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3章
おしまい
しおりを挟む「エロカターッ!! この魚、どうして食べたらいいんだ?」
「あ~、はいはい。ちょっと待ってね、カシさん」
魚屋1号店の作業場で、新人スタッフ3名に刺し身を教えつつ、別の作業台で大衆魚をSSSSレア速度で調理していたら、
売り子のカシアキさんが訊ねてきたよ。
ロアロク国の美人3姉妹は、健康になられたご両親共々キキン国で暮らしているよ。
ビンソンにレプリカンスタ化された人の病状も完治して、キキン外区にいるね。
カシアキさんは、病院の受付に就職した姉たちに『一緒に働こうよ』と誘われたらしいんだけど、断って、わざわざ俺の魚屋に住み込みで働いている。
カシさんは、コンパニオン級にスタイルが良く美人だから、
就職には困らないはずなんだけど、なんで魚屋さんなの?
まあ、お陰で、カシさん目当てで来店する男性客も多いから、嬉しいんだけどね。
カシさんが、昨日もらったラブレターが100枚目だと自慢して、読みもせず破り捨てたのには、もちろん注意したよ。
「ああ、鯛ね。どんな料理にしても美味いよ」
速効で店先に触手を移動させ、先端に眼と手を作成して、
カシさんが示す40センチメートルの鯛を吟味。
「うん。最高鮮度だね。上品な味の鯛は、あらゆる料理に向くよ」
「だそうだよイエシタ・ヒトミ。分かったらさっさと買って帰んな!」
「そうね。ヒジカタさんが、そうおっしゃるなら……」
げっ!
お客さんって、ヒトミさんだったの!?
慌てて新人さん教育と調理を中断し、ヒトミさんの前に瞬間移動。
「わっ、わわわっ!!」
「おっと、ごめん」
スタッフが崩れちゃった商品の手直しを始めたよ。
俺が急いで進むと風が舞うんだよね。
力加減がむずかしい。
「め、珍しいですね。ヒトミさんがお魚を買いに来るなんて」
キキン城に住み込みで働くヒトミさんは、城の料理を食べている。
生活全が内区で事足りるから、外区に出るのは、アハート秘書の仕事でしかない。
「ええ、今日は大切な日なんで……」
黒髪の21歳ははにかんで頬を染めたよ。
「……大切な日」
なんだろう。誕生日だろうか?
「はいはい。終わり終わり!
他にもお客さんが待ってるんだから、早く調理してよエロカタ」
カシさんに肩を押され、俺はやむなくまな板の前に立ったよ。
触手で包丁を握り、鯛の鱗を取り、注文通り3枚おろしに加工。
他のお客さん2人の注文も、別に作った触手で仕上げたね。
「……ワンダフルッ!!」
「ありがとうございます~」
俺が触手を出して調理する姿を見て毛嫌いするお客さんはもういない。
むしろ、勇者一族の技。
触手は神の手、とも勇者の手とも呼ばれ、観光客寄せの大道芸にもなっちゃってる。
因みに、外区のあるパン屋では『触手ロールパン』なる長細いパンを店先に並べ、
『食べると万病に効く』とか、『食べると強くなる』とか、適当な事を言って売っているよ。
余談だけど、キキン国の貴族の間で、
野生のスライムを捕まえてきて、ペットにするのが流行っているね。
ランちゃんの真似みたい。
どうでも良いね。
触手を水で洗って人間の手に戻し、ヒトミさんの笑顔に吸い寄せられるように瞬間移動したよ。
鯛の包みをそっと両手で大切に『はい、お待ちどおさま、ヒトミさん』とにこやかに渡そうとしたら――。
「はいっ! まいどー!!」
カシさんに包みをぶん取られ、片手でヒトミさんに突き出された。
「……あ、ありがとう」
「次のお客さんっどうぞっ!!」
お淑やかにお店を出るヒトミさんを新しく作った眼で追いつつ、俺はカシさんに追いたてられながら仕事を進めた。
「鯛か……、なんにするんだろうか」
大切な日……。気になる……。
ヒトミさんの仕事ぶりが、役人の間で高評価だと聞く。
洞察力が素晴らしく、気配りができる美人秘書だと。
ぜひ、息子の嫁に欲しい。貴族の誰かがそう言ったらしい。
「なに、ぼーっとしてんの!」
「わわわわ!」
