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3章

6ヶ月後 

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 6ヶ月後、キキン国。

 スーちゃんが店主の『スーちゃん寿司』は仕事帰りの男性や、内区のご婦人さんたちで賑わっているよ。
 若いカップルがデートで来たり、順番待ちのお客さんが長い列を作っているね。

 お客さんの半分以上が常連さん。
 酢飯を使用した《にぎり寿司・巻き寿司》が受け入れられているよ。

「ワサビの刺激がたまらんわい!」
「この鼻につ~ん! が良いの~」

 病みつきになっちゃったワサビマニアも増殖中。

 スーちゃん寿司以外にも、俺たちスライムが出した寿司屋はキキン国外区に2店舗、内区に3店舗、ロアロク国に3店舗。
 いずれも好調に売上を伸ばしている。
 今後はヴァーチェ国や、エインシェントたちに寿司を食べさせたところ、好評だったので、ツェーン迷宮最下層にも出店しようかと構想を練っているよ。
 
 俺の本業・お魚屋さんも大繁盛。
 現在キキン国に3店舗営業中。
 朝から鮮度のいいお魚を求めてお客さんが殺到しているよ。
 
 俺たちがスライムだと発覚したあの時と比べたら、今は真逆だね。

 

 実は6ヶ月前。
 最下層から地上に戻った直後なんだけど、
 収納庫に入れていた眷属化エインシェント3匹を、建設中のキキン外壁より内側に登場させたわけ。
 地上だとエインシェントはワイバーンタイプで全長200メートル。人間タイプでも20メートルと巨人だよ。

 突然出現した竜人3匹が地響きをさせながら、ヒジカタに戻った俺に近寄って跪いたよ。
 静かに「ご命令を」と言い、沈黙しているだけなのに、
 キキンの民は逃げ惑い、自衛軍も名衛軍も対抗できず戸惑うだけ。
 
 まあ、でかいから仕方がないんだけどね。
 
「はい。じゃ、さっき言ったこと、キキンの民に話してみてよ」

「御意」

 彼らを連れてきたのは、キキンの住民に、今までの経緯と、ツェーン迷宮がどういった物なのかをエインシェント本人の口から説明させるためだよ。
 俺が何を言ってもキキン国王も民も本心から信用しない、そう思ったから。

 巨人の長い話しを聞き入るキキンの民。 
 決めてはランちゃんの一言だった。

「……お手!」

 20メーターの巨人が話しを中断し、ギロッと5歳児を睨む。
 右手がランちゃんに向かって落とされた。
 だけど、直前で開かれて、お手。
 本当にお手をしたのだ。

 眷属化すると、俺に限りなく近い生命体の命令もきくみたい。

 ランちゃんは青ちゃんを連れて巨人の手に乗る。
 上げてっ! の一言でランちゃんは天高く上昇し、頭髪をなびかせた。
 3体の巨人に囲まれ、上空からじっとキキン城を見据えるその姿は神々しくもある。

「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」」」

 遠くで見守っていたキキンの民からどよめきが上がったよ。

 更にランちゃんが、5歳児から一瞬で青いスライムに変化。

「「「「「「…………、…………」」」」」」」」

 キキンの民が一斉に絶句したよ。

「あ……蒼き……勇者だ……、……巨人を操りし蒼き勇者」

 誰かがそう言った。

「蒼き勇者だって?」
「あの言い伝えの?」
「キキンに古くからある」
「そ、そうだ……。まさしく蒼の勇者じゃないかッ!!」
「道を開けよ」

 騒ぎ出した人混みから、ボロボロの衣を纏った老婆が歩み出て杖をかざしたよ。

「蒼きモンスターを連れし蒼き勇者が天から舞い降りて、ツェーン迷宮を鎮め、キキンの民を導かれる……やはり、伝説は真であったか……」

「「「おおおおおお!」」」

 そんなナウシカみたいな言い伝えがあったんだ。

「ラ、ランさま……ついて行きます、一生」
「……ご立派になられて……」

 ランちゃん信者が涙を浮かべているんだけど。


 ◆


 ランちゃん勇者がツェーン迷宮のボスエインシェントを倒し、キキン国を救った。
 俺たちビトスライムは、勇者一族なんだって。 
 キキンの民が、勝手にそう呼びだしたね。

 因みに現在眷属3匹には、ツェーン迷宮から出て来たモンスターを追い返す仕事を与えている。
 ツェーン最強の彼らに、敵う者はまずいないからね。
 それに2期生たち20匹には、キキン国周辺の森林パトロールをさせている。

 そんな感じだから、キキン国の治安は非常に高いよ。
 ここ数ヶ月、モンスターを見た人は居ないんじゃないかな。
 
 更に、キキンの国旗デザインだけど。
 2羽の鳥が左右に飛ぶシンボルマークに、
 しずく型スライムを加えようという案まで出ているよ。
 
 中央の2羽の鳥を、青いスライムが伸ばした触手で取り囲む。
 2週間前、キキン国宝画家が見せに来たラフスケッチはそうだったね。

「いや~、何百年続くキキン国旗をですね、わざわざ作り変えるなんて、ちょっとどうです?」

「国王と、国民の要望が強くて」

「はあ……」

 そうなんだ。
 
「国会会議で本決まりしたら、ポラ便で連絡しますので」

「はい」

 ポラリス郵便。
 通称『ポラ便』

 4ヶ月前。
 アイテム収納庫に入れたまま、すっかり忘れていたサキュバット一族を全員外に出したね。
 と言うのも、殆どのモンスターは空を飛べない。
 飛行できる彼らは、運送業が最適と思ったからね。

 最初、彼らは驚き抵抗したけど、分裂個体で取り囲み状況を説明。
 ポラリスくんが中心(社長)となり、運送会社で人間と関わり合う生き方はどうだろう。
 戦って食うだけの社会より、人間と対等に共存してみないか?
 そう説得したところ、快諾。

 アハート事務所と俺が仲介し、国王に運送業の許可を得たよ。
 今では、キキン国とロアロク国の主要地に30店舗を設けている。
 今後、マナスル大陸全域と周辺諸国にも支店を開設予定だ。
 
 ちなみに、俺たちの店舗の商品配達もやってもらっているよ。
 各ポラリス支店の店先と宅配ボックスに、
 獲れたての魚、刺し身、寿司各種の宣伝ビラと注文用紙を配置。
 
 一番人気は、にぎり寿司だね。
 各地から予約注文が続々と入ってくるよ。
 もちろんクール便で配達。

 各地に俺たちの商品が行き渡る。
 嬉しいなあ~。
 

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