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3章

神よ その1

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 俺を取り囲んで見下ろしているのは、全長20メートルの人間タイプのモンスターだ。
 頭の両サイドにぐるぐる巻いた山羊の角があり、全身真っ白い体毛で覆われている。

 武器(道具)は持っていないが、肩から腕が2本づつ、合計4本あり、そのうちの2本の指が槍先のように鋭いよ。
 
 ビンソンが、マナスル山脈のレベル100越えモンスターを転移させる、と言っていたけど。

「全部で10体……」

 建物の中のビンソンが鼻で笑った。

『カシアシのやつ、本当にやりおったぞ。
 コイツの負けん気が、たまらなく良いのお~。
 このワシには指一本たりとも抵抗できない口惜しさ。歯がゆさ。
 ほれほれ、ワシを睨んでおるわい。
 今夜あたり、ベッドでヒーヒー言わせてやろうか、
 ウヒヒヒヒヒ……』

 カシアシの顔が真っ青なんだけど。
 激しい咳をした後、押さえていた手の平に黒い血が付いていた。
 
『こいつらの転移技は、1体転移させるたびに、己の内蔵を激しく傷つける。
 諸刃の剣。地獄の技よ』

「よくやったぞ、カシアシ」

 たまには、褒めてやらんと奴隷精神が育たんからな。
 自分には、このワシ――、ビンソン様しかおらん、目に入らんようにする。
 アメとムチよ。

「……、……」

『無視か……。まあよい。調教のしがいがあるわ、ウヒヒヒ』

 ビンソンの心に耳を傾けていたら、虫酸が走ったね。
 酷い話しだよ、まったく。

 3姉妹たちは、抵抗したいだろうなあ。
 ビンソンの顔面を、ぶん殴ってやりたいだろうね。
 いや、ご両親の事を考えると、ビンソンに頼るしかない、そう思っているんだ。
 
 どうする。
 俺が3姉妹に事実を教えても、200メートルも地下の秘密基地に潜入してきたモンスターの話しなんか、どうせ信用しないだろうし。
 
「ガオオオウウウ――ッ!!」

 おっと、意識を建物の中にばかり向けていたから、山羊さんたちに怒られたよ。

「ごめんごめん」

 山羊さんの鋭い爪が飛んできたね。
 サイドステップでギリギリ躱す。
 モンスター10体がザクザク刺そうとするけど、全て躱しておいた。
 
 ああ、この山羊さんたちは、たしかにレベルは100越えなんだけど……。


 ―――――――――――――――――――

 ヒュー・ゴアゴール LV 103
 
 生命力 859/885    

 攻撃力  912  
 素早さ   195  
 知能     163 
 運        94 

 ―――――――――――――――――――


 生命力と攻撃力共に、SSのエースとほぼおなじ。
 まあ、所詮はノーマルモンスターだね、100レベでも大したことはないよ。

 山羊さんたちは、突き刺し攻撃を止め、両手で俺を捕まえにきたぞ。
 
 なにやっても同じだって。
 ビトくんが、『逃げたほうが良いです』と言ってくれたけど、山羊さんたちのパワーを受けてみたね。
 
「ゴオオオオオオオオオオォォ!!」

 俺を鷲掴みした山羊さんが、嬉しかったんだろうな、咆哮を上げたね。
 握り潰すつもりなんだろうか、いや、それにしても、圧力が加わらないぞ。

「オオオオオオオオオオォォ!!」

 何体もの山羊さんが俺に手をかぶせてくる。
 なにが、したいわけ。
 
「もう、殺りおったわい」

 建物の中、カシアシの背に手を置いたビンソンが、喜んでいるんだけど?

「あれが、手強いモンスターか?
 ゴアゴールに掴まれて、生きた生命はいない。最強よ、あれは」

 そうなんだ。
 この山羊さんたちは、俺を攻撃しているんだ。

 でも……なんだろう……。
 そういや、なんとなく、デーモンとシッポ接続のような感覚が――、
 以前、デーモンの働きに、生命力で精算した事があったけど、あれと同じような感じがするね。

 自分のステータスを確認してみたら、生命力値がどんどん減少していたよ。
 
「ゴアゴールは相手の生命力値を吸い取り、自分のエネルギーに変換する」

 へー、斬新な能力。
 凄いなあ~。

「……むっ?」

 最初に俺を掴んだ山羊さんが俺を放し、よろよろ後ずさりして、ズーン! と地響きを鳴らして尻もちをついたよ。
 よく見たら、白目を剥いて、口から泡を吹いているぞ。
 自爆した?

 ステータスを見たら、生命力の部分に『 ERR 』と表示されていた。 
 許容量を越えて吸いすぎ、故障したのかな?

「あ……、ありえん。あり得るわけがないッ!
 ゴアゴールは、あのエインシェントすら倒したのだぞ?! 
 あの小さな人型モンスターが、エンシェントより強いとはとても思えないッ」

 ビンソンが言っている『エンシェント』とは、SSのことを指しているんだろうね。
 
「どうして、……どうしてかしら」
「わからない……。ただ、エンシェントの生命力より、アレが圧倒的に高い。それしか考えられないわ」
「キキンのスライム。
 たしか、キキン国で、スライムがエンシェントを倒したと聞いたわ」

 3姉妹たちがざわめいているね。

「ただの噂――――。
 最弱のスライムが、最強ドラゴン・エンシェントに勝つ、なんて面白いから、ただのデマが大きくなり広がっただけ、と思っていたけど。
 噂ではなく、本当にエンシェントを葬ったとしたら、
 あの人間タイプのスライムが、キキンのスライムだったとしたら――」

 ゴクッと姉妹たちが固唾を飲んだよ。

「バカ者ッ!」

 ビンソンの激で、姉妹がビクッと身震いした。

「いいか冷静になれ。
 ヒュー・ゴアゴールは最大で10万の生命力を吸う。
 しかも今、10体もいる。最大で100万も吸収可能だ。
 普通、どうやっても勝つだろう。
 あのモンスターは確かに凄いが、100万も生命力があるはずがない」

 そうなんだ。
 あ~だから、山羊さんは生命力2万3千のSSレアエンシェントを倒せたんだね。

 因みに俺は、えーと、ん?

 桁が多くて、わかりにくいなあ。

「そう言われれば……」
「ビンソン様、流石でございます」

「うむ。分かればよい。まあ、見ていろ、いずれ命が尽きるわい」

 俺の生命力値だけど、1億6千万と、無駄に高かったね。

 2体、3体と山羊さんが倒れ、カニみたいに口から泡を吐き出しているよ。
 それでも俺を掴んだまま吸うのを止めない山羊さんたち。
 残り5体。

「大丈夫でしょうか、ビンソン様」

「じ……、時間の問題よ……」

 ビンソンの声が震えているね。 


 
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