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3章

千兆

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 どこからだろうか、天井からでも廊下からでもなく、微かな声が聞こえてきた。

『大番狂わせだ』
『わたし、大逆転ッ!!』
『まさか、全滅って……』
『――は、どうなってる』
『次は誰が出る』
『オボスかしら』

 SSたちはせっせと消化吸収に勤しんでいて、何も聞こえていない。
 俺の、SSSレアスライムの聴力で、ぎりぎり拾える野太い男の声と、女性の声も少し。
 この世界・最下層を支配する種・エインシェントたちの会話だろう。
 何処からか俺たちを見ていやがる。
 
『やめろよ、――ならないから』
『おお、やっぱり』
『大丈夫か? ――成立しないだろ』

 ならない?
 成立しない?

 聞こえない単語がある。

 しかし、いったいどこから、俺たちを見ているんだ。 
 監視カメラのような物が部屋の何処かにあるのか。
 何故、襲ってこない。遊ばれている嫌な感じ。無性にイライラする。

 まあ、良いよ。それならそうで。
 早いとこ分裂個体を作って逃げ道を探そう。
 どうやって地上にもどるかを考えないと、集中しないと。

 焦る心を落ち着かせ、6つの廊下それぞれに個体を飛ばした。
 すると、6つの個体の視界と意識が、高熱を感じた途端プツッと途切れた。
 地上で分裂個体が焼き消された、あの時と全く同じ状況、同じ感覚。

「どうちたの、パパ?」
「ヒジカタ、なにぼーっとしてんの」
「どうされました、お父さん?」
「個体、帰ってきませんね」

「賭けだ……」
 
 聞こえなかった単語が『賭け』だと今知った。

「?」

「地上で遊んだときは、居なかったな、キミは……」

 突然正面の真っ暗な廊下から、声が届いた。
 この部屋には、俺たち以外誰も居なかったはずなのに。
 揺れる松明の光を受けて、石床から30センチメートルほど浮いている身長180センチほどの人間タイプが1体。 
 モンスターと呼ぶには、人間らしい顔つき体つき。
 悔しいけどイケメン。耳にピアス、爽やかなポロシャツにジーンズ姿。
 5本指の素手。武器らしい物は無く、さっきの戦闘員とは真逆。
 ただ1本、脚と同じサイズの尻尾があり、
 頭上に浮かぶ半透明なステータスウインドウには、

 ~ SSSレア・エインシェント LV 48 ~

 と表示されていた。

 20匹のSS2期生たちが、俺の後ろに飛び退いてトゲトゲのスライムになったよ。
 トゲトゲのトーテムポールが5連4つできた。

「ゼロ階層の覇者ヒジカタさんとその一族。
 断りもなく、キミたちを招待した。まずは、心からお詫びをさせてもらう」

 深々とお辞儀をしたよ。
 ランちゃんを始め、SS一同が、スライム目をまん丸にしたよ。

「ヒジカタさん。私の名は『オボス』
 どうかな、私は。キミたちの好みを反映した姿にしたのだが」

 低音の心地よいボイス。

「ああ、私のレベルかな?
 ご覧の通り、長く生きたわりにはまだ、こんなところ」

 こんなところ。
 こんなところ、と謙遜するわりには、
 オボスと名乗るエインシェントの生命力値は、俺の10桁『億』に対し、16桁『千兆』。
 驚異的と言うか天文学的数字だけど。

「ここはレベルが上がらなくてね。
 それに比べ、ゼロ階層は上がりやすい。
 様々な生物が棲息し、科学の進歩も著しい。
 結界が弱体化したお陰で、初めてゼロ階層に行ってみて驚き、そして素晴らしさを知った。
 ゼロ階層なら、私の一族も更なる繁栄が約束されよう」

「……、……」

「そこで、エインシェント一族は、ゼロ階層移住を決めた。
 この案件は、会議でも全員一致で可決された。
 どこで、まずはゼロ階層覇者ヒジカタ一族を招待しようではないか、と言うわけだ。
 ご理解したかな」

「あのお…………、オボスさん?」

「おお! 知能が高いのに、返事をしないので、怒っているかと心配だった。
 なんだろう。なにか質問があれば気軽に言ってくれ」

「はあ…………。
 あのですね。招待って……、その、あの、さっきの戦いがですか」

「うむ。
 私の一族とヒジカタさんの一族。
 ステータス値で既に勝敗は決しているが、実戦しないと分からない。
 そこで、復活光線をつかい招待戦闘をしたまでだ。
 予め趣旨連絡をすべきだったかもしれないが、知って戦うのと、知らずに戦うのとでは、本気度が違うと思い、こうなった。
 だが、まさか精鋭10人が、ヒジカタさんに瞬殺され、しかも吸収されるとは意外だった。
 国民も観衆者も驚いているぞ」

 なんか、俺たちが悪者に成っちゃってるぞ。

「ヒジカタさん一族の強さは分かった。
 さて。どうだろう、ここは正々堂々と殺し合いで決めようではないか、ゼロ階層の所有権を」

「……は?」

「どうされた」

「いや、所有権……って……」

 知能が高いから、もしかしたら、平和的に会話で解決できるかも、と期待していたけど、
 なんで『正々堂々と殺し合い?』をするわけ。
 感覚おかしくない?
 まあ、そもそも、SSたちをさらった挙句、エンドレスバトルを強要する連中相手に、平和を期待した俺がアホなんだけど。

「いや、あのですね。
 そもそも、地上、ゼロ階層ですけど、俺に所有権はないですし、地上を私物化もしてないですよ」

「なんだと!
 私の知らぬ、ヒジカタさんより更に強い一族がいるのか!
 むむむむむ…………」
 
「いや、そうでなくて――――」

 俺は自分の考えを交えて地上の暮らしを、一番多い人間という種が平和的だと言う事を、分かりやすく説明したよ。
 そして、エインシェント一族が、ゼロ階層(地上)に移住希望。
 移住という言葉の意味に、最悪な状況が過ぎったけど。
 殺し合いで決める、と平気で言い切るイケメンに無駄だと思ったけど、
 それでも、ダメ元で、以前1層目の覇者・サキュバットにも勧めた『人類との共存』を、
『平和』を強調して話してみた。
 平和だから科学が進歩するし、文化も栄えるとも添えて。
 
「…………ヒジカタさんの話しだと、ゼロ階層は、最弱一族人間が最も数が多く文化も栄え、最強一族ヒジカタさんが戦わずして、まさかの同居? 
 魚屋家業をして人間の食文化繁栄をサポート?
 それで、私たち一族もそれに習えと?」

「……いや、そのお……」

「……ふふふふふふ…………あっははははははは」
 
 高笑いする顔が、人間の骨格から爬虫類系に変化してゆく。
 SSたちが再びトゲトゲ・トーテムポールに。

「弱者が栄えた文化や科学は、弱者のためにあるもの。
 平和は、世界を勝ち取った一族が、後々に広めれば良い。違うか、ヒジカタさん?」

 うむむむ。
 返答に困るなあ。

「さあ~、始めようか。最強一族同士。
 復活光線なしのバトル。今度は私も参加させてもらうよ」

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