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3章
ポーチの中
しおりを挟む数秒で戻ったキキン首都は、キラキラと輝くマリンブルーの海を背景に、
いつもと変わらない中世風の建物が並び、内区と外区を仕切る壁に囲まれたキキン城がそびえ立っていた。
上空から見回しても、モンスターはおろか、戦った痕跡もないけど?
外区から遠く離れ、新しい外壁の足場が着々と組まれていたよ。
「どうなってんだ?」
経験値は入り続けているので、SSたちが戦っているのは間違いない。
1号店『スライムの魚屋さん』に戻ってみたけど、いるのは人間のスタッフだけ。
昨日、産まれた第2期SSスライム20匹も、ポラリス君も、ランちゃんの子供・青ちゃんもいない。
「ミキ師匠ですか? お昼にはいましたけど……」
「ラン師匠が包丁をまな板に置いたままなんて、初めてですよ」
「だよなあ」
店主の店にも顔を出したけど、同じだった。
SSたちは黙って店を出て2時間。誰も戻って来ない。
嫌な予感がする。
リトルデーモンを召喚し、SSたちの居場所を探させる。
「おまかせください、ご主人さまぁ~♪ リトルならあっという間に~」
全長15センチのちびっ子デーモンが、魔法書片手にフォークを振ったよ。
合わせて、疑問に答える機能も使用。
『SSレアスライムたちの居場所が知りたい。
俺のどのスキルを使えば可能か、教えてくれ!』
数秒後。
提示されたスキル『分裂サーチ』を使用し、俺は――。
「リトル、わかりました~♪ 分かっちゃいました~♪」
リトルが亜空間から戻ってきた。
俺の肩にちょこんと着地し、ニコニコ微笑みながら、自信満々に言ったよ。
「SSさまたちは、ツェーン迷宮の最下層にいましたよ~」
「……なっ?!」
なんだって――――!!
「すごいでしょ~、リトル。褒めて褒めて」
「全員なのかッ?」
「はーい」
「ラン、スー、ミキに、ハヤテ、ジン、エース、ちっこいSS20匹もか?!」
「そーです」
「な……なんてこった……」
「ご主人さま?」
最下層はエインシェントのSSSがボスの階層だよ。
なんでそんな場所に、なんの目的で、軽々しく行っちゃったのSSたち?
てか、どうやって行ったんだ。
俺にもSSたちのスキルにも、そんなのないぞ。
「SSたちは苦戦しているのか」
経験値が俺に入るのは、今も戦っている証拠。
「けっこう忙しそうでしたよー」
リトルは亜空間移動出来る。
実際に1000層目の戦場を見てきたのだ。
「怪我は……、まさか死んじゃってないよな」
「皆さん、レベルが上昇しててですねー、死んじゃいないですけど、必死って感じでしたよ」
そりゃ、そうだろう……。
だけど、1000層という限られた領域で、最強レベルのモンスターを相手に、どれだけ保てるか。
いずれボスかボス級の敵に襲われれば、核が傷つき、そして死ぬ。
俺が産まれた洞窟の戦場と同じ。
外界に逃げることも出来ず、ただスライムの触手攻撃を回避して1週間、
あの時扉が開かなければ、核を掴まれた俺は死んでいたよ。
行かないと。
俺が助けに行かないと。
俺が行ってもダメかもしれないけど、
SSSエインシェントに殺されるかもしれないけど、それでも。
疑問解答機能(テロップ)を使用。
『ツェーン迷宮・最下層に俺は行きたいっ。
今直ぐ転移だ。
俺のどのスキルを使えば良い?
教えてくれっ!』
~ ツェーン迷宮・最下層へ転移 ~
該当スキルなし
物理移動以外なし
だろうなあ。
だと思ったんだよね。
ちまちま、ツェーン迷宮1層目から順番に1000層まで行く?
ダメダメ。
時間が掛かるよ。
距離の問題じゃなく、深くなれば成る程、敵は強いはず。
倒せば経験値を得てしまい、1000層到着前に30レベルになったりして。
全敵戦わずスルー出来れば良いけど、厄介な敵スキルに引っかかり足止めを食うかもしれないし。
仕方がない。
リスクはあるけど、非常手段を……。
「リトル、頼みがある」
「はい?」
「突然だが、そのポーチの中に俺を入れてくれないか」
「えっと、えっと、……ご主人さまが入るには、小さ過ぎますよ~、もーやだな~、冗談は」
「冗談じゃない、大真面目だよリトル」
試したことはない。
だけど、試すしかない。
1,まず俺の身体から、3センチメートル四方の分裂個体を1つ作る。
2,ソイツにアイテム収納庫を展開させ、俺自身(本体)が入るわけ。
3,収納庫を閉じてから3センチ個体がポーチに入る。
4,リトルが亜空間を通りツェーン迷宮1000層目に移動した後、ポーチの個体が自身の収納庫から俺を出せばOK。
理屈では可能だけど、実際俺自身が収納庫に入った場合、
俺の意識はどうなるのか?
外の個体を動かせるのか?
など、疑問は残る。
~ アイテム収納庫内の品質 ~
生死を問わず、入れた時の状態で永久保存(詳細)
入れた時の状態で永久保存ねえ。
となると、意識は停止?
~ 入れた時の状態で永久保存 ~
入れた状態、精神、肉体、記憶、すべてが出るまで一時停止
テロップの解答だと『本体が中に入ると意識停止』
つまり、中から外の個体は操作できない――、
終わりだね。
さて、困ったぞ。
ん?
あっと、まてよ。だったら、逆なら可能かな?
リトルの見守るなか、俺は自身の核を身体の表面に移動させたよ。
直径3センチ・薄青色の球形(核)の中心に、黒いビー玉みたいな核小体が見える。
そっと体表から核を浮き出させ、厚さ2ミリ程度のSSS細胞で核の表面を包んで保護したよ。
この3センチの球体が俺の本体。
残ったヒジカタは大きいけど、核なし分裂個体だよ。
核は俺そのもの。
傷つけば俺は死ぬ。
だからと言って安全面を考慮し、核表面のSSS細胞を厚くすれば、リトルのポーチに核がおさまらない。
この状態から、俺(3センチ本体)がアイテム収納庫を展開させ、残ったヒジカタを投入口に入れる。
うん。
大丈夫そうだね、本体が外に居れば。
「さあ、リトル。ポーチを開けてね」
「……は……はい、……あわわわわわ」
どう見てもボールとしか見えない俺から、聞き慣れた俺の声がする。
因みに核は変型できないよ。
リトルがビビリまくっているんだけど。
「開けるだけで良いんだけど……」
リトルが震える小さな手で、ポーチを目一杯広げているよ。
俺は核が傷つかないよう注意しながら、風船みたいにふわふわ宙を移動し、ポーチの中に入ったね。
今敵に襲われたら、あっけなく死ぬよ、俺。
「よーし。ゆっくり閉じてね」
「は……はい……」
「ありがとな、リトル」
もしリトルが、名前の通り悪魔だったなら、ポーチを握り締めるかもね。
それなら、それでも良いかな。
そんな事を思いながら、俺はリトルと共に亜空間を通り、ツェーン迷宮最下層に向かったよ。
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