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3章
ビンソン
しおりを挟むアハートさんたちが城に向かった後、直ぐにエースだけ戻ってきたよ。
ビンソンがロアロク国の首都に駐在し、キキン国との友好を深める役職についたと言う。
「あれだね、親善大使みたいな」
ロアロク国はキキン国の首都から3000キロメートル北東にある隣国。
3000キロメートルと言えば、日本国土(沖縄から北海道)の長さ同じ、けっこう離れているよ。
オーラ紀元712年から812年まで続いた100年戦争で、ロアロクに国土の4分の1を侵略され、現在も国境線はそのまま。
50年前に平和協定を結んで以後、両国に争いは無いが、ロアロクは近年経済が活発化しているキキン国に対し、不利益な経済政策を要求するなど、両国の関係は微妙。
「ビンソンが農林水産大臣のポストを辞退し、自分からわざわざロアロク国のキキン大使館勤務に志願したそうです」
「そうなんだ……だけど、なんでそんな任務に」
「昨夜キキン国王が許可し、すでにビンソン当人は早朝ロアロクに向かったそうです」
行動が早いな。
早すぎる。
「ビンソンの後継者はキキン国王に委ねられたそうです」
ビンソンの住居は、現在どうなっているんだろう。
内区箱型部分の最北、1平方キロメートルの森林区域の中にビンソンが住む城がある。
「ちょっと見てくるね」
エースを残し、ジャンプして飛行。
上空から見えてきた塀で囲まれたギイン家敷地100平方メートルに人影はないね。
降りて探索したところ、城門ほか、全ての入り口に施錠がされ、窓から中を覗いたら、引っ越しの後のように家財道具が無かったよ。
ギイン家総員、召使いや馬も含めて、ロアロク国に移したみたい。
もう、キキンに戻らないつもりだろうか。
いや、戻る戻らないとかじゃなく、800年前から続いているギイン家の土地や城に想いがあるだろう、誇りがあるだろう。
ギイン家の伝統をビンソンが断ち切ったようなものじゃないか?
アハートさんがキキン城の元ビンソンの部屋(今後、アハートさんの職場になる予定)に行くと、
祝いの花束と酒樽、贈答用の金の剣と金の鎧、いつ調べたのかアハートさんの身体に合わせたフォーマル、カジュアルそれぞれの服が10着づつ用意されていたそうだ。
すべて、ビンソンが後任のアハートさんに送ったもの。
ビンソン自身が愛用していた大量の文献も残されたままで、『どうぞご自由にお使い下さい、アハート・ロダン様』とメッセージまであったという。
ビンソンはじゅうぶん俺たちを調べたのだろう。
冷静に分析判断した後、相手にするべきではない、
勝ち目がない戦いは、するべきじゃない、
そう結論づけたのかもしれないね。
だから、俺と関わり合わないつもりで、遠いロアロク国に一族ごと移したのだろう。
受け入れ体勢もあったのかもしれないけれど。
それでも、プライドを捨て、思い切った決断だと思う。
決断だけでなく、実行も早い。
ビンソンは、伊達にキキン国を影で支えてきたギイン家のトップじゃなかったわけだ。
残されたメッセージはビンソンからの白旗みたいなもんだろうね。
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