人権無視な思惑で、僕は彼を眷属にしようとしている。
 最初は互いの合意を得てから眷属にするとか言っていたが、僕はコミュニケーション能力が壊滅的に終わっているのだ。
 互いの合意とかを取っていたら、人類の寿命がきてしまう。

 ならば!!多少強引でも良いだろう!きっと。

「ぎょ、御意。」

 ラズリーは眷属という部分に疑問を感じたようだが、僕はさも当たり前のように言ったからね。騙されてくれたようだ。
 若干どもっていたが、快諾を得られたよ。
 ちなみに、ジークハルトは気に入らなかったようで、舌打ちをしている。もしや、唯一の眷属の立場を奪われたことに怒っているかも。意外とお茶目な部分があったんだね。

 強引とはいえ彼の合意を得た。それを持って、僕とラズリーの間には、眷属という楔が結ばれる。これは一種の強固な契約である。この契約の楔を元にして、彼を少しずつ精霊へと昇華させていこう。

「さて、お話をしようか。」

 強引にモフるために保護したラズリーを眷属にしたが、僕は彼の身の上を全く知らない。せめて、なんであんな砦に監禁されていたかは知りたい。興味本位でね。


***


「ふーん、災難だったね。」

「いやいや、災難てもんじゃないぜ。」

「おいお前、ラント様に無礼だぞ。その言葉遣いを直せ。」

 僕は、ラズリーと一緒にソファーに腰掛けながら、話を聞いている。ちなみに、ジークハルトは僕のそばに立って、ラズリーを睨んでいる。

 ラズリーは、依頼を受けて砦の調査をしに行き、運悪く捕まってしまったらしい。
 そして、憂さ晴らしに拷問を受けていたようだ。

 それにしても、ジークハルトは細かいことを気にするね。
 ラズリーは敬語を使う場面は使うようだが、日常的には使いたくないそうだ。まあ、面倒臭いからね。
 ただ、軽い口調はジークハルトの何かに抵触するらしい。

「ジーク、ちょっとお話しようか。ここ、座って。」

 僕は自分の隣のスペースを叩きながら、ジークハルトに座るように促す。

「失礼します。」
 
 素直に座ってくれたものの、近いね。確かに隣を叩いたけれど、そこまでぴったりくっつく必要はあるのか?
 ま、まあ、いいや。ジークハルトがラズリーの言葉遣いに毎度毎度文句を言わないように言い含めなければ。

「ジーク、ラズリーの言葉にいちいち反応しちゃダメだよ?分かった?」

 遠回しに言うこともできたが、それは面倒くさい。ならばと言うことで、言いたいことをストレートに言うことにした。

 案の定、肯定的な返事はこない。代わりに、歯軋りをしそうなほど嫌そうな顔をされた。
 どうしようかと思っていると、膝に重みを感じた。

「そうだぜ、お前もいちいちうるさく言うなよ。」

 僕の膝に頭を乗せながら、ラズリーは言ってくる。確かにそうではあるけど、それは火に油だと思う。

 これは、またもやジークハルトがキレる展開かなと思っていたら、そんなことはなかったようだ。
 
「おっとぉ~」

 ジークハルトの成長を実感していたら、僕の上半身は誰かに包まれた。
 顔を上げればそこにはジークハルトがいる。つまりは、僕を抱きしめたのはジークハルトだった。

 現在、上半身はジークハルトに抱き込まれ、僕の膝はラズリーによって占拠されている。体勢がきついですね。

 さっきから、ジークハルトはラズリーのなすことにたいこうするような
 これは、もしかしたら嫉妬かもしれないね。親を兄弟に取られた子供のようなものだろう。
 
 さてさて、嫉妬は放っておいてよいのか、すぐさま対処した方がよいのか、さてどちらだろうか?
 僕は誰かに嫉妬とかそれ以前の生活だったから分からない。
 いや、小説の中であったじゃないか。他者の嫉妬に気付かず、その気持ちがエスカレートし、最終的に心中されるやつ。

 おお、怖い。と言うことは、僕の現在の立ち位置は危ないと言うことではないか!!
 気づけてよかった。

 ならば、僕のやることは一つだけである!!

「じゃあ、後は若いお二人で楽しんでね?」

 僕はその言葉を合図にして、彼らの包囲網から脱出する。

「「、、は?」」

「ゴールは仲良くなることだからね?頼んだよ!」

 取り敢えず、最終目標だけは提示してあげよう。
 これにより、ジークハルトの中にある分別のつかない感情の整理ができるだろう。
 なんて良い主人なのだろうか?

 お前が二人の話を聞いて、解決に導くのではないかって?
 ノンノン。そんな面倒くさそうなことはしないよ。ただでさえ、感情は言葉でハッキリと表すことができないものなんだよ。
 付き合いきれないね。

 そんなこんなで、僕は次なる目標に向けて歩み出す。

「ま、待って下さい!!こいつと一緒なんて、イジメですか?!」

「おい、テメェ、それはこっちのセリフだ!!ラント様!!待ってくれよ!!」

 なんて言ってるから分からないが、早速互いに言葉を交わしているようだ。
 いい兆候だね!!
  

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない

時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。 通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。 黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。 騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない? ◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。 ◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!

BL
 16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。    僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。    目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!  しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?  バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!  でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?  嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。 ◎体格差、年の差カップル ※てんぱる様の表紙をお借りしました。

引き籠りたい魔術師殿はそうもいかないかもしれない

いろり
BL
騎士×魔術師の予定 

弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

BL
学校行事の途中。思わぬ事故で異空間を流されてしまった亜樹は、異世界へと辿り着き公子と呼ばれるべき立場の王子に保護される。 一方で亜樹の行方を追って地球から異世界へと旅立つ者もいた。 ふたりの出逢いは世界を揺るがす鍵になるか?

処理中です...