「今夜は私が美味い飯作ってあげっから、もうひと頑張りしなよ」
「……ありがとう」
カシさんが俺の肩をニギニギする。
握力アップに丁度いいンだよ、と言うが、若い新人たちにはしない。
食後のコーヒーも、新人が自分の部屋に消え誰も居なくなってから、俺にだけそっと出す。
カシさん曰く、『なに、ちょうど飲みたくなったから、ついでにエロカタのも作ったまでよ。要らなきゃ、飲むな』だ。
一度だけ、カシさんに言ったことがあるよ。
なんで、恋人を作らないんだ、と。
そしたら、いるよ、とそっけない返事。
だったら、彼氏とデートすればいいのに、毎日魚屋さんで何が楽しいのか。
分からん、さっぱり分からんね。
続々と注文される調理をこなしていたら、ほんのすこし身体が引っ張られる感覚がした。
それは店先に立つ、スーツ姿のアハートさんから。
彼女に移植したSSSレア細胞が、俺の細胞と共鳴したのだ。
「ヒジカタさん。
折り入ってお願いがあり参ったのですが、営業時間が終わってからが宜しかったでしょうか」
現在アハートさんは、外壁建設の総責任者であり、キキン国の関税を取り仕切ってもいて超多忙だ。
お願いって、まさか、また、壁のお手伝い?
3ヶ月前だよ。
キキン外区及び農耕地一帯を、高さ20メートルの石壁で取り囲むキキン外壁20年計画だけど、
俺の分裂個体30匹が、工事を1日手伝っただけで計画の7割が完成してしまったよ。
個体の動きは見えない。
ただ強風が発生して砂塵が立つ建築現場に、30人で運ばないと動かないような巨石が、積み木遊びみたいに組まれてゆく。
北山やマナスル山から原材料(木材、鉱物)を発掘、伐採、運搬、加工してゆく。
50キロメートル以上にもなる外壁の基礎組がわずか1時間で出来上がり、
棒立ちになっちゃった職人たちの横を、
「きゅーきゅー♪」
アゲハチョウを追いかける青ちゃんと、見ている外見5歳児メイド姿のランちゃん。
「おお! 勇者さまの技でございましたかッ!!」
「青ちゃん。蝶がスキなの」
「青さまと遊ばれている間に、ここまでやってしまうとは……」
「まさしく、勇者様」
「いや、神様だ」
「おなかすいた」
「……、……」
噛み合わない会話を、職人たちは、
往々にして、天才や超人は、我々凡人と思考が異なるものだと、勝手に解釈してしみじみ納得。
深く頷き頭を垂れたね。
「流石すぎる、ラン様」(ヒソヒソ)
「自慢して当然なのに……、この堂々たる振る舞い」(ヒソヒソ)
「おお! これは私どもの弁当ですが、よかったら」
「良いの? 悪いね」
「いえいえ! ランさまに食べて貰えてむしろ感激です。
この弁当箱は我が家宝にしますっ!!」
職人が言い終わる前に、弁当の包みごと吸収溶解しちゃったランちゃん。
ニッコリ笑って。
「あ、そう?」
「……、……」
「おいちいねー」
まあ、とにかくだ。
外壁計画にかかる時間とお金が大幅に削減され、アハートさん、国王と言った役人さんに喜ばれ、俺も嬉しかったけど、
逆に下請け、労働者の仕事を奪った形になり、気持ちは微妙。
もう、人間離れした仕事は、自分の魚屋でしかしないと心に決めたんだけどね。
もちろん、ランちゃん人気は更に上昇したよ。
「あら、まあ、これはこれはお役人さま。
うちの店主になにかあるなら、私が受けますよ」
カシアキさんが割って入ったよ。
「うちの店主……」
「そう、エロカタは、うちの店主ですけど、なにか?」
ピリピリした雰囲気なんだけど。
居心地悪いんだけど。
こっそり逃げ出したいんだけど。
◆
営業が終わり戸締まりをして、作業場の掃除も終えた。
いつもなら、雑談や商売の会話をするスタッフが、早々と食堂に上がって行ったよ。
俺も追おうとしたら、カシさんがコーヒーを持ってきた。
せっかくだから有難く頂き、遅れて食堂に入ると拍手が湧いたよ。
部屋の壁には色紙で作ったリングやリボンが飾られ、中央のテーブルにはケーキやお菓子、スープや七面鳥の丸焼き、にぎり寿司や鯛の姿造りなど豪華食事が並べられている。
