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3章
天使の輪
しおりを挟む生き返りだよ。
SSたちは死んでも死んでも黄色い天使の輪が降ってきて、生き返る。
レベル、ステータスのどれも、殺される前と比べ変化なし。完全復活だ。
こんな現象、今まで見たことがないよ。
もちろん、エインシェントも無傷ではないよ。
スライムに腕を飲まれたり、触手を躱せず串刺しにされたり。
だけど、緑色の血を吐き、崩れるエインシェントの表情は、――独特な爬虫類系フェイスは、人間に比べ、微妙な喜怒哀楽が読み取りにくいけど、
それでも、少なくとも、彼らは苦悶ながら微笑んでいるように思えた。
エース渾身の触手突きが、SSレア・エインシェントの右ふくらはぎを貫通した。
触手は真横から枝切りされたものの、貫いた触手がエインシェントの脚内に入り込み、筋を破壊した。
一気にバランスを失い、膝から砕け落ちたエインシェントが、ためらいもせず、自らの長剣で右膝を切断したよ。
脚内で暴れるエース(分裂個体)を狙ったわけじゃない。
分離だ。
もたもたしていると、分裂個体が腿から内蔵へ伝い、心臓を破壊されたら終わりだからだ。
ブッシュ――ッッ、と切断面から吹き出す緑血をそのままに、片頬で笑ったエインシェントが打ち下ろした剣の腹で、切断した脚を飛ばし、
ズズ、……ズルリ……、と失った脚を再生させ始めた。
いつの間にか、エースが個体を分裂させ操れていた事に驚いたけど、
それ以上に、人間化したエインシェントの戦いぶり、――熟練した戦闘に驚いた。
いや、熟練のひと事では片付けられない何かが、ヤツらにはある。
「…………よしッ!」
自らカツを入れたエース(本体)が、ハイスイードで弧を描くように石床を這い、脚製造中のエインシェントの背後に迫った。
人間タイプ、2足歩行タイプの生物は骨格上、後ろからの攻めに弱い。
片足を失い、俊敏性を落とした今なら――、
数ヶ月、人間化し人間と生活したエースだから、今がチャンスと判断したのだ。
ところが、エインシェントの頭部が180度反転、
肩、背関節あたりから鈍音がゴキッゴキッとしたかと思ったら、敵戦士の前と後ろが反転し、接近するエース目掛けて長剣が振り下ろされていた。
はやい……っ!
人間の眼では捉えられないエース本気の速度より、更に早い身体構造変化と剣速。
エースは刃を避けきれず、真っ二つにされた。
あっさりと、いとも簡単に。
2つの半欠け細胞は、つーっ、と石床を滑り、脚を全快した長剣使いの両サイドをそれぞれ追い抜いて力なく止まった。
動かない。
床に落ちたゼリーみたいにピクリとも。
核が傷つけば活動停止(死亡)。
エインシェントは爬虫類特有の尖った口から細い舌を伸ばし、2、3回舐めた。
2つの停止細胞に眼をやりながら、不敵な笑みを浮かべ、片膝をつき立ち上がる。
勝ち名乗りだろうか、天井の復活光の依頼だろうか、エインシェントが仰いで手を上げた瞬間だった。
足元から注意が消えたと同時に、2つのスライム細胞が垂直ジャンプしたよ。
慌てて飛び退いた戦士だったが、接着に成功したエース(細胞)は身体を薄く広げ、鎖帷子の隙間から体内に侵入した。
数秒間もがき苦しんだエインシェントだったけど。
「……、な……なるほど……のう……、その手があったわい……」
そう嬉しそうに言い残し、緑血を吐いて仰向けに倒れた。
ステータス画面の、生命力の数字が一気に下がってゆく。
やがて、エインシェント・人間タイプの胸部が山形に盛り上がってゆく。
徐々に大きく、大きく膨らんで、
「…………ほう……やりおるな」
「……うむ、見事」
「流石は、ゼロ階層覇者」
