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俺の店
しおりを挟む1ヶ月後。
ツェーン洞窟内。
「いや~、強くなったなあ」
恐る恐る触手突き刺し攻撃をしていた男の子SSたちだったけど、モンスターと戦い続け、レベルがぐんぐんあがったよ。
自信もつき、知能も高くなり言動が青年みたくなった。
倒したモンスターを食べようとはしない。
人間の食事のほうが美味しくて好きだってさ。
ひとりでモンスター退治できますよ、と言いだしたし、ポラリスくんもじゅうぶん強くなったので、だから洞窟のお掃除は、俺を除いた4名で6時間の交代制にしたよ。
そうすると俺が自由になり、本職(お魚屋さん)に専念できる。
店主の店も軌道に乗ってきたから、そろそろこの世界に自分の魚屋を出したいなと思ってたんだ。
日本人が長い年月を経て、培ってきた魚屋技術を試してみたい。
もちろん、この世界の人たち特有の味覚(好み)もあるので、アレンジしながらだけど。
しかし、いざ店舗探しとなると、これがけっこう難しい。
高い塀に囲まれたキキン城を含む内区域は、上流階級の住宅や老舗の密集地帯で、新店なんか絶対に出せない。
俺の住んでいる外区域の道沿いは、様々な店舗と住居で完全に塞がり空きはないし、ずっと郊外なら出せそうだけど、はたして客が足を運んでくれるかどうか。
奥まった場所の住居なら空きがあるので、魚屋店舗に改造して営業することもできるけど、隠れた名店になるには月日がかかるだろうね。
こうして見ると、魚屋店主の店舗は商店街にあるので、いつも購買客が通りを歩いていて、絶好の立地と思う。
「さーて。どうしたら良いんだろうか」
自分の店舗を持てた後の構想はたくさんあるんだけどなあ。
店内は魚を売るだけじゃなく、飲食スペースを設置して、刺し身や焼き魚、煮魚のイートインもやりたいんだよね。
だから売り場面積は、一般的なコンビニくらい、40坪(約132㎡)は欲しい。
さらに魚屋店舗に寿司屋も隣接させて、当日入荷魚で寿司の提供もしてみたいんだよね。
そうなると、2つ合わせて80坪(約264㎡)の土地が必要。
結局は立地だよね、問題は。
従業員についても悩みがあるよ。
ギルドで募集した若い従業員15名は、順調に育っているけど、店主の魚屋が予想以上に繁盛しちゃって、15名が週休2日でフル稼働しているわけ。
作業場が足りないから、店舗裏の小さな庭に作業場を設置し、そこで調理加工している始末。
ちなみに、店内が5坪(約16㎡)しかないから、大量の魚は店先の道路に突き出しの突き出しで売ってるよ。
もう魚屋と言うより、魚市場に近いかな。
早朝の開店と同時に、一般のお客さんにまじって、プロ(料理屋、居酒屋など)が買いに来るくらいだもんね。
かなり安く販売しているせいもある。
手の掛かる(作業に時間がかかる)刺し身や、骨なし切り身でしっかり儲けて、現魚(なにも加工しない仕入れたままの生魚)で安く売る。
いわゆる薄利多売。
魚屋さんの基本中の基本だね。
おっといけない。脱線しちゃった。
つまり新規で雇った15名のうち、将来の魚屋2号店(俺の店)に10名連れて行くつもりが、無理なんだよね。
むしろ、魚市場で大量買いした魚の輸送、每日たくさんのお客さんとの金銭の受け渡し(いわゆる接客)で人が足りないくらいだもん。
人材不足。
これも大きな問題。
もちろん、SSたちに手伝わせるのも考えたよ。
女の子タイプのSSの1匹にせがまれて、調理を教えたことがあるんだけど――。
5歳児には高すぎる調理台なので、地ビール箱を2つ踏み台にして小さめの包丁を持たせる。
もみじのような手に包丁は似合わないなあ。
「あれ、あたちも着るの。お服が汚れちゃうのいや」
前掛けだね。
大人用は大きすぎるので、油紙をエプロン型にカットして対応したよ。
「見ててね。まず鱗を丁寧に取り除くよ」
「うん♪」
指導早々に3枚おろしまで完璧にマスターし、隣りで刺し身を引いていた若者の見よう見真似で、刺し身を造っちゃった。
物覚えが良すぎるってレベルじゃないから!
しかも若者より見栄えが良いし、何より製造速度が早すぎる。
「できちゃった! キャッキャ♪」
「あたちもするー」
「じゃ、あたちも」
側で見ていたSSたちが割り込んできたぞ。
3匹が勝手に教え合って、どんどん刺し身を造っていくんだけど。
『もっと、ゆっくり造りなさい!』(ヒソヒソ)
言いたくもなるよ、隣にいた2ヶ月先輩の若者が、暗い顔して物静かに休憩に入っていくんだもん。
「できちゃったもんねー!」
「あたちも」
「簡単だよねー」
「「「ねーっ♪」」」
『止めなさいって!』(ヒソヒソ)
焦ったよ。
SSたちは戦力になるけど、5歳児が包丁をガンガン使いまくっている魚屋さんってどうなんだろう。
いっそ、モンスターを食べさせて大人サイズにし、顔を美人に造形すれば『美女の魚屋さん』で、評判になるかも。
5歳児は両親が見つかって、国に連れ帰ったことにすれば問題はない。
まあ、今直ぐ取り掛かることでもないか。
問題はいろいろ山積みだけど、理想だけは勝手にどんどん膨らむよ。
1階の魚屋店主に相談したら。
「なるほど。そりゃヒジカタさんほどの腕だったら、どこで営業しても大繁盛間違いないと思うぜ。
だが、手助けしてもらえなくなるから、俺としては痛いけどな」
ニカッと笑い、真鯛の姿造りへキュウリのあしらいを添えたよ。
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