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3章

外壁計画と割り込み

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 魚屋《ヒジカタ》の閉店時間。
 3階の事務所の長椅子に座り、俺はエースと遅れて帰宅したハヤテと一緒に、キキン茶を啜っているよ。

「売りたがらない大地主か……」

 外壁建設予定地付近の土地を持つ大地主は、土地を手放すのが嫌で、どうせ売るなら少しでも高く売りたがる――。
 あたり前だけどね。

 前任者ピンソンは、悪どい手法(脅迫、暴行、それでもダメなら暗殺)で土地を地主から奪ったらしいけど、
 アハートさんは真っ当な交渉なので、アハートさん自身が買い上げたのは、現在ゼロ。
 買い取り予定地をあと8分の7も残し、ビンソンの時以上にプロジェクトは進んでいない。
 
「一週間後、外区外壁の建設発表を行うそうです」 

「へー、大胆だなあ。土地の確保はまだなんだろ?」

「……はい。アハートさんは反対したのですが、広報が強引に」

「具体的な場所は出せないよなあ。まだ地主から買い取ってないんだから。イメージだけだろうね」

「たぶん……」

「建設発表して、もし計画が頓挫したら……、そうでなくとも、建設完了予定より大幅に遅れたら……、責任は全部アハートさんになる。大丈夫だろうか」

「わかりません……」


 ◆


「ヒジカタ! 国王の命令であるぞ!」

 翌日のお昼どき。
 1階魚屋店舗の前から、昨日以上になが~い列が出来ていた。
 
「聞こえないのか、ヒジカタよ!」

「はいはい、ちゃんと聞こえてますって。うなぎの蒲串30ですよね」

 行列の2人に1人は昨日買ってくれたお客さんだよ。
 美味しかったんだろうね。また買いに来てくれたんだ。
 
 おかげで、準備していた蒲串800が3時間で売れ切れてしまい、昨日同様に、『焼き』が『売れ』に間に合わない状態。 
 
「急いでおるぞ。その焼き上がった串を早く我らによこせ」

 たくさん並べた蒲串が良い匂いをさせる焼台の前、
 城内勤務者特有のシーグリーン色の軍服兵2名が、行列の先頭に割り込んできたよ。
 蒲焼きの噂を耳にしたキキン国王が、部下を買いに寄こしたわけだ。
 
 列のお客さんたちが、嫌な顔をするけど黙っている。
 まあ、文句が言えるわけないよね。
 相手は兵士だし。
 仕方が無いなあ、俺がビシッと言ってやるかな。
 
「あのですね~。悪いけど、後ろに並んでくれない?」

「……だ、誰に言っておる?!」

「目の前の兵隊さんだけど」

「わ、我らに、……う、後ろだとッ?!」

「そうそう。みんな並んで順番に買ってるんだから、2人も列に並んでね。最後尾は……えーと……」

 見えないなあ。
 
「並べるかっ! 国王が待っておられるんだぞ!」

「うちのお客さんも待ってるんだけど。
 それに、割り込んで蒲焼きを買ったと国王が知ったらどうなんだろう」

「むぐぐぐぐ」

「蒲焼きは買っても、国民の不満は買わないほうが良いと思うよ」

 後ろの方で「うまい!」と誰かが言ったよ。

「誰だ! 今笑ったのはッ!!」

「はいはい。買わないなら、商売の邪魔しないでね~」

「き、きさま……、我らは国王の命令で来たのだぞ!」

「知ってますよ。蒲串を買って来いって言われたわけでしょ? 
 でも、行列に割り込んで買って来いとは言ってないでしょ?
 そういう事。
 だからね、ほら、早く列に並ばないと、どんどん買うのが遅くなるよ」

 キキン兵がブツブツ言いながら、列を辿って後ろへ向かったね。

 
「やれやれ」


 ◆


 うなぎ蒲焼きの結果。
 
 前日を上回る2000尾が売れたね。
 ベーゼ蒲焼きも好調だったんだけど、在庫が乏しくなってきたので販売中止。
 貴重なベーゼだから売らなきゃよかったかも。

 他にも、穴子の蒲焼き丼が150パック。
 炊きたてご飯が250パック売れたね。
 
 日本米のアピールにもなったし、来週から2階の寿司屋キャンディーズのメニューにうな丼と穴子丼を加えよう。

 しかし、この調子で売れ続けると、うなぎ3万尾の在庫が半月で底を突くぞ。
 それに、蒲焼きの売れ行きを知った同業者がパクリだすだろうから、うなぎの引き合い(市場でうなぎが売れ始めて価格上昇)が強くなるだろうね。
 キキン魚市場だけじゃ需要に追いつかなくなる。

 アゼン国、ロアロク国、ケズカラ国の魚市場にも買い出しに行ってみるかな。
 あちこちの漁師に、うなぎを獲るよう依頼もしたほうが良いだろうね。

 うなぎの焼台を4台に増やし、
 2階の寿司店舗から2名、1階の魚屋から2名抜いて蒲焼き専属のスタッフにしたよ。
 リーダーにランちゃんを抜擢し、ドルンくんを加えた6名を蒲焼きチームとしたね。
 
「美味しそう」
「きゅーきゅー」

 ランちゃんが、うなぎを焼きながら、食べなきゃいいけど。



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