「強い種だ」
戦闘中のエインシェント側から、関心とも、賞賛とも、とれる発言がちらほら上がった。
生命力値を『0』にしたエインシェントの胸が弾けた。
噴血と共に突き破り、顔を覗かせたのは、映画『エイリアン』のワンシーンを思わせるようなエースの触手だった。
ずるり屍から抜き出たエースは、シュタタタタ、とウパールパー走りで、床で蠢く分裂個体を回収し、仲間の元へ戻ったよ。
遅れて膨大な経験値が加算され、エースがレベル上限の30に到達し、
俺のテロップには無情にも、活動停止に近づく――死亡カウントダウン――、レベル『28』のアナウンスが流れたね。
「お、お父さん!」
エースが叫ぶ。
「助けに来てくれたんだ! わああ~ん」
「「「きゅーきゅー!!」」」
SS2期生たちが俺に群がったよ。
ポラリス君、ランちゃんたちも。
「どうなってんだ、エースよ、ジンよ。
どうして、ここにいるんだよ、ツェーン迷宮最下層なんかに?」
「最下層?」
「ツェーン迷宮?」
「ここは、地上じゃないの?」
「なに言ってるのヒジカタ、あたしら、気づいたらココにいたんだってー」
「そうよそうよ」
みんな、気づいてないのか!
俺の予想が的中したかもしれない。
強制転移――。
知らぬ間に転移。
「転移って、えーと?」
「瞬間移動みたいなものだよ」
「へーっ」
「そういや、ここに来る前、頭の上のほうが捲れたよ」
「あ~、そうそう、あたしも空中に黒い線が浮かんだっけ」
「ヒジカタのアイテム収納庫の投入口みたいに、黒かった」
間違いない。
亜空間移動だよ。
リトルや、レプリカンスタの技をエインシェントが使った。
そう考えるのが正しい。
それに、この急激なレベルの上がり方は異常だ。
SS2期生たちがレベル20で、
SS1期生たちは……全員30レベ……。カンストか。
そりゃそうだろう。
エインシェントを倒せば膨大な経験値を獲得する。
加えて、死んでも生き返るRPG状態。
レベルがどんどん上がって当然。
でも、だけど、SSたちには悩みはないね。
俺みたいな。
レア度『SS』以下は、30レベ以上にならないだけで、活動可能だから。
いや、まてよ。
そうだよ。
もしかしたら、ここなら――、
この復活光線がある遺跡内なら、
俺が30レベに成ったとしても――――。
微かな望みが、希望の光が差し込んできた。
~ 上限レベルについて ~
SSSレアスライム レベル30以上活動不可 全機能停止
回避不可 外的要因受けない
SSSレアスライム特典
訊ねてもいないのに、ダメだと返答しやがったけど…………。
やがて、黄色復活光線を浴びたエインシェントは、5秒後、深緑色の両眼を開けた。
「フフフフ…………殺られたわい。殺られたわい。……だが今度は違う……」
そう苦笑いして言い、両足の屈伸だけでヒョイと立ち上がり、両腰に挿していた短剣を抜いたね。
剣の腹が揺れる松明の光りを浴びてギラリと反射したよ。
各ステータス値が全快している。
「さ~て、……お前ら得意の接近戦、受けて立とうか!」
な……、なんて奴だよ。
戦いを、殺し合いを楽しんでやがる。
生きるか死ぬかの戦いを堪能してやがる。
「キリがないよ、ヒジカタ」
「だよね」
「「「ねーっ!」」」
女の子SSが口を揃えたよ。
そう、SSたちの言う通りキリがない。
俺たちが降伏しても、終わるとは思えない。
死ぬまで終わらない――、
いや、お互い死んでも蘇るから、エインシェントが操作しているだろう、あの天使の輪が注ぐ限り終わらない。
終われない。
終わるのは、彼らが戦いに飽きた時だろうか。
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