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How to 13
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夢と現の間をさ迷うJDを起こしたのは、聞き覚えのある笑い声だった。
煩いと言わんばかりに寄せられる、眉間の皺。遠慮深い主張を無視するかのように、また声がJDの耳に響く。
しばらく眠りにしがみつこうと抵抗を続けていたが、目蓋の方が先に限界を訴えた。
仕方なく視界を柔らかく包んでいた目蓋を、心地よい微睡みとごと払うように、押し上げる。
最初に目に入ったのは、見慣れた天井とちらつく光源だった。
判然としない思考を照らし出す目映い人工灯を見詰めていると、JDはようやく自分が座ったまま寝入ってしまっていた事に、気が付いた。
「おはよう、JD!」
JDはバネ仕掛けの玩具さながらの勢いで、立ち上がってベッドを振り返った。
反射的に懐に手が伸びるのは、職業病だろう。
たが、そこにはホルスターも頼れる銃器の重さの一つも、ない。
動揺を隠せないままのJDの目に、見知らぬ、いや、親しみすぎた顔が映っていた。
笑い声を上げた張本人であろう恋人───神を名乗る青年───は、ベッドの上からJDを見上げていた。
そして青年はJDと目が合うと、プリズムする虹彩を持つ双眸を、にやにやと意地悪く歪めてみせた。
「おはよ。この本さぁ、面白いな?」
ベッドの上を我が物顔で陣取る青年は、JDを悩ませていた本を無造作に掲げて、振って見せた。
バサバサと音を立てる雑誌のページには、男同士のあられもない姿が大判で印刷され、そこには『男体解体新書』『相手を満足させる100のテクニック公開!』との大見出しが、でかでかと記載されていた。
「死にたい」
JDは、思わず頭を抱えて蹲った。
後ろ頭に、青年の視線が突き刺さる。JDが思わずちらりと視線を向けると、青年の嫌味な程に形が良い唇がにやついて、余計に追い詰められる気分だ。
何の良い言い訳しようと口を開いても、結局は決まり悪く顔を横向けるだけで声の一つも上げられない。
無言を押し通して逃げ出そうとするJDに、青年は本をぞんざいに放り投げ自由になった手を伸ばすと、愛しい恋人の頬に触れた。
乾いた掌の熱が、じんわりと肉の内側に広がっていく。
こっちを向いて、と訴えかけるような熱心な温かさに、JDはのろのろと視線を正面に引き戻した。
クラックの入ったグリーンアンバーを思わせる、金色の虹彩が走る瞳が、ネオンのように輝く青年の目に照らされる。
こうやって見詰められると、青年の掛けるサングラスという薄っぺらい遮蔽物に、普段如何に助けられているか思い知らされた。
それぐらいJDにとって青年は眩しく、魅力的に見えた。
「なあ、何でこんなの読んでたワケ?」
もう一度、重ねて問いかける唇から漏れた吐息が、JDの唇を掠めた。
「なあ、JD……教えてよ」
視線を合わせたまま、青年は内緒話でもするかのようにわざと声を潜めると、ひどく甘い響きを伴って囁き掛けける。
この甘えた声に内在する強制力、それを全て計算に入れた青年の言葉は、全てを吐露したくなるような疼きを、内側に生み出す。
結局は青年に従ってしまう自分の諦めの良さを口惜しく思いながら、JDは口を開いた。
「……仕方ないだろ。男相手は初めてだし。自信無いし、折角なら気持ちいい思いさせてやりたい」
そう言いながらJDが顔を僅かに横向けたのは、この容赦の無い傲慢な青年に対する微かな反抗心と、JDの中にも僅かばかり在る、男性としての自尊心からだった。
それを、知ってか知らずか。
寧ろ、そんなJDが抱く煩悶さえも愛していると言わんばかりに、青年は顔の筋肉を弛緩させて、だらしなくにやつかせる。
「JDったら、本当に可愛いなぁ」
JDにとってその言葉は、ひどく羞恥心が掻き立てられるものだった。だが、そんなJDの感情は、次の瞬間吹き飛ばされた。
「大丈夫、俺が突っ込む方だから任せなさいって」
驚くと同時に、予期せぬ力がJDの身体に掛かる。
世界が反転して、ベッドのスプリングが起こす柔らかなを脈打ちを背中に感じた頃には、青年の端正な顔が天井を背負って、JDを見下ろしていた。
「は?ちょっ……待て、っ」
停止していたJDの思考が青年の言葉を理解した頃には、青年の唇がJDの声を奪うように重なっていた。
