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3章

青白い空間 その2

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 とは言え、初めての空間は何か仕掛けがあるかもしれないね。
 SSSレアだからって楽観したら命取りだから、分裂個体を先に偵察させる事にしたよ。
 体表の一部を焼いた餅みたいに膨らませ、3センチのサイコロになるよう分離する。

 ぷっつん。
 ぷっつん。
  ・
  ・
  ・
  ・

 10個もあればじゅうぶんかな。
 それを触手で握り、建物に向けて投げたね。
 他にも天井の岩盤、壁穴など、気になる場所に投げて情報収集だ。

 因みに、個体は豪速球で飛んでいるよ。
 プロ野球のキャッチャーでも捕球できないんじゃないかな。
 
 建物を貫通したり、壊したらダメなので、個体を落下傘状にして減速させ、着壁前にグミ状にし、そっと静かにくっつけたよ。 
 建物は周囲と同じ岩盤で出来ていて、窓も入り口もないんだけど。
 まるでオブジェだなあ。

「あの中にいるんだよねえ~」

「……はい」

 ビトくんの野生のカンを信用しよう。

 個体を尺取り虫タイプにして、ちょろちょろ動き回ったら、通風口を発見したね。
 さっそく侵入すると、明るい部屋に出たよ。

 ソファーにあぐらをかいたビンソンが不満そうに鼻を鳴らし、コーヒーカップを傾けていた。
 その前にアローズ館の美人3姉妹が一列に並び、深刻な顔で俯いている。
 説教されてるみたい。 

「検体はどうしたッ、検体はッ?!
 確保しろと命令しただろうが!
 しかもだ。選りに選ってワシをこんな場所に連れてくるなど、他に策は無かったのか?!」
 
「「「申し訳ありませんッ!!」」」

「謝る前に、ワシに確認をとれッ!
 何度言えば分かるんだ。
 せっかく能力を授けてやったのに、3人とも揃いも揃って無能とは……」  

「お言葉ですが、あのモンスターは強敵でして」
「そうです! これが最善。もし応戦して――「勘違いするなッッ!!」

 3姉妹がビクッと硬直したよ。

「勘違いするなと言っているんだ。
 お前らの意見など聞いていない。
 黙って仕事をしろ!」

「……」

「なんだ……、その目は。不満か、カシアシ?」

 ビンソンが飲みかけのコーヒーを、右側の姉妹に投げつけたよ。
 頭から被ったカシアシは、滴るのを拭いもせず唇を噛む。

「……いえ」

「……、なら、聞くがお前らの仕事はなんだ?!」

「「ビ、ビンソン様をお守りすること、です」」

「分かっているじゃないか。
 そうだ。ワシを守ることだ!
 相手が人間だろうとモンスターだろうと、ワシに有害なら殺すッ!
 命と引き換えても倒す!
 単純だ。分かりやすい」
 
「「「ハイッッ!」」」

 へ~、ビンソンって、スパルタだなあ。
 どんな事を考えながら喋っているのか、裏の思考を覗かせてもらおうかな。

 分裂個体を、3姉妹に見つからないよう慎重に、壁から床へ這わせる。
 あの姉妹は、オブラート状にして天井と同化した俺に気が付くくらいだから、5感が相当鋭いよ。
 
 よーし、ビンソンの座るソファーについたぞ。
 流石に3センチだから分からないよね。
 足元からのぼり、刺激しないようそっと密着したよ。
 ビンソンが言わない、裏の声が聞こえてくる。