SS1期生と2期生、ポラリスくん、青ちゃん、コウくん、魚屋スタッフの面々が、コップを持って俺を注目していたよ。
「どうした、みんな……」
「今日は記念日だから」
ヒトミさんが微笑んて、俺に歩み寄るよ。
「そうです、ヒジカタさんにお願いする日」
アハートさんもニッコリして俺に向かい前進。
「この幸せもンがぁ♪」
カシさんが俺に蹴りを入れたね。
「いや、いや、全然分かんないんだけど、俺」
美女3人に囲まれちゃってますよ。
かなり接近してますよ。
「今日はヒジカタが、3人と結婚する日だよ」
ランちゃんがそう言って、七面鳥にかぶりついたよ。
「……は? け、け、結婚……。俺が……ですか。
聞いてないんだけど」
「そりゃそうだ。言ってねえもン」
「3人で決めた事ですわ」
「奴隷だった私で、良いのか不安でしたが、ヒジカタさんのお気持ちが分かったので、結婚を決意しました」
「いや、そもそも、3人と結婚なんて出来ないでしょ」
「一般人はね。王族や貴族、王が認定した者は別。
キキン国王のおっさんが、何人もの嫁とパコパコやってんのか知ってんだろ」
「俺は、魚屋さんで、国王じゃないんだけど……」
はっ、とした。
「王が認定した者……」
「はい。キキン国王に認定を頂きました。これがその書面」
アハートさんが差し出した文書には、キキン国王直筆で、
『ヒジカタさん、重婚していいよ』と書かれていたよ。
なにがどうなっているのか、混乱して。
「「「……ぷち」」」
キスされました。
3人から。更に混乱。
「ヒジカタさん……これからもどうぞ、よろしくおねがいします」
深々とヒトミさんが頭を下げたよ。
「細胞を共有しているので、あれの相性は良いかと思うわ」
少し顔を赤くしたアハートさんが言い終わって、そっぽを向いたね。
「フン! 6ヶ月一緒にいても、触っても来ない根性なしだが、
私が仕込んでやるよ、あっちのほうは!」
ニカッと歯を見せて笑ったカシさんが、俺の股間を鷲掴みしたぞ。
「や、止めてください……って!」
「触手はすげーけど、こっちは頼りないな。あはははは」
小さいのがバレちゃった。
「「「「「おめでとー!!」」」」」
「「「「「おめでとー!!」」」」」
乾杯が始まり、みんなワイワイ騒ぎながら食事が始まった。
俺の両隣にヒトミさん、アハートさん。
直ぐ前にカシアキさんが陣取り、俺の口に食べ物を突っ込んでいるよ。
「あ~、言っておくけど、俺の染色体が人間のと合わないから、子供は絶対に出来ないんだけど」
「わかってる。構わねえよ」
「承知の上ですわ」
「大丈夫です」
うーん。分からない。
分からないなあ。
まあ、いいか。
いいよね、俺すごくラッキーだけど。
「これも運値が高いおかげだったりして……」
嬉しいけど、悲しい。
「ちげえよ!」
とカシさんに、ほっぺたを引っ張られ、
アハートさんが大きくため息を吐いたよ。
「なんでも、他のせいにしてはダメ。
ご自分を信じて、ヒジカタさん……」
「「「「そうだ、そうだ」」」」
みんな、みんな……。
ありがとう。
ありがとう。
おしまい
~ あとがき ~
この長いお話しを、最後まで読んで頂き、心から感謝いたします。
本当にありがとうございました。
異世界で日本の魚文化を広める、魚屋さんを増やす、というヒジカタ本来の想いは叶えていませんが、本作品は、これで一旦完結させていただきます。
今後は、更新停止している他作品を書いてゆく予定です。
全てが完結した後、仕事プライベート共に余裕が出てきたら、本作品SSSスライムの続きを書いてゆこうと思っています。
その折には、よかったら、読んでみてください。
では、また。
草笛 あたる
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わる13さん、コメントありがとう!
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Kさん、コメントありがとう!
楽しんでくれて、嬉しいですよ