唇を割開き、弄るようにして巧みに絡みつく舌の生暖かい柔らかさに、JDの腕は何時しか縋るように青年の肩に回されていた。
煩いと言わんばかりに寄せられる、眉間の皺。遠慮深い主張を無視するかのように、また声がJDの耳に響く。
しばらく眠りにしがみつこうと抵抗を続けていたが、目蓋の方が先に限界を訴えた。
仕方なく視界を柔らかく包んでいた目蓋を、心地よい微睡みとごと払うように、押し上げる。
最初に目に入ったのは、見慣れた天井とちらつく光源だった。
判然としない思考を照らし出す目映い人工灯を見詰めていると、JDはようやく自分が座ったまま寝入ってしまっていた事に、気が付いた。
「おはよう、JD!」
JDはバネ仕掛けの玩具さながらの勢いで、立ち上がってベッドを振り返った。
反射的に懐に手が伸びるのは、職業病だろう。
たが、そこにはホルスターも頼れる銃器の重さの一つも、ない。
動揺を隠せないままのJDの目に、見知らぬ、いや、親しみすぎた顔が映っていた。
笑い声を上げた張本人であろう恋人───神を名乗る青年───は、ベッドの上からJDを見上げていた。
そして青年はJDと目が合うと、プリズムする虹彩を持つ双眸を、にやにやと意地悪く歪めてみせた。
「おはよ。この本さぁ、面白いな?」
ベッドの上を我が物顔で陣取る青年は、JDを悩ませていた本を無造作に掲げて、振って見せた。
バサバサと音を立てる雑誌のページには、男同士のあられもない姿が大判で印刷され、そこには『男体解体新書』『相手を満足させる100のテクニック公開!』との大見出しが、でかでかと記載されていた。
「死にたい」
JDは、思わず頭を抱えて蹲った。
後ろ頭に、青年の視線が突き刺さる。JDが思わずちらりと視線を向けると、青年の嫌味な程に形が良い唇がにやついて、余計に追い詰められる気分だ。
何の良い言い訳しようと口を開いても、結局は決まり悪く顔を横向けるだけで声の一つも上げられない。
無言を押し通して逃げ出そうとするJDに、青年は本をぞんざいに放り投げ自由になった手を伸ばすと、愛しい恋人の頬に触れた。
乾いた掌の熱が、じんわりと肉の内側に広がっていく。
こっちを向いて、と訴えかけるような熱心な温かさに、JDはのろのろと視線を正面に引き戻した。
クラックの入ったグリーンアンバーを思わせる、金色の虹彩が走る瞳が、ネオンのように輝く青年の目に照らされる。
こうやって見詰められると、青年の掛けるサングラスという薄っぺらい遮蔽物に、普段如何に助けられているか思い知らされた。
それぐらいJDにとって青年は眩しく、魅力的に見えた。
「なあ、何でこんなの読んでたワケ?」
もう一度、重ねて問いかける唇から漏れた吐息が、JDの唇を掠めた。
「なあ、JD……教えてよ」
視線を合わせたまま、青年は内緒話でもするかのようにわざと声を潜めると、ひどく甘い響きを伴って囁き掛けける。
この甘えた声に内在する強制力、それを全て計算に入れた青年の言葉は、全てを吐露したくなるような疼きを、内側に生み出す。
結局は青年に従ってしまう自分の諦めの良さを口惜しく思いながら、JDは口を開いた。
「……仕方ないだろ。男相手は初めてだし。自信無いし、折角なら気持ちいい思いさせてやりたい」
そう言いながらJDが顔を僅かに横向けたのは、この容赦の無い傲慢な青年に対する微かな反抗心と、JDの中にも僅かばかり在る、男性としての自尊心からだった。
それを、知ってか知らずか。
寧ろ、そんなJDが抱く煩悶さえも愛していると言わんばかりに、青年は顔の筋肉を弛緩させて、だらしなくにやつかせる。
「JDったら、本当に可愛いなぁ」
JDにとってその言葉は、ひどく羞恥心が掻き立てられるものだった。だが、そんなJDの感情は、次の瞬間吹き飛ばされた。
「大丈夫、俺が突っ込む方だから任せなさいって」
驚くと同時に、予期せぬ力がJDの身体に掛かる。
世界が反転して、ベッドのスプリングが起こす柔らかなを脈打ちを背中に感じた頃には、青年の端正な顔が天井を背負って、JDを見下ろしていた。
「は?ちょっ……待て、っ」
停止していたJDの思考が青年の言葉を理解した頃には、青年の唇がJDの声を奪うように重なっていた。
唇を割開き、弄るようにして巧みに絡みつく舌の生暖かい柔らかさに、JDの腕は何時しか縋るように青年の肩に回されていた。
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