『しかし、こいつら(3姉妹)、本気で両親が難病にかかったと思っていやがる。
 ワシが飲ませた種の副作用とも知らずに……バカよのう』

「誰がお前らの親の薬代を、面倒をみていると思っているんだ?」

「ビンソンさまで、ございます」

「そうよ。ワシよ。
 不治の病と言われるお前らの親を、ワシの家で、ワシの金で看病しておる。
 わざわざ、お前らの為に新薬の開発もさせておる」
   
『種を食事に混ぜ、こいつらにも食べさせたら、偶然当たりを引きやがった。
 まあ、ワシから能力を授かったと思い込んでいるがな』

「感謝しておるのか?」

「「「当然でございます!」」」

「うむ」

 種ってなんだろう。
 ビンソンの思考からして、種には毒素があり、姉妹の親はそれが原因で病にかかり、3姉妹だけ運良く能力者になれた。そんなところか。

 ヒトミさんがいれば、ビンソンの心の中が丸わかりなんだけどなあ~。

「まあ、よい。せっかく、ここに来たのだ。
 のう、カシアシ。のうシキアキ、イヒヒヒヒ……」

 ビンソンが嫌らしい薄笑いを浮かべ、舌で唇を舐める。
 3姉妹が目を伏せて唇を震わせた。

「よいぞ。さあ、奉仕させてやる。
 今日の一番の褒美はカシアシに与えようぞぉ~、イヒヒヒ」

「わ、わたしが……?」

 戸惑い、顔を横に振っていたカシアシは、他の姉妹に囁かれ肩を落としたよ。

「……あ、はい。……ありがとうございます……」

「うむ。では参れ」
 
「奉仕、ありがたき幸せでございます」
「感謝して、頂戴します」

 他の姉妹たちも全然ありがたそうにない、むしろ気だるく、落胆し、逃げ場のない子犬のよう。
 3姉妹は、悲しそうに上着を脱いでゆく。

 二十歳の美女2人が、50過ぎのおっさんビンソンを挟むように座ったけど、
 これが、奉仕?

 更に美女たちはビンソンの衣服を脱がしてゆく。
 残ったカシアシが泣きそうな顔でビンソンの膝の前でしゃがみ手を伸ばす。
 露わになった下半身を……。

 待て待て待て待てーっ!

 褒美って、そうなのおおおおお??
 そういうことなのおおおおお??
 つまるところ、美人3姉妹と、よんピィィィィ?? 
 
 なんて羨ましい――、
 ではなく、酷いことをッ!

 みだらな行為をさせるわけにはいかないッ!
 性暴力反対!

「ギャアア――――ッッ!!」

 ビンソンが悲鳴を上げ、事に及ぼうとしたカシアシを足蹴にしたよ。

「ど、どうされましたっ!?」

「あ、脚がっ、脚がっ!」

「「「脚?」」」

 尻もちをついたカシアシは、残りの姉妹と顔を見合わす。

 はい。
 俺が針状にした触手で、ビンソンの脚を突き刺したからね。貫通だね。 
 今までさんざんやったんだと思うと、弄んだんだと思うと、ヌルいくらいだよ。

 ビンソンが右脚を調べるけど、俺がSSS細胞で治したから傷痕はないよ。

「……ビンソンさま。せっかくですが、侵入者です」
「さきほどのモンスターです!」
「この地下まで来るなんて」

「なにっ!?」

 ビンソンは慌てて服を着はじめる。

 俺(本体)はキューブ状の建物に到着していた。
 ちょうど20メーター前方の空間に、ビシッと亀裂が走り、そこから赤黒い毛むくじゃらの人間タイプが出現したよ。

 ビンソンがカシアシの背中に手を置く。

「あれが、お前たちが言う手強いモンスターか」

『ただの人間のようにしか見えないが』

「……はい」

「よし! ちょうど良いじゃないか。あれを試すのに」

「あれ、……ですか」

『この空間はマナスル洞窟100層と、姉妹の作る時空門で繋がる』

「マナスルのレベル100越えモンスターを転移させて襲わせる。
 どうだ? 名案だろう」

「「流石でございます……」」

「さて、誰にやらせるか――」
 
 びくびくする3姉妹を、ビンソンが楽しそうに見やる。

「うむ。カシアシよ、お前がやれ」

『こいつは、なにかと反抗的だからな』

「10体だ」

「……じ、10も……」

「不服か、カシアシ」

「いえ、命令通りに」

「面白いショーが見れそうだ。ハハハハ」

 ゆらゆらと立つ人間タイプの後ろの空間に、5メーターの亀裂が走ったよ。
 ひし形に開き、そこから、身長20メーターの山羊の頭部をした人間タイプ(レベル100~120)が、どろどろどろ、と出てきた。 

 なんか、凄いモンスターみたい。

「ちょっと、戦ってみようかな」

 ダッシュしようと身構えたら、俺の前にビトくんが現れ両手を広げた。
 
「えっと、どうしたんだ」

「……」

「戦うな、と言いたいわけ?」

 こっくん、するビトくん。

「あのね、自慢じゃないんだけど、俺はあれよりデカくて強いSSレアエンシェントをソロで倒してるんだけど、ビトくんも見てたから知ってるでしょ」

「……」
 
 ビトくんは首を左右に振る。
 ダメだよ。どうあっても俺を戦わせたくないみたい。
 なんで?


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