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3章

囚人

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「勝手なことしちゃダメなのにーい!」

 真っ先に言ったのはランちゃん。
 SSたちの中で、1番勝手気ままな行動をしてきたんだけどね。
 他のSSたちは不満というより、エース自身を心配しているみたい。

 人間社会で生きるか、スライムとして生きるか、
 多かれ少なかれ、SSたちは皆、物心ついた時から人間社会で生きている。
 俺好みの生き方に巻き込ませているわけだ。
 子が親を選べないのは人間も同じ。
 SSたちは俺からスライム本来の生き方を禁じられ、違う種(人間)を真似て生きているんだよね。
 人間の記憶が残っている俺が、ノスタルジックな気持ちで、かつて人間だった頃に心惹かれ、思いを馳せて人間社会で暮らすのとはワケが違う。
 SSたちにとっては――、特にエースにはストレスだったんだろうな。
 
 ランちゃんは、青ちゃんやアンフィニ大司教さんがいるし、明るい性格だから、むしろこの生活を楽しんでいるみたいで、たぶん大丈夫だと思う。
 スーちゃんにしてもミキちゃんにしても、寿司職人の道を極めたいみたい。
 俺たちがスライムだとバレた後でも、寿司屋の売上が減少しても、関係なしに新商品を考案しているよ。
 
 ハヤテはアハート秘書の仕事に打ち込んでいるみたいだし、ジンは魚屋家業。
 とにかく、何でも良い、打ち込めるものがあればいいと思う。

「エースは好きにさせておくよ。
 もう大人なんだし」

「「えーっ?!」」

 SSたちが驚いたよ。
 決め事を強制している俺が言うセリフじゃないからね。
 
 でもそれは、SSたちがまだ幼かったから(今も生後1年にも満たないんだけどね)
 
「エースはじゅうぶん大人だよ。もちろん君たちもね。
 俺は何もいわない。
 絶縁したわけじゃないよ。
 怒ってもないし。
 ただし……、困った時は、気軽に遠慮せず俺に助けを求めて欲しいかな」

 打ち込めるものが人間社会に無いのなら。
 エースが考えて、スライムとして生きてゆくと決めたのなら、それで良いと思うね。

「ヒ、ヒジカタ……」

「お、お父さん」

 SSたちが人間の顔のまま微笑んだよ。
 感情が表情と完全に同調している。
 一日中、人間の姿だからだ。
 もうみんな立派な人間だよ。
 
 突然、壁をノックする音が対面から届いた。
 そこには、緊張した面持ちの自衛軍5名を従えたロアンくんがいた。
 
「お迎えにきましたよ、ヒジカタさん」
 
「お迎え……」

 意味が分からないよ。

「事情聴取です」

「事情聴取?」

 はて、俺か俺に関係する何かがキキン国の法にふれたのかな。
 穏やに愛想笑いするロアンくんとは対照的に、後ろの自衛軍は怒ったような顔をしているんだけど。

 ランちゃん他、SSたちがムッとしたね。
 即座にロアンくんが笑顔で説明を始めたよ。

「あ、いえ、事情聴取と言っても形式的なものですから。
 ヒジカタさん家族が全員スライムだったのに、国が何も処置しない、行動を起こさないわけにはいかないので。
 それに全員ではなく、ヒジカタさんだけ代表で城に来てもらいます」

「なんで、お父さんだけ?!」
「そうよ、そうよ!」
「きゅーきゅー!!」

 皆が騒ぎ出したら、後ろの自衛軍が引きつった顔で後ずさりしたよ。
 SSたちの戦いぶりを見たんだろうか。
 
「ヒジカタさんは強い。
 キキン国全軍隊、いや、近隣のアゼン国、ロアロク国、ケズカラ国の軍隊が束で攻撃しても敵わない強さです。
 そんな――」

 ロアンくんが言い淀む。

「そんなモンスターがキキン国の一角に住んでいる……。  
 住民が製紙猫を飼っていたり、スライムをペットにしているのとはワケが違います」

「俺を野放しにしたままには出来ないわけね」

「……いえ、そうではありません。
 キキンをモンスターから救ったヒジカタさんの功績は大きく、国王以下、皆が感謝しています。
 ですが国として、国民に何も示さないと反感を買うので、
 だから、ヒジカタさんを一度城に連行、3日間の事情聴取の後、
 国から正式に、『ヒジカタさん家族をキキン国民として迎え入れた』と発表する予定です。
 異論する国民もいるでしょうが、国がヒジカタさんを認めたわけですから」

「なるほど」

 今のままより良いね。
 キキン国も俺の扱いでずいぶん悩んだわけだ。
 

 ◆


 俺はロアンくんに先導、自衛軍に包囲されてキキン城に向かったよ。
 道中、キキン住民たちが、「やっぱり……」などと、犯罪者を見るような視線を浴びせてくるね。
 だから、逆に俺は普段通りに、むしろ堂々と手を上げて挨拶したら、住民たちが面食らってたよ。

「そうそうロアンくん。実はね、
 さっき魚市場に行ったんだけど、
 そこでヘビ型モンスター『べーゼ・ラミア・キング』を見つけたよ」

 重要な事だから言っておかないと。
 あれは地上のモンスターじゃない、絶対に。

「問題はレベル。54~60だった」

「60……」

 ロアンくんと自衛軍が眉をよせる。

 そう、俺が知るかぎり、地上のモンスターは強くてせいぜいレベル30まで。
 40とかあり得ない。
 レベルは獲得経験値の累計でアップする仕組みだけど、地上は獲得経験値の少ないモンスターばかりだから、高レベルモンスターが育たない。
 つまり、ツェーン迷宮とか、未知の巣窟からのモンスターだったりする可能性が高い。

「ヒジカタさんの他に、ラミア・キングを目撃した人はいますか?」

「え。……まあ、居合わせた市場の者が数名」

「そうですか……。
 その件に関しては、極秘にしていただくよう、お願いします。
 不用意に国民の不安を煽るだけですから」

 やけに冷静なロアンくん。

「……なるほど。
 もしかして、自衛軍は把握していたんですか?」

「はい。同様の報告が他にもありまして、現在調査中です」

 そうだったのか。
 
「やっぱり、ツェーン迷宮内のモンスターなの?」

「申し訳ないヒジカタさん。
 今は、話せないです」

 ロアンくんの身体に触れて心を読むことも出来るけど、国が俺に協力依頼してこないわけだし、
 他の事件は自衛軍たちで収めたみたいだし、わざわざ俺が首を突っ込む必要はないみたい。
 

 ◆

 
 内区に入る大門を通過しキキン城に入る。
 取り調べ室で話しをするのかと思ったら、地下に連行され、ロアンくんが薄嫌い小部屋の鉄格子を開けたよ。

「入るわけ?」

「申し訳ないです、ヒジカタさん。
 ここで3日間、じっとしてて下さい。それで終わりです」

「まあ、いいけど、ここは牢屋だよね」

「はい……」

「取り調べは?」

 鉄格子を挟んで行うと言う。
 4畳ほどの小部屋は総石作りで、明かりは廊下のランタンしかなく、出口は5センチメートル間隔で遮られた鉄格子扉しかないよ。
 人間の囚人なら絶対に出れない完璧な牢屋だろうけど、身体を変形できる俺には拘束の意味をなさないんだけど。
  
 ガシャーン! と鉄格子が閉められ施錠された。

 

 
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