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3章
外界
しおりを挟むエインシェントの体内で、俺と仲間のカプセルを、しずく型から先端がドリルのロケット型に変更したね。
がら空きになった天井目掛けエインシェントをぶち当てる。
飛び散ったエインシェントの肉片の中から出た俺たちは、先端のドリルを回転させ、天井の石壁に穴を開けたよ。
俺のSSSレア細胞を硬質化させて作ったドリルで傷つかない物質は、まずない。
全員がキュイィィーンッッ! と石粉を撒きながら天井に入り込んでゆく。
さっきから見ている俺のステータス表には、消えたスキルの表示はない。
完全に外に出ないとダメなのか。
あと少し。
もう少しで外界だ。
フルスピードで石壁を掘り進むこと約3メートルだ。ピキッと走った僅かなヒビから光を感じたよ。
よっしっ!! と心中でガッツポーズ。
最後に残った薄い石を壊し、眩しい光を全身で浴びた。
「フィニッシュだっ!!」
「「「「わ~~~~~~いっっ!」」」」
遠くに見える緑の木々。直ぐ側には薄紫の花々で整地された庭園。
見える地上そっくりな風景に、仲間全員で喜んだ。
だけど、ぐっにゅ~~~~~~っ!!! とゴムのような感触がしたよ。
膜だ。
透明な風船のような膜。
スキルは依然として表示されていない。
構わず全員で突っ切る。
極薄の膜を10メーターも伸ばしたが、それでも破れない。
触手刀で乱切り、突き刺し、細胞溶解。
SSSレアスライムの攻撃力でも貫けない膜なんて。
まるで、ツェーン迷宮の入り口や、各階層を繋ぐ通路に張られた結界膜のようだ。
俺たちは、膜の反発力で遺跡に引き戻されてゆく。
前方の上空に、三角帽子を被ったリトルデーモンの姿があったよ。
小さな身体は透き通っていて、ビトくんに亜空間へ突っ込まれて直ぐに、戻って来たみたい。
俺が心配だったのか?
余計なことを……。
リトルが頑張ったからと言って、どうこうできる局面じゃないのに。
もごもご、呪文を唱え、ストローみたいなフォークを振ると、空中に3メーター☓3メーターの立方体の水が出現したよ。
直ぐに砕けて水が俺たちに降りかかる。冷たい。
炎を浴びて溶けかかる俺たちの身体を、せめて冷やそうと――。
ありがとう、リトル!
言葉が届いたのか、リトルが、えっへん! とフォークを掲げ笑ったよ。
「どうしたら良いの、お父さんっ!!」
「出れないよ~~っ」
「ムッキーッ!!」
この膜はどういった性質なんだ?
テロップの解答は――――。
物理攻撃不可、その他攻撃不明
だったら、俺にこの膜を破る手段はない。
引き返し、SSSレアエインシェント・オボスが陣取る通路からでしか、外に出られない。
オボスが直接攻撃に参加しない理由が分かったよ。
自分と戦わないと。
戦って勝たないと出れない仕様なんだ。絶対に。
仲間諸とも死亡。
ヒジカタ一族は、ツェーン迷宮最下層で活動を終える。
そうなら、そうで良いよ。
良いじゃないかよ。
腹をくくって、みんなでオボスをぶっ倒そうじゃないか!
「よーし、行くぞみんな!」
◆
「「「「「「えええええええええっ!!」」」」」」
あのなあ、みんな。
全員、俺の細胞包装に入っているので、俺が思うように動かせるんだけど。
「怖いよー」
「お腹すいた」
「オシッコしたいの」
などと言われ、流石に俺の意気込みは消沈。
「てか、そんなヒマは無いんだけど」
相談する間もなく、俺たちは引き戻された。
開けた穴から出ようとしたら、エインシェントに爆炎を撃たれたよ。
慌てて穴に戻る。
出るに出れないんだけど。
やまない爆炎で石壁が熱せられ、穴の中は高温調理器の中みたいに熱い。
このままだと、ほんとに全滅だ。
何もせず全滅だけは避けたい。
咄嗟に思いついたのは、
俺そっくりの分裂個体を穴から数匹出し、部屋を彷徨わせる囮作戦だ。
エインシェントが個体を攻撃している隙に、俺たちは出口を目指す。
オボスを無視して、一斉に全員が駆け抜ければ、たぶん何匹かは外に出られると思う。
仲間と話し合う時間はもうない。
とろとろに溶けかかっている分裂個体を8体壁に添って走らせたよ。
案の定、エインシェントの注目を集めてくれている。
「よし、いくよ!」
「「「「なにが?」」」」
「説明はあとでね」
ビュンッッ!!
と最後の力を振り絞り業火の中を駆け抜けた。
途中、やむなく、3匹のエインシェントを倒してしまい。
後はもう、1匹も殺せない。
殺すのなら、オボス。
オボスを倒して俺の活動を終えたい。
目前のオボスまであと僅か。
ヤツの足元、両サイド、天井、とにかく多方面から同時に通過すれば、全滅はしないと思う。
突然だった。
俺の思考が、僅かな隙を生んだのだ。
1匹のSSエインシェントが青ちゃんの入った個体を足で掴んだのだ。
「よっしゃー!」
握り潰されそうだ。
覆っていたSSS細胞を糸状にし、その両足首に巻きつけて切断した。
だが、エインシェントの足から抜けれない。
握力が加わったままだ。
加えて鋸輪波まで放ってきたよ。
仕方がない。
戦士の両翼両足を切断し、死なない程度に瀕死にした。
青ちゃん個体が自由になる。
戦士の生命力値が『29』で停止しているのを確認し、オボスに向かおうとした、その時だよ。
「青ちゃんの仇――っ!!」
ランちゃんが叫んだよ。
強引に俺のカプセルから触手を突き出し、その隙間から抜け出て、動きが鈍くなった戦士に向かい突っ走る。
「ちょっと、ランちゃんランちゃん、ストップ!」
青ちゃんは死んでもない、ただびっくりして、硬直しているだけ。
「きゅーきゅー!」
「ほら、青ちゃん生きてるって!」
聞こえないのか、ランちゃん(レベル30)は触手を出刃包丁に変え、エインシェントに突き立てた。
「やった! 会心の一撃だ!!」
ランちゃん触手でガッツポーズ。
SSレアエインシェント
生命力 0
「……いや、その……、ラ、ランちゃん?」
「どうしたのヒジカタ?」
「いや、まあ、いいけど……」
もう、遅いけど。
流れ込む経験値。
レベルアップ・ファンファーレ。
ステータス画面には、無情に思える『レベル30』の文字が表示されたよ。
オボスと戦う前に活動停止とは。
ツイてないんだけど…………。
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