139 / 182
3章
囚人
しおりを挟む「勝手なことしちゃダメなのにーい!」
真っ先に言ったのはランちゃん。
SSたちの中で、1番勝手気ままな行動をしてきたんだけどね。
他のSSたちは不満というより、エース自身を心配しているみたい。
人間社会で生きるか、スライムとして生きるか、
多かれ少なかれ、SSたちは皆、物心ついた時から人間社会で生きている。
俺好みの生き方に巻き込ませているわけだ。
子が親を選べないのは人間も同じ。
SSたちは俺からスライム本来の生き方を禁じられ、違う種(人間)を真似て生きているんだよね。
人間の記憶が残っている俺が、ノスタルジックな気持ちで、かつて人間だった頃に心惹かれ、思いを馳せて人間社会で暮らすのとはワケが違う。
SSたちにとっては――、特にエースにはストレスだったんだろうな。
ランちゃんは、青ちゃんやアンフィニ大司教さんがいるし、明るい性格だから、むしろこの生活を楽しんでいるみたいで、たぶん大丈夫だと思う。
スーちゃんにしてもミキちゃんにしても、寿司職人の道を極めたいみたい。
俺たちがスライムだとバレた後でも、寿司屋の売上が減少しても、関係なしに新商品を考案しているよ。
ハヤテはアハート秘書の仕事に打ち込んでいるみたいだし、ジンは魚屋家業。
とにかく、何でも良い、打ち込めるものがあればいいと思う。
「エースは好きにさせておくよ。
もう大人なんだし」
「「えーっ?!」」
SSたちが驚いたよ。
決め事を強制している俺が言うセリフじゃないからね。
でもそれは、SSたちがまだ幼かったから(今も生後1年にも満たないんだけどね)
「エースはじゅうぶん大人だよ。もちろん君たちもね。
俺は何もいわない。
絶縁したわけじゃないよ。
怒ってもないし。
ただし……、困った時は、気軽に遠慮せず俺に助けを求めて欲しいかな」
打ち込めるものが人間社会に無いのなら。
エースが考えて、スライムとして生きてゆくと決めたのなら、それで良いと思うね。
「ヒ、ヒジカタ……」
「お、お父さん」
SSたちが人間の顔のまま微笑んだよ。
感情が表情と完全に同調している。
一日中、人間の姿だからだ。
もうみんな立派な人間だよ。
突然、壁をノックする音が対面から届いた。
そこには、緊張した面持ちの自衛軍5名を従えたロアンくんがいた。
「お迎えにきましたよ、ヒジカタさん」
「お迎え……」
意味が分からないよ。
「事情聴取です」
「事情聴取?」
はて、俺か俺に関係する何かがキキン国の法にふれたのかな。
穏やに愛想笑いするロアンくんとは対照的に、後ろの自衛軍は怒ったような顔をしているんだけど。
ランちゃん他、SSたちがムッとしたね。
即座にロアンくんが笑顔で説明を始めたよ。
「あ、いえ、事情聴取と言っても形式的なものですから。
ヒジカタさん家族が全員スライムだったのに、国が何も処置しない、行動を起こさないわけにはいかないので。
それに全員ではなく、ヒジカタさんだけ代表で城に来てもらいます」
「なんで、お父さんだけ?!」
「そうよ、そうよ!」
「きゅーきゅー!!」
皆が騒ぎ出したら、後ろの自衛軍が引きつった顔で後ずさりしたよ。
SSたちの戦いぶりを見たんだろうか。
「ヒジカタさんは強い。
キキン国全軍隊、いや、近隣のアゼン国、ロアロク国、ケズカラ国の軍隊が束で攻撃しても敵わない強さです。
そんな――」
ロアンくんが言い淀む。
「そんなモンスターがキキン国の一角に住んでいる……。
住民が製紙猫を飼っていたり、スライムをペットにしているのとはワケが違います」
「俺を野放しにしたままには出来ないわけね」
「……いえ、そうではありません。
キキンをモンスターから救ったヒジカタさんの功績は大きく、国王以下、皆が感謝しています。
ですが国として、国民に何も示さないと反感を買うので、
だから、ヒジカタさんを一度城に連行、3日間の事情聴取の後、
国から正式に、『ヒジカタさん家族をキキン国民として迎え入れた』と発表する予定です。
異論する国民もいるでしょうが、国がヒジカタさんを認めたわけですから」
「なるほど」
今のままより良いね。
キキン国も俺の扱いでずいぶん悩んだわけだ。
◆
俺はロアンくんに先導、自衛軍に包囲されてキキン城に向かったよ。
道中、キキン住民たちが、「やっぱり……」などと、犯罪者を見るような視線を浴びせてくるね。
だから、逆に俺は普段通りに、むしろ堂々と手を上げて挨拶したら、住民たちが面食らってたよ。
「そうそうロアンくん。実はね、
さっき魚市場に行ったんだけど、
そこでヘビ型モンスター『べーゼ・ラミア・キング』を見つけたよ」
重要な事だから言っておかないと。
あれは地上のモンスターじゃない、絶対に。
「問題はレベル。54~60だった」
「60……」
ロアンくんと自衛軍が眉をよせる。
そう、俺が知るかぎり、地上のモンスターは強くてせいぜいレベル30まで。
40とかあり得ない。
レベルは獲得経験値の累計でアップする仕組みだけど、地上は獲得経験値の少ないモンスターばかりだから、高レベルモンスターが育たない。
つまり、ツェーン迷宮とか、未知の巣窟からのモンスターだったりする可能性が高い。
「ヒジカタさんの他に、ラミア・キングを目撃した人はいますか?」
「え。……まあ、居合わせた市場の者が数名」
「そうですか……。
その件に関しては、極秘にしていただくよう、お願いします。
不用意に国民の不安を煽るだけですから」
やけに冷静なロアンくん。
「……なるほど。
もしかして、自衛軍は把握していたんですか?」
「はい。同様の報告が他にもありまして、現在調査中です」
そうだったのか。
「やっぱり、ツェーン迷宮内のモンスターなの?」
「申し訳ないヒジカタさん。
今は、話せないです」
ロアンくんの身体に触れて心を読むことも出来るけど、国が俺に協力依頼してこないわけだし、
他の事件は自衛軍たちで収めたみたいだし、わざわざ俺が首を突っ込む必要はないみたい。
◆
内区に入る大門を通過しキキン城に入る。
取り調べ室で話しをするのかと思ったら、地下に連行され、ロアンくんが薄嫌い小部屋の鉄格子を開けたよ。
「入るわけ?」
「申し訳ないです、ヒジカタさん。
ここで3日間、じっとしてて下さい。それで終わりです」
「まあ、いいけど、ここは牢屋だよね」
「はい……」
「取り調べは?」
鉄格子を挟んで行うと言う。
4畳ほどの小部屋は総石作りで、明かりは廊下のランタンしかなく、出口は5センチメートル間隔で遮られた鉄格子扉しかないよ。
人間の囚人なら絶対に出れない完璧な牢屋だろうけど、身体を変形できる俺には拘束の意味をなさないんだけど。
ガシャーン! と鉄格子が閉められ施錠された。
0
お気に入りに追加
776
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました
うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。
そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。
魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。
その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。
魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。
手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。
いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる